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サッカー フットサル コラム 2021年2月3日

「主戦論」だけでなく、総合的判断が必要。オリンピックやW杯は開催が可能なのだろうか?

後藤健生コラム by 後藤 健生
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去る2月1日、FIFAのジャンニ・インファンティノ会長がWHO(世界保健機構)のオンライン記者会見の席で「来年のカタール・ワールドカップは満員のスタジアムで開催する」と、大会の通常開催への自信を示したというニュースがあった。

いったい、何を根拠に言うのであろうか?

もちろん、開会予定まで半年もない東京オリンピックとは違って、カタール大会までは1年半もあるのだ。2021年いっぱいに世界中でワクチン接種が進んで集団免疫が獲得できる可能性も高い。とすれば、2022年に開催されるスポーツ界の2つのビッグイベント、冬季オリンピック(中国・北京=2月)とFIFAワールドカップ(カタール=11〜12月)は通常に近い形で開催することができるだろう。

その時点でも感染が拡大している地域があれば、その地域は除外してもいいし、観客数に制限を加えてもいい。さらに悪質な変異株が出現したりしない限り、開催中止や「無観客」が必要になることはないだろう。

だが、何分にも新型コロナウイルスについてはまだまだ未知の部分も多いし、ワクチンの有効性がどこまで持続するかも確認できたわけでもない。確定的なことは、何も言えないはずだ。

インファンティノ会長は、どんな根拠をもって「通常開催」を明言するのだろうか。

東京オリンピックについては、さらに不確定要素が大きい。

冬に入って、ヨーロッパでも再び感染が拡大し、変異株の出現という懸念も現実のものとなった。開催地である東京でも感染が拡大。日本政府による緊急事態宣言発出のタイミングが遅れた影響もあって感染拡大は簡単に収まらず、緊急事態は3月7日まで延長せざるを得なくなった。海外からの入国も停止され、プロ野球やJリーグ、Bリーグなどで外国人選手・監督が日本に入国できなくなってしまっている。J1リーグに昇格した徳島ヴォルティスは、リカルド・ロドリゲス監督が退任し(浦和レッズに移籍)、同じくスペイン出身のダニエル・ポヤトス監督と契約したものの、同監督が入国できず、監督不在のままキャンプイン。入国制限が続けば、2月末のJ1リーグ開幕も監督不在のまま迎えなければならなくなってしまうかもしれない。

そんな状態が続く中で、東京オリンピック開催が可能か否か、誰にも予想できるものではない。いや、常識的に考えればむしろ開催できない可能性の方が大きいのではないか。あるいは、開催するにしても「無観客」あるいは「国内の観客のみ」とせざるを得ない。「通常開催」は不可能と断定してもいい状況だと思う。

そんな状況の中で、東京オリンピックを開催すべきかどうかについては意見が分かれるところだ。実際、世論調査でも意見は大きく分かれている。

「こんな状況だからこそ東京大会を開催することで世界の人々に勇気を与えることができる」という考えもあるだろうし、一方で「生命の危険に直面している人もおり、生活が立ち行かなくなってしまう人たちも多い中、すべての資源を感染収束に振り向けるべきであって、オリンピックなど行うべきではない」という考えも成り立つ。

どちらが正しくて、どちらが間違っているというわけではない。

そのような状況では、関係機関のトップはどちらかに偏った行動をとるべきではないだろう。積極論、懐疑論の両者を勘案しながら最終的に責任ある結論を導かなければいけないはずだ。

FIFAのインファンティノ会長と同様に、IOC(国際オリンピック委員会)のトーマス・バッハ会長も「主戦論」一辺倒である。IOC会長としては「開催したい」と考えるのは当然だし、「開催するため」に努力を惜しまないのも当たり前だ。だが、同時に状況によっては潔く撤退を決断することも会長としての責任であろう。

政治の力によって「中止」を押し付けられるのではなく、スポーツの側から「中止」を言い出すべきだ。

先ほども述べたように、オリンピックやワールドカップを開催することには社会的な意義は存在する。通常時なら、誰にも異論はないだろう。だが、世界中が新型コロナウイルス感染症の拡大で苦しんでいる「有事」に開催への強硬論ばかり主張していては、世の中の反発を買うことになる。

僕も、スポーツ関係の仕事をさせてもらっている一人だし、何よりもスポーツ観戦が大好きな人間だ。オリンピックはぜひ観戦したい。そして、このコラムを読んでいる読者の皆さんも、スポーツに興味を持っている方たちだろう。

だが、世の中にはスポーツにはほとんど感心がないという人も多いのだ。そんな人たちに対して、「スポーツの意義」や「オリンピック開催の意義」を振りかざしても心に響くものではない。

IOCやFIFAのトップは、そのあたりもよく考えて決断してほしいのだ。

IOCやFIFAにとって、オリンピックやワールドカップというのは最大の収入源であり、大きな利権が絡むイベントだ。バッハ会長やインファンティノ会長が、そうした利権のために動いているとは思いたくないが、少なくともそうした組織の中で長年働いているうちに、「スポーツの意義」を過大に評価するようになってしまっているのかもしれない。

カタール・ワールドカップはまだ1年半先の話だが、オリンピックについては決断のタイムリミットが刻一刻と迫っている。誰が、いつのタイミングで、どのような決断を下すのか見守っていきたいと思う。

そして、ワールドカップについてはまだ何も言うべきではなかろう。

日本には「来年のことを言うと鬼が笑う」という格言がある。来年のワールドカップに関して、あまり勇ましいことばかり言っていると、鬼(新型コロナウイルス)が笑い出してしまうかもしれないではないか……

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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