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サッカー フットサル コラム 2021年4月28日

まだまだ完成までの道は遠いが……それでも結果を出せる浦和レッズはこれからが楽しみ

後藤健生コラム by 後藤 健生
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4月25日に行われたJ1リーグ第11節で浦和レッズが大分トリニータに逆転勝ちした。

リカルド・ロドリゲス監督が就任した今シーズンの浦和は、序盤戦から苦しい戦いが続いていたが、4月に入ってからはしっかりと結果を残してきた。4月25日までにYBCルヴァンカップも含めて6試合戦って5勝1敗という好成績だ(28日にルヴァンカップの試合が1試合残っている)。

この日の大分戦も前半は1対2とリードを許したものの、後半は怒涛の攻めで75分にFKの後の展開から小泉佳穂が放り込んだボールを槙野智章が決めて同点とすると、最後は82分に左からのクロスを田中達也が押し込んで決勝点を奪った。

田中は昨シーズンまで大分でプレーしていた選手であり、後半のアディショナルタイムには何度かの決定的ピンチを大分の下部組織出身のGK西川周作がすべてストップ。そんなストーリー性の高い展開もあって、浦和サポーターでなくても楽しめる試合になった。確かに劇的な逆転勝利ではあった。

だが、なぜこの試合が劇的な展開となってしまったかといえば、前半に浦和が不甲斐ない戦いをして大分にリードされてしまったからである。その前半はまったりとした、眠くなるような試合展開だったと言わざるをえない。

浦和は前半のうちからボールを握って大分陣内で試合を進める時間が長かった。そして、3分には左でつないでからのクロスに右サイドバックの西大伍が合わせてあっさりと先制ゴールも決めた。

だが、その後は5−4−1で守りを固める大分を相手に攻めあぐねる状態が続いた。ボールを持っていても積極的に仕掛けることもできず、DFラインの間でパスを回すだけ。ちょっとでも危ないと思うと、ボールはすぐに自陣深く戻された。ゴールから遠いところでパスが回るだけ。パススピードが遅いので、左右にボールを展開しても大分のDFがスライドして簡単に対応してしまう。「ボールを持ってはいるが、攻めあぐね」そんな状態が延々と続いた。

そして、24分に左からのクロスのこぼれ球を町田也真人に蹴り込まれて同点とされると、さらに41分には下田北斗からの縦パス1本で崩されて町田に2点目を決められて、逆転を許してハーフタイムを迎えることとなった。

後半には選手交代を使い、また攻撃のギアを上げて無事に再逆転できたからよかったが、あまり褒められるような90分とは言い難かった。

“眠たい試合”になってしまった原因はいくつもある。

相手が今シーズンはなかなか結果を出せずにこの日の試合前までに18位と低迷している大分だったということが選手の意識に影響したかもしれない。しかも、非常に早い時間に先制ゴールが決まったことによって気持ちがさらに緩んだ。さらに言えば、20度を超える快適なコンディションの中で16時キックオフという中途半端な時間のゲームだったこと。この時間帯のゲームは往々にして眠気を誘うものである。

シーズンの序盤にはリカルド・ロドリゲス監督の新しい流動的なサッカーが浸透せず、また監督の側も選手の適性を探っている状態で苦戦が続いていた浦和だったが、約1か月間実戦を繰り返す中でようやく形が見えてきて、冒頭に述べたように4月に入ると勝利が続いた。小泉など、新加入選手の適性ポジションもようやく見つかって選手起用も安定してきた。さらに、右サイドバックに戦術理解能力が高く、各ポジションが流動的な中で柔軟にプレーを変えることができるベテランの西大伍が入ったことも好調の原因だ。

しかし、まだまだ完成形には遠い。したがって、決められた約束事つまり「型」をなぞってプレーする段階なので、この日の大分戦のように相手が引いて守ってくると、その「型」から離れて攻めることができない。そして、どうしても展開が遅くなってしまう。

うまくいった時には新しいサッカーが機能するのだが、何らかの理由で狙ったサッカーができないと応用が利かなくなってしまう。今の浦和の状態はそんなところだろうか。

これは、個性のある新監督が就任したチームが必ず通る道である。

イビチャ・オシム監督が就任したジェフユナイテッド千葉の選手たちは、最初のうちはオシム監督のサッカーをよく理解できずに、監督に「走れ」と言われていたので仕方なく走っていた。そんな状態が1年以上続いたが、次第に選手たちは何のために走っているのかが理解できるようになり、走ることで楽にプレーができ、自分の個性を発揮できることに気づくようになり、

そして、やがて何も考えずにボールを奪った瞬間に足が動き出すようになっていった。

ミハイロ・ペトロヴィッチ監督が最初にサンフレッチェ広島の監督に就任した時も、ミシャの新しいサッカーの理解は難しく、広島はJ2降格の憂き目を見た。チョウ・キジェ監督の湘南ベルマーレも最初はただ走るだけのチームだったが、選手が入れ替わる中で次第にチョウ監督のサッカーに馴染み、プレーの幅が広がり、応用力がついていった。

リカルド・ロドリゲス監督の徳島ヴォルティスが完成度を上げてJ2優勝=J1昇格にたどり着くまでは4シーズンを費やした。

浦和レッズの現状も、そんな「産みの苦しみ」の時期なのであろう。

いや、シーズン開幕からわずか1か月後の4月に5勝1敗という好成績を残して8位に浮上。けっして良い内容の試合とは言えない大分戦でも(「個の力」を結集した力ずくのサッカーによってではあるが)逆転で勝点3を確保した。開幕前の予想よりも、早いペースで新しいサッカーが浸透しているように見える。

もちろん、これからも山あり谷ありの時間が続くだろうが、近い将来に浦和レッズがどんなチームに生まれ変わるのかを想像しながら見るのは今シーズンの楽しみの一つになってきた。浦和のサポーターにとっても、ある意味でとても楽しいシーズンになるのではないだろうか。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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