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カタール・ワールドカップに向けたアジア二次予選でタジキスタンと対戦した日本代表は4対1で勝利したものの、試合終了後の記者席はまるで敗戦時のような雰囲気だった。14対0とか10対0といった“大勝”を見慣れてきたので、記者たちの眼が贅沢になってしまったのであろうか?
そうではない。そんな雰囲気になったのは、4ゴールは奪ったものの、この日の日本代表のパフォーマンスがとても褒められたものでなかったからだ。
タジキスタンは、たしかに日本が所属しているグループFの中では最も力のある相手だ。日本の選手がプレッシャーをかけても、そこでパスをつないでプレッシャーをはがすことができる。それでも、公式記録によればタジキスタンのシュートは前後半を通じてたったの1本だったのだから(その、「たったの1本」が入ってしまったのだが……)。力の差は明らかだったし、シュートを1本に抑えたのだから、失点シーンでマークが甘くなってしまったとしても、守りとしては特に問題はなかった。
ただ、それだけDFの選手たちに余裕があったのであれば、もっと攻撃の起点となるようなパスが見たかったのだ。
しかし、昌子源や中谷進之介はボールを奪った後、前線に大きく蹴り込むかMFにつなぐ平凡なパスを出すことに終始していた。そこが、これまで吉田麻也や冨安健洋を見慣れてきた者にとっては物足りないのだ。
DFラインの中で最も貢献していたのは間違いなく右サイドバックの山根視来だった。サイドハーフの古橋亨梧とのバランスを考えながらうまくポジションを取って右のストッパー中谷からパスを引き出して、タッチライン際から正確なグラウンダーのパスを出して右サイドの攻撃を活性化。3点目(橋本拳人のゴール)のアシストだけでなく、1点目(古橋)も2点目(南野拓実)も起点はすべて山根のパスだった。
3月の日韓戦では先制ゴールを決めた実績もあり、山根は今後A代表の右サイドバック候補として定着していくことだろう。
ボランチでは橋本と川辺駿がテスト起用された。
今や日本代表でも絶対の存在となっている遠藤航はオーバーエイジの1人としてU-24代表に加わっており、田中碧もU-24代表。そして、それに次ぐ存在というべき守田英正はベンチだった。
タジキスタン戦の前々日にはU-24代表がU-24ガーナ代表と戦って6対0と大勝した。そして、この時に見せた遠藤と田中のボランチの出来は出色のものだった。最初は田中にボールが回ってこない場面も多かったが、時間が経過すると同時に周囲のオーバーエイジの選手たちも田中を完全に信頼しボールを集めるようになって、遠藤が奪い切ったボールを田中が鋭いボールで前線に付けるというコンビネーションが出来上がった。
その遠藤・田中コンビを見た後だったこともあって、橋本、川辺のプレーはいかにも遅く見えたし、また2人の役割分担も明確ではなかった。
もっとも、タジキスタン戦で先発起用された選手たちも気の毒ではあった。
たとえば、橋本と川辺の2人は一緒にプレーするのはこの試合が初めてのはず。互いの特徴も考えていることも分からず、手探り状態だったのだろう。
また、代表経験の少ない選手にとっては、やはりワールドカップ予選のプレッシャーというものもあっただろう。
相手のタジキスタンは、たとえばJ1リーグのチームより戦力は落ちる。だから、Jリーグでやっている程度のプレーを発揮することができればいいのだが、やはり代表でのプレーということになると、精神的な重圧もあるだろう。
試合後のオンラインによる記者会見で森保一監督は「パフォーマンスの低調さ」について問われて「私が原因だ」と語った。「メンバーをたくさん変えたから」と。
そう、森保監督はなぜこれだけ大幅なメンバー交代を行ったのだろうか。僕も疑問に思う。
先日のミャンマー戦あるいはU-24日本代表との“兄弟対決”でも森保監督はいわゆるベストメンバーを起用した。それなのに、予選の中で最も「骨のある相手」タジキスタン戦でどうしてあれだけ経験の少ない選手を使ったのか。
もちろん、バックアップは必要だ。吉田や冨安がいつでも起用できるわけではない(実際、冨安はミャンマー戦は回避となった)。絶対のワントップである大迫勇也もすべての試合で起用できるわけではない(実際に、タジキスタン戦を前に大迫は負傷してしまった)。
だから、最終予選を前に新しい選手をテストし、彼らにワールドカップ予選で戦う経験を積ませておく必要はある。
しかし、すべてのポジションを変えてしまっては、何にもならないではないか。この日のタジキスタン戦ではいわゆるベストメンバーの中では先発したのは南野ただ1人だった。ジーコ監督ばりの“総取り換え”である。
たとえば、タジキスタン戦では大迫がいなくなってしまったのだから、2列目にレギュラーの3人(伊東純也、鎌田大地、南野)を並べた上で浅野拓磨を起用すれば、今後、大迫が欠場した時のための良い準備となる。だが、2列目も南野以外を変更してしまったのでは、伊東と浅野の関係性や鎌田と浅野の関係性を見ることができない(鎌田は南野に代わって後半から出場したが、後半はチームがますますバラバラになってしまっていた)。
他のポジションでもそう。最もレギュラーに近い守田と橋本。守田と川辺の組み合わせこそ試すべきだったはずだ。
つまり、“総取り換え”ではチーム力も落ちてしまうし、選手にとっても戸惑いが大きくなってしまうのだ。10人のフィールドプレーヤーのうち、この試合では3人を新しいメンバーにする。次の試合では、別の4人のテストをする。また、次の試合では別の3人を……といったように経験の浅い選手をテストしていけば、新しくメンバーに入った選手もプレーしやすいし、また、将来、実際にその選手を投入する必要が出た時に経験が役に立つはずだ。
さらに一言付け加えさせてもらえば、そうした中でベストメンバーの一角である南野も、また経験豊富な原口元気もチームをまとめることができず、結局、自身がドリブルで単独突破を試みてタジキスタンのDFに止められることの繰り返しだった。苦言を呈したい。
6月のシリーズでは、この後、セルビア戦(11日・神戸)とキルギス戦(15日・吹田)が残っている。U-24代表に加わっているオーバーエイジ組や田中、堂安律、久保が不在で、さらに大迫もプレーできないとなると、嫌でも経験の浅い選手を起用していかなくてはならないのだが、森保監督が残りの2試合で様々なバランスを考えながら、どのような選手強をするのか、見守りたい。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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