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5月の末から6月前半にかけて、数多くのサッカーの国際試合が続いた。日本代表がワールドカップのアジア2次予選を全勝で突破し、東京オリンピックに出場するU-24日本代表がガーナやジャマイカに快勝したニュースは皆さんもよくご存じだろう。
それだけではない。日本代表が出場してた2次予選グループFのうち、新型コロナウイルス感染症の影響で延期となっていた試合を含めて、他国同士の試合もすべて大阪で集中開催されていたのだ。そして、日本代表の親善試合もあり、さらに来日したチーム同士のトレーニングマッチも行われた。
こうした感染状況が逼迫した中で数多くの試合を運営した日本サッカー協会の努力に敬意を表したい(なにしろ、試合が行われた道府県のほとんどが緊急事態宣言下にあったのだ)。
僕は、5月7日(日本がタジキスタンと対戦する日)に大阪のヤンマースタジアム長居で行われたキルギス対モンゴルの試合を観戦に行った(途中までこの試合を観戦して、その後、日本の試合を見るためにパナソニックスタジアム吹田に移動した)。
試合前に発表された両チームのメンバーを見ていて気が付いた。キルギスのGKのアイザル・アクマトフが背番号「5」を着けていたのだ。
GKというのは、普通は「1」とか「12」とかのユニフォームを着用するものだ。「背番号『5』のGKなど、ウバルド・フィジョル以来だ(注)」などと思っていたら、日本サッカー協会からリリースが送られてきた。
(注)1978年のワールドカップでアルゼンチンのゴールを守ったフィジョルは背番号「5」だった。この大会で、アルゼンチン代表はアルファベット順に背番号を付けたので、「1」はMFのノルベルト・アロンソ、「2」はオズワルド・アルディレスで、「F」から始まるフィジョルは「5」だったのだ)
リリースによれば、選手の1人に新型コロナウイルスの陽性反応があり、さらに選手5人を含む19人が濃厚接触者と判定され、来日した選手のうちGK3人がすべて出場できなくなったのだという。
そういうわけで、背番号「5」を着けていたDFのアクマトフがGKとしてプレーすることになったのだ(6月15日の日本戦では本来のGKパベル・マティアシュが復帰し、アクマトフは右のストッパーとしてプレーしていた)。
そんな悪条件のせいか、キルギスは日本人の間瀬秀一監督率いるモンゴル代表に0対1で敗れてしまった。ただし、モンゴルの1点は本職のGKでも止められないような鮮やかなヘディングシュートだった(間瀬監督は、千葉時代にイビチャ・オシム監督の通訳をしていたあの人)。
これ以外にも、5月末から6月前半の国際試合ウィークには新型コロナウイルス関連やそれ以外で実に様々な事件が起こった。
6月3日に札幌ドームで日本代表と対戦する予定だったジャマイカ代表のメンバーが揃わず、試合は中止となり、替わりに日本代表対U-24日本代表の「兄弟対決」が実施されたことはご承知の通りだろう。
ジャマイカ代表の多くはイングランドを始めとするヨーロッパのクラブに所属しているが、日本入国に必要な新型コロナウイルスの陰性反応の証明書が不備だったため、日本行きの飛行機に搭乗できず、日本政府によって義務付けられていた試合3日前までの来日が不可能となったため、試合が中止となったのだ。
その他のチームでも、何人かが新型コロナウイルスに感染する事態が生じたし、これは感染症とは別件だが、ミャンマー代表を巡っては2月の国軍によるクーデターとその後の人権弾圧のため、招集を拒否した選手がいたと伝えられたし、試合前の国歌演奏の場面で軍への“抵抗”を示す3本指のポーズを示す控え選手もいた。
さらに、ミャンマー代表では、6月9日になって用具係のピェーソンナイン氏がホテルの自室で死亡しているのが発見されるという事件(?)まで発生した。死因など背景はわかっていないが、かなりショッキングな事件といっていいだろう。
5月から6月にかけて来日したのはワールドカップ予選関係の4チームに加えて、3つの日本代表(A代表、U-24代表、女子代表)と親善試合を行った5チームの合計9チーム。それに、日本チームでも多くの選手がヨーロッパなどのクラブに所属しているから、これも1チーム分。それに審判員やアジア・サッカー連盟(AFC)の役員など、数百名が来日したという計算になる。
そうした数百名のそれぞれを、いわゆる「バブル」の状態に置き、外部の日本人や互いのチーム同士の接触を遮断。選手やスタッフはホテルと練習場、スタジアムを移動するだけの隔離生活を強いられたのだ。
こうした生活は、選手にとってもかなりの負担となったことだろう。
親善試合で日本代表と対戦したセルビア代表のドラガン・ストイコビッチ監督も「せっかく大好きな日本に来たのに外出もできず、友人たちとも会えなかった」と記者会見の席で不満をあらわにしていたし、親善試合で日本女子代表に0対8と大敗したウクライナ女子代表のナタリア・ジンチェンコ監督も「なんで、技術レベルに大きな差がある私たちが呼ばれたのか分からない。それに、なんでこんなに暑い時間帯に試合をするのか」と試合後のオンライン記者会見で逆ギレしてしまう始末。試合会場となった広島のエディオンスタジアム(ビッグアーチ)は、ピッチの向きが通常の南北ではなく東西を向いており、ピッチ上には西日が差しこみ、15時15分キックオフの試合はたしかに猛暑に見舞われた(記者席にも西日が差しこみ、本当に暑かった)。
まあ、こうした困難はこういう時期に試合を行う以上、我慢をしてもらうしかないのだが、それにしても新型コロナウイルスを巡って様々なことが起こった3週間だった。
そこで思うのは、7月に行われる予定の東京オリンピックと8月のパラリンピックのことである。
今回のサッカーの国際試合のために来日したのは、9チームの数百人だった。いずれもサッカーの代表チームであり、行動パターンなどは似たようなものだったことだろう。チーム競技なので団体行動をするので、各チームの行動を把握するのは比較的容易だったはずだ。
ところが、オリンピック、パラリンピックで来日するのは選手だけでも1万人以上となる。それにチームのスタッフ、さらには大会役員、主催者である国際オリンピック委員会(IOC)委員やスポンサー関係者、そして報道関係者も含めると10万人ほどが来日する。さまざまな競技の選手が来日するので行動パターンも千差万別となる。
サッカー・チームの数百人だけでも、あれだけの「事件」が発生したのだ。オリンピック、パラリンピックではどんなことが起こるのか……。
選手たちの行動について定めた「プレーブック」なるものも発表されているが、それをどのようにして遵守させていくのだろうか。
選手やスタッフは基本的には選手村に入るので、実質的にその時点ですでに隔離されているようなものだし、彼らの行動を規制することは可能かもしれない。
だが、役員やスポンサー関係者はどうか? IOC委員などは、最近の東京大会開催を巡る議論を見ても明らかなように「特権意識」の塊のような連中だ。スポンサー関係者には金持ちが多いだろうし、「オリンピックは俺たちの金で動いている」という意識も強いだろう。行動の規制を要請したとしても、一般の日本人のように唯々諾々と規制に従うとも思えない。
報道関係者だってそうだ。報道関係者というのは、本来的に好奇心の塊である(でなければいけない)。感染が防止しきれていない日本の社会に興味を抱いて盛り場を取材に行く人もいるだろうし、酒の提供をしている飲食店にも出入りするかもしれない。
5月末から6月にかけてのサッカーの一連の国際試合を取材してみて、オリンピック、パラリンピックでの感染防止の難しさを改めて実感した次第である。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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