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5月28日に行われたカタール・ワールドカップ・アジア二次予選のミャンマー戦。大事を取った冨安健洋を除いてほぼベストメンバーを揃えた日本代表は10対0と大勝して二次予選突破を決めた。6試合を終わって得点37、失点0という圧倒的な成績だった。
対戦相手との力関係が違いすぎるので、この結果をもってどうこう言うわけにはいかないが、少なくとも実力差のある相手に対しても最後まで気持ちを緩めることなく戦ったことは評価できるだろう。
しかし、一方で「実力差のあるミャンマー相手にベストメンバーを組む必要があったのか。経験の浅い選手を試すべきだったのではないか」という批判の声も上がっているようである。一理ある考え方ではある。
では、森保一監督は何を考えているのだろうか、今回はそのあたりを推察してみたい。
たしかに、ミャンマーとは実力差も大きかったし、さらにミャンマー代表は軍部によるクーデターの影響を受けてベストメンバーを揃えることもできず、準備試合もできていなかったのだ。日本が勝利するためにはベストメンバーを組む必要がない。いや、たとえばU-20ワールドカップが中止となってしまって実戦経験を積めないU-20日本代表(3年後のパリ・オリンピックを目指す世代)あたりを出場させてもよかっただろう。
しかし、森保監督はワントップに大迫勇也を置き、2列目には右から伊東純也、鎌田大地、南野拓実という豪華な顔ぶれを並べて戦った。現段階でのベストメンバーである。
森保監督はおそらくミャンマー戦から6月シリーズまでのA代表の合計5試合は秋から始まるはずのアジア最終予選に向けての最終準備と考えているのだろう。実際、最終予選が開始されるとみられる9月まで、A代表の活動は予定されていない。
だから、攻撃陣は最強布陣で戦うことによって互いのコンビネーションを高め、フィニッシュ段階でのパス精度をさらに向上させようとしているのだ。従って、6月の4試合でもおそらくあまりメンバーをいじらないで戦うのではないだろうか。
森保監督がA代表の監督に就任したのは2018年のロシア・ワールドカップ終了後だった。すると、その後2018年中の親善試合ではメンバーをほとんど固定して戦った。当時の2列目は右から堂安律、南野、中島翔哉だったが、彼らが素晴らしい結果を出したこともあって森保監督はほとんどメンバーをいじらなかった。
普通なら、監督就任後にはまず多くの選手を招集して「ラージグループ」を作ることが優先されるはずだ。それなのになぜ、森保監督はメンバーを固定して戦ったのか。それは、2019年の1月にアジアカップが開かれることが決まっていたからだ。そこで結果を残すためには、2018年の秋の段階ではメンバーを固定してチームを完成させておく必要があったのだ。
実際、アジアカップで準優勝という成績を収めた森保監督は、アジアカップが終わると、今度は多くの選手を招集してテストが繰り返され、「ラージグループ」作りが始まった。
しかし、2020年に入ると新型コロナウイルス感染症の拡大のために日本代表の活動も中断に追い込まれてしまって、「ラージグループ」作りはいったんは頓挫する。だが、2020年秋にはオランダやオーストリアを舞台に、ヨーロッパ組の選手だけで組んだ日本代表がアフリカの強豪国やメキシコとの親善試合を行った。
国内組が招集できないばかりか、ヨーロッパ組でもプレーしている国によっては合流が認められないといった難しい制約がある中で、むしろその「制約」を逆手にとってさらに多くの選手のテストが行われた。
さらに、今回の5〜6月のシリーズではJリーグも開催されている中での活動ということもあって、ミャンマー戦用のチーム、6月に入ってからのA代表、そしてU-24代表と3つのチームが編成され、延べ51人の選手が招集されたのだ。
森保監督は「ワンチーム、ツーカテゴリー」という言葉を使っえちるが、今回は「ワンチーム、ツーカテゴリー、スリーチーム」ということになる。
つまり、経験の浅い選手たちのテストやラージグループ作りの段階は(森保監督にとっては)すでに終わっているのだ。
今は、アジアカップ直前にメンバーを固定することによってチームの完成度を上げていったのと同じように、アジア最終予選に向けてチーム作りを進めたい。だから、ミャンマーのようは実力差の大きい相手に対してもベストメンバーを組んで戦ったのだろう。しかも、ミャンマー戦ではオリンピック世代の選手をほとんど起用しなかった。
もちろん、東京オリンピックが終わればU-24代表で結果を残した選手たちがA代表に合流して、積極的に起用されることだろう。たとえば攻撃陣では堂安と久保建英が現在の主力メンバーに挑む構図になるはずだ。
もちろん、これから急成長を遂げる選手に対しては門戸は開かれているだろうが、強豪相手の最終予選ではそれほど多くの選手を試すことはできないだろう。
次にメンバーのシャッフルが本格的に行われるのは最終予選突破、本大会進出決定の後になるだろう。つまり、現在はアジア最終予選に向けてメンバーを固定している段階であり、予選突破が確実になれば再び「ラージグループ」作りの作業が行われ、そして、2022年の秋に入ってからチームの完成度を上げる作業が行われるのだろう。
6月のシリーズではA代表には攻撃の主力メンバーが顔をそろえた。一方で、守備の中心選手たちはA代表を離脱する。つまり、A代表でも中心選手となっている冨安はもちろん、日本代表の守備を背負って立つ吉田麻也、酒井宏樹、遠藤航もオーバーエイジとしてU−24で戦うのだ。
攻撃陣はA代表の4試合を使って完成度を上げる。そして、守備陣についてはU−24代表にA代表の主力組を加えて完成度を上げ、東京オリンピックでメキシコやフランスといったハイレベルな相手と戦うことによって強化を計る。タジキスタンやキルギス相手に戦うよりも、守備強化のためには東京オリンピックの方が役に立つからだ。
6月シリーズの見どころは、A代表では主力が揃った攻撃陣。U−24代表では、こちらもA代表の主力がそろった守備陣ということになるのだろう。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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