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サッカー フットサル コラム 2021年4月9日

スピードあるパスでパラグアイを粉砕した女子代表。求められるのは、ゴールを追い求める貪欲さ

後藤健生コラム by 後藤 健生
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日本女子代表(なでしこジャパン)が約1年ぶりに活動を再開し、4月8日に仙台で行われた国際親善試合でパラグアイ女子代表を相手に7対0で勝利を収めた。

3月には男子の日本代表とU-24日本代表がそれぞれ韓国やアルゼンチンを相手に素晴らしい試合をしてわれわれに勇気を与えてくれたが、女子代表もそれに続いてくれた。

ただ、パラグアイは女子サッカーの世界では格下の相手であり、しかも準備不足だったという。7ゴールを奪っての大勝ではあったものの、手放しで喜ぶわけにもいかない……。パラグアイ戦はそんな微妙な勝利だった。

序盤戦から日本がボールを保持して攻める展開が続いた。そして、これまでの女子代表と一味違ってのは、パススピードや展開のスピードが速かったことだ。

2011年の女子ワールドカップで優勝した当時、なでしこジャパンは世界から「バルセロナのようなサッカー」と賞賛を集めた。ワンタッチ、ツータッチでテクニカルなパスをつないでビルドアップするサッカーは女子サッカーの世界に新風を吹き込んだ。それまでは、どちらかといえばフィジカル勝負の要素が濃かった女子サッカーだが、日本がそこに新しいパスサッカーで新風を吹き込んだことで、世界の強豪国の取り組みも変わり、女子サッカーは大きく発展した。

ただ、その結果として、日本も簡単には勝てなくなってしまった。対戦相手が日本のストロングポイントであるパス・サッカーを取り入れた結果、それだけを武器にしていては勝てなくなり、ここ数年は欧米の強豪国相手にはフィジカルやスピードで劣る分、劣勢を強いられる時代が続いていた。日本が再び世界の頂点を目指すためには、日本の良さ=パス・サッカーの精度を高めると同時に、スピード勝負やフィジカル勝負でも対等に戦えるようにしていかなければならないのだ。

そこで、高倉麻子監督はなでしこジャパンに、そうしたスピードやフィジカルの面を植え付けようとしているのである。

今回のパラグアイとパナマ相手の親善試合に向けて、高倉監督は25人の選手を招集したが、招集された若手選手の中には身長が160センチ台のサイズのある選手が多数含まれいた。たとえば、これまではFWで起用されていた20歳の宝田沙織は今回はDF登録で、パラグアイ戦でもセンターバックとしてプレーしたが、身長が170センチある。21歳で、これまでもCBを任されていた南萌華が172センチだから、CBコンビはともに170センチということになる。

高倉監督は、「意図してサイズのある選手を選んだのではない。育成の努力の結果、大きな選手が育っている」と語るが、将来的にはそうした大型の選手を使って、同時にスピードを求めていこうというのだろう。

日本の女子サッカーは、今、変化の時を迎えようとしている。

日本の女子サッカーを長い間リードしてきたのは、かつての読売サッカークラブの女子部門である「ベレーザ」、現在の日テレ・東京ヴェルディベレーザである。最近でも、ベレーザは2015年から2019年まで女子のトップリーグだった「なでしこリーグ」で5連覇を達成している。そのベレーザが追い求めるサッカーは、テクニックを重視し、テクニックのある選手たちが美しいパスをつないで攻撃するサッカーだ。

つまり、2011年に世界の賞賛を集めたなでしこジャパンの特徴とは、すなわちベレーザのサッカーだったわけだ。

ところが、2020年にはついにベレーザはなでしこリーグで優勝を逃して3位に終わってしまった。

ベレーザに代わって女王の座に就いたのは、浦和レッズレディース(今シーズンから三菱重工浦和レッズレディース)だった。

2019年に、ベレーザの基礎を築いた森栄次氏が監督に就任して作り上げたのが現在の浦和レッズレディースだ。ベレーザとは毎回のように素晴らしい試合を繰り広げているが、2019年の段階では「浦和がベレーザ相手に善戦した」という印象だったが、昨年の対戦では浦和が完勝した。

浦和のサッカーはサイズの大きな選手をそろえて、スピードやフィジカルの強さを利したサッカーだ。右サイドバックの位置から強引なドリブルで攻め上がる清家貴子やMFの塩越柚歩などを中心に繰り広げるサッカーは、これまでのベレーザのサッカーにはなかったダイナミックなものだった。

また、今シーズンからスタートするプロリーグの「WEリーグ」には参戦しないものの、昨シーズンのなでしこリーグでは2部から昇格したばかりのセレッソ大阪レディースが、20歳前後の若い選手ばかりのチームで旋風を巻き起こした。中盤から長いパスを使ってワイドに展開するサッカーも、これまでの日本の女子サッカーにはないものだった。今回の代表にも招集されている北村菜々美(現所属はベレーザ)や林穂之香(同じくAIKフットボール=スウェーデン)も、昨年まではC大阪の選手だった。

つまり、日本の女子サッカー全体が、今、少しずつ変わりつつあるところなのだ。

INAC神戸レオネッサのゲルト・エンゲルスやノジマステラ神奈川相模原の北野誠といった、男子のJリーグでトップチームの監督を経験した指導者も加わって、「強さ」を求める“男子的な”要素も加わっている。

そして、日本代表クラスの選手が多いベレーザ自身も、代表で世界のトップに立つためにという意識を高く持ってパススピードを追及するようになってきている。

こうした、日本国内の女子サッカーの最新のトレンド。なでしこジャパンの高倉麻子監督は、それをうまくすくい取って、代表としてまとめようとしているのだろう。パラグアイ戦では、その方向性はある程度まで示された。

ただ、フィニッシュの段階でのパス精度をさらに追求し、そしてチャンスを確実に仕留めることができるように決定力を上げることが大きな課題として残る。

高倉監督自身もゴールに迫ってもはずす場面が多かったことについて「不満だ。決定力が課題だ」と明言した。

パラグアイのように実力差のある相手だと、どうしても「パスを回して美しいゴールを決めたい」と思ってしまうのが選手心理なのだろうが、強豪国相手ではチャンスの数は多くないのだ。そこで、どんな形でもゴールを決めきること。3か月後に迫った東京オリンピックでも、そうした貪欲さが求められるはずだ。4月11日のパナマとの試合では、そんな意欲的な試合を見せてほしい。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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