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岡崎慎司
岡崎慎司は今季初得点を挙げ、チームも5対1とイビサに大勝した。ラス・パルマスに4対1と大敗し岡崎も前半だけで下げられた先週とは、何が違ったのか?
相手が違ったのを最初に指摘しておくべきだろう。昇格を狙う6位のラス・パルマスと、2部に上がって来たばかりで残留が目標のイビサでは強さが違う。だが、何よりも重要だったのは、カルタヘナがシステムを変え、戦い方を変え、岡崎の役割を変えたことだ。
先週のコラムで、カルタヘナの機能不全を改善するために、「クオリティ不足を自覚して、ある程度ロングボールを前線に入れるカウンターサッカーへ方向転換、システムを[4−4−2]に変えて岡崎を2トップの左に使い、右の天性の点取り屋ルベン・カストロの周りで汗をかかせる」という案を出した。ルイス・ミゲル・カリオン監督のやり方は少し違ったが、「ある程度ロングボールを前線に入れる」というのは当たった。
新システムは可変型で非対称の[3−4−3]だった。
「可変型」というのは3バックにも4バックにも状況によって変化できること。ボール出し時に数的有利ができる3バックで攻撃をスタートし、守備で押し込まれた時は4バックにして守備を強化する、という風に。「非対称」というのは、3バック時に左SBデル・マスを常時上げてウインガー的なポジショニングをさせる一方で、右SBガストンは最終ラインに置いておく。という同一ポジションの選手に違うポジショニングや役割をさせることを指す。デル・マスは上がっていれば3バック、下がっていれば4バックという風にシステム変更のキーマンになっていた。
ちなみにこれは、スペイン代表とまったく同じやり方である。4バック時に最終ラインの左SBマルコス・アロンソが高い位置取りをすることで3バックに変化する。逆サイドの右SBアスピリクエタはほぼ上がらない。
ロングボールを前線に送り込むメカニズムは次の通りシンプルなものだった。
3バックで安全にGKからDFへボールを渡す。右CBのアンドゥハルからルベン・カストロや岡崎へロングパスを送り込む。これまでの「DFからボランチを経由して前線へ出す」というのから「DFから直接前線へ」というシナリオを変更したわけだ。右同士のアンドゥハルと岡崎は、攻撃開始のホットライン化していた。
旧シナリオで「組み立て要員」だったボランチは新シナリオでは「プレス要員」となり、多くのボールを回復した。旧シナリオで「[4−2−3−1]の左サイドでボランチや左SBとコンビする役割」だった岡崎は、新シナリオでは「3トップの右サイドでサイドへ流れてロングボールを収めたり、下がってパスをライン間で受ける役割」へ変わった。得意の機動力とスペースを見つける能力が生かせるようになったわけだ。
3トップの役割は三人三様だった。
並びは、中央にルベン・カストロ、左にダウダ、右に岡崎だったが、スピードがあるダウダは裏抜けを狙い続け、岡崎のようには下がりもサイドへ流れもせず、カストロは押し込まれた時でも最前線に残る一方で、ダウダと岡崎はサイドの守備をケアした。押し込まれた状況でも、カストロへのロングパス一発を起点としダウダと岡崎がサポートするカウンターという選択肢を残し続けた。
5得点の内訳は、カストロのPKでの2点、ダウダの見事なミドルと岡崎のヘディング、デル・マスの走り込んでのシュートで1点ずつ。この中で、スペインの実況が「スーバーゴール!」と叫んだのは岡崎のゴールだった。
左からのセンタリングに右サイドから走り込み、相手DFの前へ体を入れ替えてのダイビングヘッド。体が左へダイブしながらもボールは右ポスト際のネットを揺らす、というものだった。絶妙のタイミングで動き、ピンポイントで首を振った。読みの鋭さと技術の高さの結晶で、本人を乗ってきそうだ。
簡単にチャンスを作られる守備の粗さは残っているものの、攻撃タレントが最も生かせるシステムと戦い方は見つかった。次節は16日、敵地で21位アモレビエタ戦。勝ち点3を挙げれば上位への道が一気に開けてくるのだが、イビサのようなオープンなサッカーをしてこないので、まずは同様に機能するか否かに注目したい。下がって守られて走るスペースがなくなった時に3トップがどう打開するかが見ものだ。
文:木村浩嗣
木村浩嗣
編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペインに拠点を移し特派員兼編集長に。15年編集長を辞し指導を再開。スペインサッカーを追いつつセビージャ市王者となった少年チームを率いた。現在はグラナダ在住で映画評の執筆も。
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