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カタールで開かれているFIFAクラブ・ワールドカップで、メキシコのUANLティグレスとドイツのバイエルン・ミュンヘンが2月11日に行われる決勝への進出を決めた。
バイエルンは、飛行機の出発遅れによってカタール到着が遅れたことでコンディションが万全でなく、後半に入ると受け身に回った時間もあり、得点もロベルト・レバンドフスキの2ゴールだけに終わったものの、20本以上のシュートを浴びせてエジプトのアル・アハリを圧倒して見せた。
一方、この大会ではいつもヨーロッパ勢の前に立ちふさがる南米代表のパルメイラス(ブラジル)は、まったく良いところのないままティグレスに敗れてしまった。
ティグレスは、メキシコ勢としては初めての決勝進出だという。
メキシコは、クラブレベルでも代表レベルでも、ヨーロッパ、南米に次ぐ押しに押されもせぬ第三勢力である。そのメキシコ勢の決勝進出が初めてだというのはちょっと意外だ。代表レベルでも、メキシコはワールドカップで毎回のように決勝トーナメントに進出していながら、どうしてもトーナメントの1回戦(ラウンド16)の壁を敗れないでいる。メキシコのチームは、勝負強さに欠けるのだろうか?
さて、クラブ・ワールドカップの話題に戻ろう。
パルメイラス対ティグレスの準決勝で波乱が起こった原因は、もちろんティグレスが素晴らしい試合を展開したからだった。
相手のラインとラインの間のスペースを利用してパスを回して、最後は相手の裏を取るという戦い方は珍しいものではないかもしれないが、そのパスの精度が高くパス・スピードもあった。そして、トップのアンドレ=ピエール・ジニャクの存在も大きかった。
元フランス代表のジニャクは、高さもあり技術もあるFWだが、前線のスペースを求めて大きく動いて効果的なパスを引き出し、また献身的に守備もする素晴らしいセンターFWだった。
しかし、南米王者の敗退という波乱が起こった最大の原因がパルメイラスの側にあったことは間違いない。コンディションが悪く、動きのキレを欠いていたのだ。
年齢の高い選手が多かったこともあるだろう。
懐かしい顔ぶれも多かった。ワントップのルイス・アドリアーノはACミランやスパルタク・モスクワでもプレーしたが、なんといってもウクライナのシャフタール・ドネツクでの印象が強い。当時、シャフタールはブラジル人アタッカー多数を擁して毎年のようにUEFAチャンピオンズリーグに出場して、西ヨーロッパの強豪と互角の戦い繰り広げていたものだ。
また、後半、交代で出場したフェリペ・メロは、フィオレンティナやユベントスで活躍していた選手だった。僕がチャンピオンズリーグやセリエA中継の解説者を務めていた時代のことなので、個人的にもとても懐かしかった。
しかし、ルイス・アドリアーノは33歳、そしてフェリペ・メロは37歳だ。
もちろん、ジニャクももう35歳だ。しかし、年齢が上がっても、コンディションさえ良ければ十分にプレーできるのだろう。だが、パルメイラスはやはりコンディション的に難しい状況だったので、年齢の高い選手には影響が大きかったのだろう。
同じく懐かしの名前だった元アルビレックス新潟のホニは(新潟在籍時にも、そのスピードとキレの良さはJリーグ屈指のものだった)、そのスピードを生かしてこの準決勝のパルメイラスのベスト・プレーヤーだった。ホニは、まだ25歳だ。
パルメイラスは、1月30日に行われた南米王者を決めるコパ・リベルタドーレス決勝で、同じブラジルのサントスと対戦し、後半のアディショナルタイム、90+9分に決勝ゴールを決めてクラブ・ワールドカップ出場権を手にしていた。これだけの激闘を戦って、約1週間後(中7日)にクラブ・ワールドカップでティグレスち戦ったのだ。
そして、その間にはブラジルからカタールまでの長距離移動があった。
カタールとブラジルの間の移動というと、僕は2013年にブラジルで開催されたFIFAコンフェデレーションズカップを思い出す。日本代表はカタールの砂嵐の中でワールドカップ・アジア予選のイラク戦(中立地開催)を戦ってからブラジルに移動し、大会開幕戦でブラジル代表と対戦して完敗を喫したのだ。
僕も両方の試合を生で観戦したが、カタールからブラジルまでの移動はかなりきついものだったことをよく覚えている。日本がそんな状態で、対戦相手のブラジルは開催国として事前合宿をしてコンディションを整えていたわけで、日本が完敗を喫するのは当たり前のことだった。
リベルタドーレス決勝のような激しい戦いの後で、あの長い移動を強いられてはコンディションが悪かったのは当然だろう。
北半球のチームが南米で戦うのが難しいのと同様に、ブラジルのチームがヨーロッパやアジア大陸で戦うのはかなり難しいことなのだ(代表の試合であれば、セレソンの大半はヨーロッパのクラブで戦っているので話は違うが)。
そのため、これまで日本や中東で開催されたクラブ・ワールドカップでは、南米代表のクラブは開幕より1週間以上前に現地入りして万全の調整を行っていた。それが、今シーズンは新型コロナウイルス感染症拡大の影響で厳しい日程になってしまったというわけである。
バイエルンは飛行機のトラブルで到着が遅れたとしても、開催地がカタールだったことでかなり負担は減っている。日本開催の場合は、ヨーロッパから日本まで移動し、8時間の時差を調整しなければならず、ヨーロッパのチームは直前に到着するのでかなり厳しい移動となる。だが、カタールであれば、ドイツとの時差はわずかに2時間で済むのだ(そのため、ヨーロッパのチームはウィンターブレークなど冬場にちょっとした中断があると中東でミニ合宿を行うことが多い)。
メキシコ勢の決勝進出は初めてだが、クラブ・ワールドカップでヨーロッパと南米大陸以外のクラブが決勝に出場したことは過去に4度ある。
そのうち、2010年大会(UAE開催)のマゼンベ(コンゴ民主共和国)以外の3チームは、いずれも開催国のクラブだった(2013年のラジャ・カサブランカ=モロッコ、2016年の鹿島アントラーズ=日本、2018年のアル・アイン=UAE)。
代表チームのFIFAワールドカップでは、ほとんどの国が1週間以上前に開催国に入って気候への馴化や時差調整を行って開幕を迎える。だが、クラブ・ワールドカップでは(南米勢を除いて)どのチームも直前の現地入りが普通なので、やはり開催国に近い地域のクラブが有利なのであろう。
ちなみに、2021年大会は日本で開催される。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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