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横浜F・マリノスといえば、アンジェ・ポステコグルー監督(現セルティック監督)が作り上げた超攻撃的サッカーで知られている。両サイドバックがオーバーラップやインナーラップを仕掛け、前線からプレッシングをかけ続け、さらにFKやCKを奪うやクイックスタートして相手が態勢を整える余裕をいっさい与えない。
そうした“超攻撃的サッカーで”2019年のJ1リーグを制覇し、今シーズンも川崎フロンターレを追走している横浜FM。総得点数も32試合終了時点で69得点と、これも川崎と並んでリーグ最多の数字となっている。
その横浜FMを相手に、北海道コンサドーレ札幌がさらに攻撃的なサッカーを仕掛けて、横浜FMを圧倒したのだ。
札幌を率いるのは、こちらも“超攻撃的サッカー”を志向するミハイロ・ペトロヴィッチ監督。“超攻撃的サッカー”を志向するチーム同士の激しい攻防は、今シーズンのJ1リーグの中で最も印象に残る試合の一つだった。
代表ウィークがあった関係で、両チームともに2週間近い準備期間があった。
おそらく、札幌は横浜FMの布陣や戦い方を想定して、プレッシングのかけ方を準備して臨んだのであろう。横浜FMは、メンバーが変わっても相手によって戦い方を変えたりはしないチームだから、それがズバリ的中した。
札幌の選手がそれぞれターゲットを絞って、前からアタックをかけ続ける。相手のDFやGKに対してプレスをかけ、また前線の選手がパスを受ける瞬間を狙ってDFが体を当てるようにして相手のミスを誘発させてボール奪取を試みる。このプレッシングの圧力によって、横浜FMのパスは寸断されてしまう。
また、札幌のウィングバック(右の金子拓郎、左の菅大輝)が高い位置を取ってプレッシングをかけてくるので、横浜FMの両サイドバック(右の松原健、左のティーラトン)はいつものように攻撃参加ができなくなってしまう。
こうして、相手の攻撃力を無力化した札幌はボールを奪うと早いタイミングで前線にボールを送り込んで、常に敵陣で激しい攻撃を仕掛け続けた。
横浜FMの選手が思わずファウルで止めると、間髪を入れずにリスタート。横浜FMが守備態勢を整えるより早く、再び攻撃を仕掛けてくる。まさに、横浜FMの株を奪ったような攻撃サッカーだった。
24分にも最終ラインの福森晃斗から正確なロングボールが左サイドの菅に入ったところから、青木亮太が絡んでCKを獲得。金子がCKをセットし、素早くニアサイドの菅にボールを渡す。ゴール前へのクロスを予想していた横浜FMの守備陣の意表を突いたショートコーナーだった。そして、守備側が対応するより前に菅が強烈なシュートをニアサイドに蹴り込んで、札幌が先制に成功した。
1点を先行した札幌だったが、攻撃の手を緩めたりはまったくしない。
両ウィングバックが最前線にまで上がり、CFの小柏剛と並んでスリートップを形成。2人のシャドーストライカー、チャナティップと青木を含めて5人のFWが並んだ形だ。
オフサイドルールが改正された1920年代後半から1950年代まで、世界のほとんどのチームは「WMフォーメーション」というシステムで戦っていた。最前線にCFと左右のウィング。そして、「インナー」と呼ばれる選手(現代的に言えば、攻撃的MF)を含めた5人がFWだった。攻撃時の札幌の選手の並びは、まるで往時の「WM」を思い起こさせるようなシステムだった。もちろん、守備に入った時には両ウィングバックは守備に奔走するので、そのあたりは1950年代とはまったく違うのだが……。
1点をリードした札幌は、その後も横浜FMを圧倒し続け、得点機が何度かあった。39分には小柏からの縦パスが2列目から飛び出した青木に渡り、青木のシュートが決まったがオフサイドで得点は認められず、後半の立ち上がりにはゴール前至近距離のシュートが相次いで横浜FMのGK、高丘陽平に止められ、55分には右からのクロスにチャナティップがフリーで飛び込んだが、シュートが浮いてしまう……。
この時間帯に「2点目」を奪えなかったこと。それが、最後に響いてきてしまった。
時間が経過するとともに、前半からスプリントを繰り返してプレッシングをかけ続けた札幌の選手たちの足が止まってしまうことは、当然予想できることだった。そして、実際60分前後に試合の流れが変わっていく。
そして、まるでこの時間帯を待っていたかのように横浜FMのベンチが動き始める。
63分に最初の交代。攻撃の形ができずに苛立ちを隠せず、直前にはイエローカードをもらって主審に異議を唱えていたマルコス・ジュニオールと最前線のレオ・セアラに代えて天野純とエウベルの2人が投入され、そして74分には杉本健勇と水沼宏太が入る。
控えの選手層も厚い横浜FMだけに、控え選手が入ってもけっして選手のクオリティーが落ちることはない。足が止まり始めた札幌に対して、フレッシュな選手がプレスをかけて、試合の流れは完全に変わった。
札幌も、もちろん対応して控え選手を投入するが、控え選手の層の厚さを比べればやはり横浜FMに劣る。そして、札幌は前半の立ち上がりにシャドーストライカーとして先発したルーカス・フェルナンデスが負傷して、7分に青木と交代していたのだ。青木が活躍したために、この交代自体にはまったく問題はなかったのだが、足が止まり始めた後、札幌には交代枠が4つしか残されていなかったのだ。
必死で1点のリードを守る札幌。だが、ゲーム最終盤の84分に横浜FMは右から左にパスをつないで、最後はエウベルが入れたクロスを杉本がヘディングでたたき込み、さらに89分には左サイドで天野がクロスを入れ、一度は相手DFに引っかかったものの、天野は再びボールをコントロールして強引に持ち込んでクロスを入れ、逆サイドで抜け出した前田大然が決めて最後の最後で横浜FMが逆転勝利を決めた。
横浜FMは川崎との勝点差を9ポイントに縮めて、辛うじて逆転優勝の可能性を残すことになったのだが、そんな優勝争いの話題は別として、この両チームが死力を尽くした戦いをまず大いに称えたい。公式記録によれば、シュート数は横浜FMが16本。札幌が18本。2つのチームが掲げる“超攻撃的”の看板は偽りではなかったようだ。
逆転勝利した横浜FMはもちろん、敗れはしたが、攻撃的サッカーの魅力を精一杯に表現した札幌の選手や“ミシャ”ことペトロヴィッチ監督にも「おめでとう」という言葉を贈りたい。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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