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オマーン戦に敗れた日本代表
日本代表が、ワールドカップ・アジア最終予選の初戦でオマーンに敗れるという大波乱が起こってしまった。
ブランコ・イバンコビッチ監督率いるオマーン代表を高く評価する向きもあるようだ。
もちろん、長期合宿を実施し、日本にも早めに乗り込んで調整してきたオマーンは戦術的にも工夫があり、なによりも気持ちを込めてプレーを続けた。90分間気持ちの入ったプレーを続けて持てる力のすべてを出し尽くした彼らに勝利の女神が微笑んだとしても不思議ではなかった。
だが、僕は「オマーンが強かった」というより「日本の出来が悪すぎた」という試合だったと思う。オマーンがどのような戦いをしてこようとも、日本が本来の力を出し切れば間違いなく勝てる相手だった。
では、日本代表はどうしてあれほど酷い試合をしてしまったのか。メンバー選考や戦術など突っ込みどころはたくさんあるが、最大の原因はコンディションが悪すぎたことだ。
森保一監督は難しい初戦ということを考えてピッチ上に経験豊富な選手を並べたが、ワントップで起用された大迫勇也や左サイドハーフの原口元気、司令塔の柴崎岳などはベストからはほど遠い状態だった。
東京オリンピックで日本のベスト4進出に大きな貢献をした右サイドバックの酒井宏樹もミスを連発した。13分、オマーンのアルマンダル・アルアラウィがペナルティーエリア内でドリブルを仕掛けてきた瞬間、酒井はファウルを冒すのを怖がるように相手にコースを譲ってしまった。そして、その後も酒井はまったく精彩を欠いた。
試合終了後、日本サッカー協会から酒井がチームから離脱するとの発表があった。「オーバーワーク」が理由だった。
酒井はマルセイユで主力として1シーズン戦った後、オーバーエイジとしてU-24日本代表に合流。オリンピックで6試合をフルに戦ってから浦和レッズに加入してすぐにJ1リーグを戦っていた。コンディション悪化は当然のことだ。
酒井だけではない。オリンピックに出場した選手は誰もが疲労を溜め込んでいたはずだ。
冨安健洋はアーセナルへの移籍が決まったことでオマーン戦には合流ができず、次の試合地であるカタール・ドーハで代表と合流した。
ヨーロッパでも日本でも夏の移籍期間に当たったのだ。去就がなかなか決まらず、それに伴って出場機会が与えられない選手もいた。中国戦で復帰する冨安にしてもしばらく試合から遠ざかっているのは心配だ(冨安もオリンピック組なので良い休養になったかもしれない)。
要するに、8月の末から9月の上旬にかけて、ヨーロッパのクラブでプレーしている選手たちの中にはコンディションが万全でない選手も多いのだ。初戦ホームでイラクとスコアレスドローに終わった韓国も同じような悩みがあったのだろう。
しかも、日本国内での試合に参加するには時差を伴う長距離移動が必要となる。毎回のことではあるが、今はコロナウイルスの感染拡大に伴って入国後の自主隔離など、移動に伴う負担はいつもよりはるかに大きい(カタールに移動してからも検査結果が出るまでに時間がかかり、到着当日はトレーニングができなかったとも伝えられている)。
あらゆる意味で悪条件が重なっていたのだ。
しかし、そんなことは予選の日程が決まった時点から分かっていたことだ。森保監督も、当然コンディション・チェックはしただろう。だが、本当の意味でのコンディションはトレーニングだけでは分からない。いや、そもそも集合からの時間が短くて本格的なトレーニングを行うこともできなかった。
おそらく、森保監督は試合が始まってから「コンディションがここまで悪かったのか」ということに気付いて愕然としたことだろう。だが、ベンチの選手たちも条件は同じだった。セルティックで絶好調だった古橋亨梧も積極的なプレーはできなかった。古橋の場合は海外移籍してから代表の活動で招集を受けるのが初めてだったため、移動→集合→試合という作業に慣れていなかったのだろう。
どんな素晴らしい選手でも、コンディションが悪くては厳しい国際試合はできない。オマーン戦ではそのことを思い知らされたのである。この教訓を、今後にどう生かしていくのか画問題だ。
ここまで悪条件が揃うことはもうないだろうが、来年3月までの最終予選では厳しい条件で試合をする機会が何度も訪れる。コロナウイルス感染拡大の状況によっては、急な日程変更といった事態に直面するかもしれない。さらに、カタール大会以降もアジア予選では今回と同様の厳しいスケジュールで試合をこなさなければいけないのだろう。
今回のように移動から試合までの時間が少ない状況では、やはりコンディションの良いJリーグ組でチームを編成すべきだったのではないか。最近好調で横浜F・マリノス戦で素晴らしいシュートを決めたばかりの上田綺世。あるいは、J1きってのスピードスターの前田大然、ドリブラーの相馬勇紀……。Jリーグにも素晴らしいアタッカーはいる。
今回はコンディション不良ではあったが酒井宏樹も大迫勇也もJリーグに復帰しており、さらに乾貴士もセレッソ大阪に戻ってきた。C大阪にはロシア・ワールドカップで活躍した山口蛍もいる。守備陣でも森保監督の下で代表の常連となっている佐々木翔や代表招集歴のある谷口彰悟もいれば、元代表の酒井高徳など多士済々。国内組だけでも、十分に代表は組めるはずだ。
森保監督は、なんのために「ラージグループ」を作ってきたのだろうか?
10月には、予選突破の有力候補であるサウジアラビア、オーストラリアとの連戦という大事な2試合がある。ただ、最初がサウジアラビアのホームなのでヨーロッパからの移動距離が短くて済むし、10月になればヨーロッパ組のコンディションも上がっているはず。中東に集合してチーム作りを終えてから日本に移動してオーストラリア戦を迎えるのだが、Jリーグ組の選手の一部はサウジアラビアに送り込まずに、国内で待機させて万全の状態にしておくことも可能だ。
さらに、翌11月にはベトナム、オマーン相手のアウェー連戦があるが、日本から時差の少ないベトナム戦はJリーグ組のみで対処し、オマーン戦はヨーロッパ組を早めに集合させてしっかり準備をすればいい(実際の試合会場がどうなるのか見通せないが……)。
さて、そんな先のことよりもまずは9月7日の中国戦である。
中国は初戦のオーストラリアに0対3と完敗した。中盤でのプレスも弱く、スペースも与えてくれる。トップのエウケソンもかつてような怖さはまったくないので、日本にとっての本当の敵は中国代表というよりも、自分たちの仕上がり状態ということになる。
移動の負担はあったものの1試合を経験し、それなりにトレーニングの時間もあるのでチーム状態はオマーン戦の時よりはかなり上がるはず。そして、トレーニングを通じて個々の選手の状態も把握できるはずだ。
「ホーム全勝、アウェーは引き分け。10試合で勝点20」というのが目標の最終予選。初戦の敗戦はショッキングではあったが、アウェーの2戦目で勝点3を確保さえすれば、勝点計算としてはそれほど大きな影響を受けるわけではない。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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