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青森山田の藤森颯太(11番)と大戸太陽(2番)。静岡学園の川谷凪(11番)を巧みに抑え込んだ
「100点満点のゲームだったかなと思います」(青森山田高校・黒田剛監督)「本当に気持ちいいぐらいの完敗です。逆に気持ちいいですね」(静岡学園高校・川口修監督)。青森山田高校と静岡学園高校という、スタイルの異なる両雄が対峙したインターハイ準決勝。大会前から実現が期待されていたビッグマッチは、青森山田が静岡学園を被シュートゼロに抑えた上で、4-0という衝撃的な完勝を収める結果となった。
3月。両チームは“時之栖チャレンジカップ”という、プレシーズンの大会で対戦している。スコアは4-3。静岡学園が常に先行しながら、青森山田がそのたびに追い付き、最後は静岡学園が後半アディショナルタイムに決勝点。練習試合という舞台設定がもったいないぐらいの一戦で、勝利した川口監督も「これを選手権の決勝で5万6千の大観衆に見せたかったですね」と口にするほど。そのリターンマッチとあって、とにかく好ゲームが予想されていた。
だが、試合は意外なぐらい一方的な展開になってしまった。勝敗を左右したポイントは、大きく分けて2つ。『サイドでの攻防』と『フォワードの役割』だったように思う。
青森山田のキャプテン、松木玖生が「サイドプレーヤーに10番と11番がいて、そこが凄く静学の長所だと思っていた」と話したように、静岡学園にとって攻撃のキーマンは左サイドハーフの“10番”古川陽介と、右サイドハーフの“11番”川谷凪だ。古川は緩急を生かした切れ味鋭いドリブルが、川谷は50メートル5秒9という駿足を生かしたスピード感あふれるドリブルが、それぞれ特徴のサイドプレーヤー。ボールを丁寧に動かす静岡学園も、攻撃を仕上げる時にこの2人が関わる確率は非常に高い。
この両者を、青森山田はほぼ完璧に試合から締め出した。黒田監督も「両サイドバックも今日は相手の両サイド、10番と11番のところはかなり高いところでバトルをしながら、得意のドリブルに持ち込ませなかったというところ、それがやっぱり勝因じゃないかなと思います」も言及。右の大戸太陽、左の多久島良紀。両サイドバックは粘り強く相手のドリブルに対応し、クロスすらもほぼ上げさせない仕事の完遂ぶり。個人的に大戸は今大会最高の右サイドバックという印象があり、大会優秀選手に選出されなかったのは解せないぐらいのパフォーマンスを披露していた。
サイドバックだけではない。ボランチを務める青森山田のキーマン、宇野禅斗はサイドハーフの貢献度も口にしている。「藤森と夢積はできるだけプレスバックして2対1を作ってくれましたし、そのあとに攻撃へトップスピードで上がっていくこともやってくれたので、そこは凄く助かりました」。
右の藤森颯太と左の田澤夢積。この両サイドハーフの運動量は圧巻の一言。とりわけ青森山田の先制点は、右サイドで藤森が果敢なプレスバックからボールを奪い切り、ここから始めたカウンターがそのままゴールまで結び付いている。加えて田澤も2点目をきっちりアシスト。この2人の攻守における貢献度は圧倒的だ。
フォワードが“ポイント”を作れるか否かも、全体の流れに小さくない影響を及ぼした。静岡学園は4-2-3-1の布陣を敷く中で、1トップには持山匡佑が入る。ゴールも奪え、ポストプレーも巧みな好選手だが、本人も「ゴールキックとか空中戦は1回も勝てなかったし、ボールを受けることができなかったので悔しかったです」と振り返ったように、静岡学園はここへボールを付けきれなかった。
ここでも宇野の発言は興味深い。「9番(持山)に入れてきて、スピードアップされるのを警戒していたので、前線からできるだけハイプレスを掛けて、ズルズル下がらないで、前の方でどれだけ戦えるかというふうに考えていた中で、ディフェンスラインがビビらずにラインを上げてくれて、前線からハイプレスを掛けてくれたのが、相手にとっては嫌だったのかなと思います」。
全体をコンパクトにすることで、持山の仕事をできるスペースも圧縮。ボールが入っても、丸山大和と三輪椋平という両センターバックが代わる代わる、まだ “芽”の段階で相手の攻撃を潰してしまう。持山を経由してテンポアップするはずだった静岡学園のアタックが、前進するパワーを削がれたことは否めない。
逆に近年は1トップを採用することが多かった青森山田は、台頭してきた渡邊星来と名須川真光の2トップが機能。前述の先制点もアシストの藤森へパスを送ったのは、きっちり中央でポストワークをこなした名須川であり、1.5列目でうまくボールを引き出せるタイプの渡邊は、前線で身体を張れるパートナーとの連携も抜群。高体連最強2トップとも称される彼らの働きが、この試合でも際立った。
青森山田 藤森 颯太 選手 インタビュー
ただ、これで引き下がるような静岡学園ではない。試合後。「やっぱり自分たちのストロングを伸ばさないといけないなと思いました。あの強度の中でしっかりボールを持てる、ちゃんと剥がせる、ボールを繋げる、そういうチームにしないといけないと思います」と川口監督は語っている。自分たちのスタイルを突き詰めることで、青森山田を上回る。その覚悟が、今回の完敗でより深まったことは間違いない。
「次に青森山田と戦うのは冬の全国だと思うので、それまでに本当に日々の練習を大事にして、次に戦った時は自分たちが圧倒できるようにしたいです」(持山)「最後にこんな悔しい思いでは終わりたくないので、みんなで笑顔で終われるように、ここから残りの時間も本当に努力して、打倒・青森山田という気持ちでやっていきたいなと思います」(伊東進之輔)。
コロナ禍による社会情勢が落ち着きを見せることを前提に、次は5万6千の大観衆の前で、この両雄が再会できることを期待したい。
文 土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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