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古橋亨梧
スコティッシュ・プレミアリーグの名門セルティックに入団した古橋亨梧が止まらない。
11月7日に行われたダンディー戦では前半19分に右からのクロスを頭で合わせて1点。さらに、50分には自身の2点目を決め、チームの4対2での勝利に貢献した。今シーズン、これで公式戦13点目だという。
これは驚異的な数字だろう。
もちろん、スコットランドの各チームの守備力は、いわゆる3大リーグや5大リーグと比べれば低いのかもしれないが、とにかく毎試合のようにゴールを決め続けるというのは驚くべき才能だ。
古橋は、Jリーグ時代から俊足を飛ばしてスルーパスに合わせてゴール内にボールを送り込む技術が高い選手だったが、最近、その動きにはキレが増し、そのコース取りなどについても何か特別なものをつかんだようにも見える。
ダンディー戦の1点目のヘディングにしても、ゴール前でのほんの1メートルほどの小さな動きをしただけでDFの前に位置を取ってフリーになって、きっちりとボールを枠の中に落としている。
神戸時代の長いダッシュでスペースに入り込むようなプレーに加えて、ゴール前でのちょっとした駆け引きでDFをかわすのがすっかり上手くなった。
FWというのは、点を取り続けることで自信も持てるようになるし、それを積み重ねていくうちに点を取るためのちょっとした感覚、コツをつかむのだ。
セルティックがダンディーを破った前日(11月6日)のJ1リーグでは、セルティックのアンジェ・ポステコグルー監督がこの夏まで指導していた横浜F・マリノスがFC東京を8対0というスコアで一蹴した。FC東京の守備の中心である森重真人が前半のうちに2度もファウルを犯してPKを進呈するとともに退場になるというアクシデントがあったにしても、横浜FMの得点は見事なものだった。
もっとも、その3日前には同じ日産スタジアムで行われたガンバ大阪戦で、やはり攻めに攻めたにも関わらず、横浜FMは1点も取れずに敗れて、川崎フロンターレの優勝を許してしまった。
点が取れない時には、FWというのはどうしてもシュートの瞬間に力んでしまう。そうなると、シュートというのは入らなくなってしまうのだ。逆に、いったん点が入りだすと、選手たちは余裕を持ってシュートするから、面白いように得点が決まる。
シュートというのは、サッカーの技術の中でも特殊なもの。落ち着いてプレーできるかどうか、気持ちの持ち方一つで入るものも入らなくなってしまう。
この8点を奪って横浜FMが大勝した試合で、前田大然がPKの1点を含めてハットトリックを決め、得点王争いでトップに立った。これも、前田が点を決め続けることによって自信を深め、落ち着いてシュートできているからである。
先制ゴールの場面では、右サイドを独走してシュートしたものの、FC東京のGK波多野豪の長い手で一度はストップされた。しかし、こぼれたボールをすぐに奪った前田は落ち着いてニアを撃ちぬいた。
「乗っているFWは恐ろしい」ということである。
そして、もう一つ「鉄は熱いうちに打て」という格言もある。
つまり、選手というのはある時、積み重ねてきたものが突然開花して今までできなかったようなプレーができる瞬間があるのだ。そして、そんな時に指導者が見逃さずに、積極的に使ってあげると、そのプレーをしっかりと自分のものにすることができる。
とくに、FWというのはそういうポジションなのである。乗っているFWは使いたい。
そう、僕は「代表でも、そろそろ古橋や前田を主役として使ってみるタイミングが来ているのではないか」ということが言いたいのだ。
所属クラブでは活躍を続けている古橋や前田。彼らを、より強いプレッシャーに晒される代表戦、それもワールドカップ最終予選という緊張する舞台でプレーさせることで、彼らの成長をホンモノにすることができるのではないか。
日本代表は、ここ数年にわたって大迫勇也をワントップとして起用し続けてきた。
期待されるのはもちろん彼の得点力でもあるのだが、前線でしっかりとボールを収めて攻撃の起点を作ることができるという点が、大迫を特別な存在としているのだ。相手の屈強なDFを背負ってタメを作ることによって、2列目以下の選手が攻撃参加する時間を作ることもできるし、そこで時間を使うことによって守備的なポジションの選手には立て直しの時間を与えることもできる。
日本には、優秀なFWはたくさんいるが、そうした前線でボールを収めて時間を作ることができるのは、大迫が唯一無二の存在だったのだ。
故障していた大迫も、幸いにも11月の代表ウィークを前に復活して神戸でも得点を決めた。
だが、大迫がまだ本調子ではないとすれば、11月のシリーズでは絶好調の古橋や前田をトップで使ってみることも考えらえられるのではないか。
もちろん、今までと違ったことをするのはリスクもある。慎重な性格の森保一監督は、最終予選ではこれまで経験豊富なベテランを中心に起用してきた。
だが、11月の連戦はともにアウェーの戦いである。そして、ヨーロッパのクラブに所属している選手たちにとっては、週末の試合を終えてからベトナムのハノイまでの移動を経て木曜日に試合をするという強行日程となる。「帰国してすぐの木曜日の試合」というのは、9月のオマーン戦を見ても分かる通り、日本代表にとっては一種の鬼門なのだ。
とくに、ハノイまでの移動の負担は日本への帰国よりも大きくなってしまう。
そんな時だからこそ、ベトナム戦とオマーン戦では選手の起用法を変え、ベトナム戦では移動の負担が軽くて済む国内組を中心に戦うべきだ。
そこで、故障明けの大迫には休養を与えてオマーン戦に備えさせ、“乗っている”前田大然をトップで起用してみてはどうなのだろうか? 日本代表にとって、対戦相手のベトナムは明らかに格下の相手であり、その意味でも新しい試みをするにはうってつけの試合とも言える。
森保監督が就任以来作り上げてきた「ラージグループ」を活用するためにも、ここで積極的に新しい選手を試しておきたい。
従来通り、大迫をトップに置いて前線で起点を作らせるやり方と、古橋や前田をトップで起用して相手の裏を使うやり方と、2つのパターンを使分けることができれば、日本代表の戦い方の幅は大きく広がる。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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