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3月25日に日本代表が韓国と対戦することが決まった。この日は、本来ならミャンマーとのワールドカップ予選が行われるはずだったのだが、ミャンマーがアジア・サッカー連盟(AFC)に延期を申し入れてきたのだ。理由は明らかにされていないが、軍部によるクーデターの後の混乱でワールドカップ予選どころではないのだろう。
観戦する立場としては、ミャンマーと日本では実力差がありすぎて試合として面白くない。その点、力の拮抗した、そして互いに絶対に負けたくない相手である韓国との試合は楽しみである。
最近は、韓国と対戦する機会がすっかり減ってしまった。
直近の対戦は2019年12月18日の「EAFF E-1選手権」での対戦(釜山)で、日本は0対1で敗れている。その2年前の「E-1選手権」ではホーム(味の素スタジアム)で戦いながら1対4と大敗。当時のヴァイッド・ハリルホジッチ監督が「韓国の方が強いのは最初から分かっていた」と発言して物議を醸した試合だ。
いずれにしても、日本は2連敗しているわけだが、「E-1選手権」はいわゆる「海外組」が招集できないので、本当のフル代表の戦いとは言い難い面もある。最近は日本代表の主力はほとんど全員が海外組であり、韓国の方は海外組と国内組がほぼ半々なので、国内組だけで試合をすれば韓国が若干有利なのは間違いない。
本当のフル代表同士の戦いとなると、2011年8月に札幌で戦って、香川真司の素晴らしいゴールなどで日本が3対0で快勝している。
僕は、20年以上前のことだが、韓国のインターネットメディアからインタビュー取材を受けたことがある。1990年代のことである。当時、僕は毎年のように韓国を訪れていて、大韓蹴球協会を訪れても、だいたいどのフロアにも知り合いがいるような状態だった。そして、代表チームはもちろん、Kリーグの試合などについても記事を書いていた。
そして、当時、ようやく翻訳ソフトなるものが世に出てきたころで、韓国人の若者たちが僕の記事を見つけて読んでくれていたのだ。
日本語で発信をしていると、読者は日本人に限られる。もし、僕が英語やスペイン語で記事を書いていたとすれば、世界中の人に読んでもらえるわけである。たとえば、アルゼンチンと対戦して、アルゼンチン代表のことを書いたとしても、アルゼンチン人には読んでもらえないわけである。
ところが、韓国には日本語を理解できる人がたくさんいる。1990年代だと、日本統治時代に日本語で教育を受けた年配の人がまだまだお元気で、元韓国代表選手だったおじいさんたちに日本語でインタビューをしたことも何度かある。
そして、翻訳ソフトが出回って、若い人たちにも僕の記事を読んでもらえるようになったのである。
そのインタビューで「後藤さんにとって、夢は何ですか?」と聞かれたので、「ワールドカップ優勝」というのではつまらないと思って、僕はこう答えた。
「韓国代表に5連勝すること。ワールドカップ優勝よりも難しいと思うけど……」と。
これは、あちらで相当にウケたようである。
本心でもある。ワールドカップ優勝は(僕の目が黒いうちかどうかは別として)いつかは実現できると思う。だが、韓国相手に5連勝はまったくの至難の業だと僕は思う。
僕は、これまでに日本と韓国の試合を(数え間違いがなければ)36回観戦した。フル代表同士の試合だけで、である。
最初は1967年10月7日のメキシコ・オリンピック予選だった。フィリピン、台湾、レバノン、南ベトナムに日韓両国を加えた6チームによる総当たりで首位のチームだけがオリンピックに出場できる。
日本は初戦でフィリピン相手に15対0で大勝。その後も勝利を重ね、日韓両国とも3戦全勝で対決の夜を迎えた。国立競技場は雨が降っていて、泥沼のようなピッチだった。
前半は日本が2対0でリード。終了間際にもビッグチャンスがあったが、劣悪なピッチでボールが不規則バウンドしたため、八重樫茂雄のシュートは膝のあたりに当たってはずれてしまう。2対0のまま始まった後半は点の取り合いになり、試合は結局3対3の引き分けに終わる。終了間際には韓国のシュートが日本のゴールのクロスバーを叩く場面もあった。
得失点差の争いとなって、結局、フィリピン戦の15ゴールのおかげで日本は予選を突破。翌年のオリンピックで銅メダルを獲得することとなったのだ。
だが、この頃、日本は韓国相手にずっと勝てなかった時期だった。1959年のローマ・オリンピック予選(1959年12月)で勝利して以来、1974年9月の日韓定期戦で4対1の勝利を収めるまで、まる15年間も日本は韓国に勝てなかったのだ(オリンピックで銅メダルを取り、日本には釜本邦茂がいた時代だったにも関わらずである。日本Bが韓国のフル代表に勝ったことがあり、韓国側はこれをAマッチ扱いにしている)。
そんな日韓戦をずっと見てきたからこそ、たまの勝利は本当にうれしいものだった。
最も印象深い勝利が1993年のアメリカ・ワールドカップ予選。ドーハでの試合だ。1対0ではあるが、ワールドカップ予選という舞台で、内容的にも完勝だった。もっとも、この勝利で首位に立った日本だったが、次のイラク戦で引き分けて、ワールドカップ出場はならなかった。
せっかく、近くにこういう同格の(と言ったら、韓国人は怒るかな?)相手がいるのだ。もっと頻繁に試合をして、切磋琢磨すべきではないかと思う。かつて行われていた日韓定期戦を復活させてみたらどうだろうか? 当時は、フル代表の試合と大学選抜の試合が行われていたが、今だったら、フル代表以外にもU22とかU20、U17など、さらに女子代表やフットサルの試合などをまとめて日韓定期戦デーとして両国で一斉に行うのだ。
なにしろ実力は拮抗しているし、負けたくない相手だけに、親善試合でも緊張感を体験できる。
僕は、昔、韓国に負ける試合をずっと見せられ続けたのだ(36試合の内訳は7勝11分18敗だ)。死ぬまでに、少しは勝つ試合を見ておかないと負け越しのままになってしまう……。もっとも、今でも韓国はそう簡単に勝てる相手ではない。ますます、敗戦の数が増えてしまうかもしれないので恐ろしいのではあるが……。
とくに、新型コロナウイルス感染が拡大しているこんな時期だからこそ、近くにある韓国との交流をもっと実現したい。なにしろ、距離が近いのだ。日本チームが福岡県で合宿して釜山か蔚山あたりで試合をするとか、韓国チームが釜山で合宿して、福岡か北九州で試合をするようにすれば、入国してすぐに試合をして、そのまま帰国すれば、現地に泊まらないでもすむ。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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