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ラグビーの日本代表チームが「ブリティッシュ&アイリッシュ(B&I)ライオンズ」と対戦して10対28で敗れた。「個の力」の差を見せつけられ、ラインアウト・モールからの攻撃はなんとかしのいだ直後にトライを決められるという同じパターンの失点を続けたのは残念だったが、後半には追い上げを見せ、日本の良さも十分に発揮した。
それにしても、日本代表がスコットランド・エディンバラの伝統的なスタジアム「マレー・フィールド」で「B&Iライオンズ」と顔を合わせ、それなりに戦えたというのはラグビー界にとって、あるいは日本のフットボール界にとって歴史的な出来事だった。
サッカー・ファンの皆さんの中にはラグビーの事情をあまりご存じない方もいると思うのでご紹介しておくが、「B&Iライオンズ」は英国の4協会(イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランド)の代表チームだ。
ラグビーもサッカーと同じように英国内の各協会は独立国扱いで、各"国"代表同士はワールドカップなどでは優勝を争って戦う関係にあるが、ラグビーでは4協会から選抜された、いわば全英代表とも言える「ライオンズ」が結成されるのだ。
ちなみに、サッカーでは、アイルランドには独立国であるアイルランド共和国(首都ダブリン)のFAIと英国領北アイルランド(首都ベルファスト)のIFAの2つの協会が存在し、それぞれ別個の代表を結成するが、ラグビーではアイルランド協会(IRFU)は全アイルランドを統括しており、アイルランド代表は1つしか存在しない(その裏には政治史的、スポーツ史的な長い長い物語が存在するのだが、ここではすべて省略)。
いずれにしても、「B&Iライオンズ」はラグビー界のいわばドリームチーム。日本代表がその「ライオンズ」と対戦するなど、数年前までだったら「夢物語」でしかなかった。
それが実現できたのは日本代表が強化されたからだ。
日本代表は2015年のワールドカップ(イングランド開催)初戦で南アフリカ代表を破り、さらに4年後の日本で開催された大会ではアイルランドとスコットランドを破ってベスト8に駒を進めることに成功した。もちろん、2019年大会はホーム開催のアドバンテージがあったものの、もはや日本のラグビーは誰も無視できない存在になっているわけである。
つまり、「B&Iライオンズ」との対戦という“夢"は自らの努力によってつかみ取ったものである。サッカー界からもラグビー日本代表に「おめでとう」を言いたい。
サッカー人の眼から見るとラグビーというのはかなり閉鎖的あるいは階級的に見える。
つまり、トップクラスの国は「ディア1」と呼ばれていて様々な“特権"を持っている。
「ティア1」には英国4協会のほかシックスネーションズに加盟しているフランスとイタリア。そして、かつて英国植民地だった南半球のオーストラリア、ニュージーランド、南アフリカを加えた9か国が含まれていたが、21世紀に入ってアルゼンチンも仲間入りして現在は10か国によって構成されている。
日本は、2019年のワールドカップでベスト8入りを果たしたものの、まだ「ティア2」扱いだ。日本にとって、「ティア1」入りは大きな目標だろう。
ラグビーや同じく英国系のスポーツであるクリケットでは各国代表同士の戦いは「テストマッチ」と呼ばれているが、「ティア1」同士は絶えず「テスト」の場で激しいバトルを繰り広げているが、「ティア2」以下が「ティア1」に挑戦する機会は少ない。こうして、強豪はますます強化され、下位チームが「ティア1」に追い付くのはますます難しくなる。
ラグビーのワールドカップはサッカーのワールドカップと同様に4年に開催され、次回は2023年にフランスで開かれるのだが、参加20チームのうち12枠はすでに決まっている。地域予選を勝ち抜いて出場権を獲得するのはわずか8チームにすぎないのだ。つまり、前回大会で上位に入ったチームには自動的に出場権が与えられるのだ。
日本も2019年のベスト8入りのおかげで次回年大会の出場権をすでに獲得している。そればかりか、次回大会の組分け抽選もすでに終了し、日本はイングランド、アルゼンチンと対戦することが決まっている。
つまり、日本代表は今から2023年大会に向けて具体的な目標を持って強化を進めることができるのだ。
これに対して、サッカーはきわめて"民主的"だ。
かつてはワールドカップ優勝国に次回の出場権が与えられていた時代もあったが、その制度も撤廃され、前回(2018年ロシア大会)優勝国のフランスもヨーロッパ予選を勝ち抜かなければ、次回カタール大会には出場できないのだ。
サッカーの日本代表は、現在、アジア地域予選を戦っており、今年の9月から最終予選が始まることになっている。
ラグビーの代表は次回のワールドカップを目指して「B&Iライオンズ」と戦い、来週にはアイルランド代表とテストマッチを行っているの対してに、次回大会でベスト8以上を目指すサッカーの日本代表は実力の劣るタジキスタン、キルギス、モンゴル、ミャンマーなどと対戦しなければならなかったのだ。
スポーツの世界で強化を図るためにはトレーニングだけではなく、"実戦"経験が必要だ。そして、"強化"という観点から言えば、自分たちより強い相手と戦う方が効果的だ。アジアの弱小国を相手に10点差ゲームを繰り返しても強化にはほとんど役に立たない。逆に、モンゴルやミャンマーにとっても実力的に大差がある日本と対戦するより、同程度の相手と切磋琢磨する方が強化につながるはずだ。
もちろん、最終予選に入れば対戦相手のレベルは上がる。日本がアジア最強であることは間違いないが、最終予選で対戦する相手はそう簡単に勝てる相手ではない。また、親善試合ではなく、「負けてはいけない」緊張感のある予選の試合こそ強化のためには効果的だ。
しかし、いずれにしても、「ラグビーのように4年後の大会の出場権を与えよ」とは言わないが、アジア・サッカー連盟(AFC)には強豪国は強豪同士で切磋琢磨する機会を増やしてほしいものだ。
たとえば、前回のワールドカップに出場した国(5か国)は2次予選までを免除して最終予選から参加させればいい。そこに、2次予選までを勝ち抜いた7か国が挑戦する形で最終予選を行うのだ。
そうすれば日程にも余裕が生じ、日本はヨーロッパや南米との親善試合を組んで強化につなげることができる。そうして、実力を上げたアジアの代表がワールドカップ本大会で結果を出すことは、AFCにとっても利益になるはずなのだが……。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で予選が延期になるという難しい状況を逆手にとって、日本サッカー協会は2020年秋にヨーロッパで活躍している選手だけでチームを組んでアフリカの強豪やメキシコとの強化試合を実現した。これは、素晴らしい決断だった。
そういう強化の場を増やすためにも、アジア予選の負担を少しでも少なくしてほしいものだ。ラグビー界がつくづく羨ましい……。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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