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J1リーグで首位を独走中の川崎フロンターレ。5月22日に行われた第15節の試合では横浜FC相手に3対1で勝利して「23試合連続無敗」というJリーグ新記録を達成した。現在、2位の名古屋グランパスとは勝点差が12ポイントと広がっている。
結果だけ見れば「順風満帆」とも言える川崎だが、最近は、実際にはかなり苦しい試合が続いている。
川崎は、4月29日と5月4日に行われた2位の名古屋グランパスとの上位対決の連戦で圧勝した。
それまで12試合終了時点でわずか3失点しかしていなかった名古屋を相手に第1戦が4対0、第2戦が3対2と合計7ゴールを決めて、その攻撃力の高さを見せつけたのだ。
第1戦ではインテンシティの高い激しい攻撃を展開し、消極的だった名古屋を相手に開始23分までに3ゴールを決めて圧勝。そして、ホームに戻っての第2戦ではリアリスティックにじっくりと攻めて、相手のオウンゴールを誘発するなど、後半途中までにやはり3対0とリード。最後は名古屋に2点を奪われて追い上げられたもののしっかりと守り勝った。
まさに万全の戦いであり、その次の週にも川崎はガンバ大阪とのアウェーゲームでも2対0と勝利を記録した。
ところが、それから下位チームを相手に苦しい戦いが続くようになってしまったのだ。
第20節のベガルタ仙台戦では2度リードを奪ったものの、2度とも追い付かれて引き分けに終わり、「無敗記録」は伸ばしたものの、川崎は仙台相手に勝点2を失った。
その仙台戦の反省を踏まえて戦った第14節の北海道コンサドーレ札幌戦でも、札幌がしっかりとボールを握って攻撃の時間を増やすことに成功し、川崎は攻めの回数自体を減らされてしまった。そして、川崎は後半開始直後に右サイド家長昭博からのクロスに合わせて三笘薫が先制ゴールを決めたのだが、その後も札幌に反撃を許す時間もあり、アディショナルタイムに入った90+4分に田中碧の縦パスを受けた小林悠が決めてようやく2対0で逃げ切った。
そして、5月22日に行われた第15節でも、最下位に沈む横浜FCを相手に47分までに3点をリードしたものの、63分には1点を返され、さらに横浜FCの左右からのアーリークロスで何度も冷や汗をかかされた。
それでも、仙台戦の引き分け以外はきちんと勝点3を奪って2位以下との勝点差をさらに広げているのだから川崎の強さは本物なのだが、それにしてもこのところ思った通りの闘いができていない印象だ。
昨シーズン、新型コロナウイルス感染症の拡大によって変則日程となったJ1リーグで圧倒的な強さを発揮して3度目の優勝を飾った川崎。今シーズンは、その強さがさらに際立っている。
今シーズンの川崎にとって最大の補強は、オフ中に主力選手が流出せず、昨年と同じメンバーで戦えていること。そして、昨年からブレークしていたMFの田中碧が急成長したことの2点だった。
ボランチもしくはインサイドハーフとしてプレーする田中碧は接触プレーにも強くなり、中盤でボールを奪い切る守備力を身に着け、そしてあの札幌戦の2ゴール目のようにFWの足元に鋭くて、速いボールを送り込む能力を高めており、シーズン開幕を告げるガンバ大阪とのゼロックススーパーカップから田中の縦パスによって生まれたゴールは数多くあった。
そして、田中は3月に行われたU-24日本代表にも招集され、アルゼンチンとの第2戦で目の覚めるようなパスワークを披露。東京オリンピックを目指すU-24日本代表の中心選手として名乗りを上げた。
その田中が、最近やはり疲労気味なのである。
たしかに、札幌戦ではベンチスタートだったが、後半から田中が出場すると攻撃が活性化された。また、直近の仙台戦では前半のPKを獲得するきっかけとなる左サイドでの攻撃の起点となったのも田中だったし、後半開始早々の追加点(3点目)も右サイドで深い位置まで進入したサイドバックの山根視来にズバッとパスを付けたのも田中だった。CK崩れから決めたミドルシュートシュートも含めて素晴らしいプレーはいくつもあった。
つまり、田中碧は最近の試合でも川崎の攻撃の中心選手として縦横無尽の活躍をしているのは間違いない。だが、本来だったらありえないような簡単なパスをミスしてみたり、中盤であっ気なくボールを失うなど、本来ならありえないようなミスも多くなっている。
「不調」の原因は明らかに疲労だ。
無理もない。選手層が厚く、多くの選手を回しながら起用している川崎の鬼木達監督だが、MFの田中と右サイドバックの山根視来だけは全試合で起用しているのだ(札幌戦での田中のベンチスタートはきわめて異例)。そのため、田中と山根の疲労度は他の選手以上のものがあるはずだ。
しかも、3月の代表戦では山根はフル代表、田中はU-24代表にそれぞれ招集され、山根は韓国を相手に先制ゴールを奪う活躍を見せ、田中は先述のようにアルゼンチン戦の第2戦で大活躍した。
つまり、川崎でフル出場を果たすと同時に、日本代表でも試合を続けているのである。
中止選手である彼らの疲労は川崎にとってはかなりの大問題ということになる。
そして、今後も厳しい日程が続く。5月末まで川崎でのプレーを終えると、6月上旬の代表ウィークで山根は再び日本代表に、そして田中はU-24日本代表にそれぞれ招集されるのだ。そして、6月下旬には川崎はウズベキスタンに渡って、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)のグループステージ6試合を戦うことになっている。
そして、田中の場合にはウズベキスタンから帰国するとU-24日本代表の一員として東京オリンピックを戦うのだ。オリンピックでは、真夏の酷暑の中、中2日で6試合を戦うことになる。つまり、ほとんど休みなく、レベルの高い試合を繰り返さなければならないのだ。
田中に無理をさせすぎて故障などしてしまったとしたら、川崎のJ1リーグ連覇に向けても戦力ダウンとなってしまうし、東京オリンピックでの上位進出にも黄色信号がともってしまう。
今や日本の将来のエース候補となった田中碧。ここで疲労を溜め込んで戦列を離れるようなことがあったら、川崎にとっても、日本代表にとっても大きな戦力ダウンを避けられない。クラブと代表のスタッフ同士でしっかり話し合って、束の間でもいいから田中碧に休養を与えてほしいものである。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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