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1月16日に予定されていたラグビー・トップリーグの開幕が、いくつかのチームで新型コロナウイルスの感染者が出たために中止となってしまった。
昨年のトップリーグが途中で中止となってしまったのに続いて、またも試練に見舞われたようだ。ここ数週間の感染者数の拡大を見ていると、今シーズンの日程消化ができるのかについても、心配になってしまう。
日本のサッカー界は、正月の天皇杯全日本選手権大会や全国高校選手権大会を終えると、短い、束の間のシーズンオフを迎える。そして、その時期にはラグビーシーズンが佳境を迎えるのだ(フットボールというのはもともと冬に行われるスポーツだ)。
そこで、僕も毎年、この時期にはラグビーの試合を観戦に行くことにしている。
「専門」であるサッカーと違って、他の競技の観戦は純粋に楽しめるし、僕にとってラグビー観戦はフットボールの原点に思いを馳せる行為でもある。
サッカーとラグビーは今から150年ほど前のイングランドで「フットボール」というスポーツから分かれて、それぞれ別個に発展してきた“双子の兄弟”と言ってもいい関係にある。“分化”(分裂?)から150年が経過して、それぞれが独自に発展してきたので、もともと同じスポーツだったとは思えないほど違いが大きくなってはいるが、どちらもフットボールの一種なのだ。
だから、ラグビーを観戦することによって“フットボールの原点”を思い起こすことができるような気がするのだ。
とにかく、そういうわけで今シーズンもトップリーグ開幕を楽しみにしていたのだが、開幕が延期になってしまったことはとても残念だった。
2020年の初めに、われわれ人類が新型コロナウイルスの感染拡大という事実に気が付いた頃、ちょうどシーズン真っ盛りだったトップリーグは中止を余儀なくされた。一方、開幕直後だったサッカーのJリーグは中断を決定。開幕直前だったプロ野球(NPB)は開幕を延期した。その後、JリーグとNPBは合同で対策を検討し、感染症の拡大が一段落した6〜7月になってJリーグは再開され、NPBも開幕を迎えた。
選手や審判、関係者など全員に定期的なPCR検査を行うなどの感染対策を徹底しながら日程を消化し、開幕(再開)当初は無観客試合(リモートマッチ)という形だったものの、その後段階的に観客の受け入れ数を増やしながら、JリーグおよびNPBは全日程を消化して大会が成立した。
ラグビーが昨年と今年、トップリーグを予定通り開催できなかったのに対して、サッカーとプロ野球は2020年シーズンを成立させることができた。
何が違っていたのだろうか?
フィジカルコンタクトを避けることのできないラグビーというスポーツと、身体的な接触の機会が少ないサッカーや野球という、競技の特性の違いなのか。それとも、他に具体的な原因があるのか……。この点は、将来の対策のためにもしっかり原因を究明しておくべきだ。
ただ、ラグビーにとって不運だったのは、ラグビーは感染症が拡大しやすい冬場にシーズンを迎えることである。
冬場に「第二波」もしくは「第三波」に見舞われる可能性が大きいということは、かなり早い段階から言われていたことだし、実際、正月早々に「第三波」は到来して、二度めの緊急事態宣言が発出されることになった。
その緊急事態宣言の直前に、サッカーはシーズンを終えた。
1月1日の天皇杯全日本サッカー選手権大会決勝と同4日のJリーグYBCルヴァンカップ決勝が開催されたのは、まさに政府が緊急事態宣言を発出する直前のことだったのだ。
サッカーが、無事にシーズンを終えることができたのは、そうした幸運のおかげでもあったのだ。
ルヴァンカップ決勝が行われた1月4日には国立競技場に2万4219人が集まった。久しぶりに見る“大観衆”にちょっとした興奮を覚えたものだ。だが、もし決勝の日程が1週間遅かったら、これだけの観衆を入れることは不可能だったはずだ。いや、政府が緊急事態宣言を実際より早く発出していたとしてたら、“大観衆”を集めるのはやはり不可能だった。
1月上旬以降、感染者数は急激に拡大した。
この急激な感染拡大は、時期的に考えれば年末年始の諸行事や旅行が原因となっていることは明らかだ。政府は本来であれば、年末年始に緊急事態を宣言して、人の往来を制限すべきだったのだ。
そのように考えれば、天皇杯やルヴァンカップ決勝を多くの観客を入れて開催したのは、(後から考えればではあるが)軽率だったような気もする。ルヴァンカップ決勝の試合後には、競技場の出口付近でかなり密な状況も生まれていた。
2020年シーズンを無事に終えることに成功したことで、サッカー界にちょっとした気の緩みが生じていたのかもしれない。ラグビー・トップリーグの開幕延期は、そんな楽観論に対する警鐘だったような気がするのだ。
2月にはトップリーグが開幕し、その後、JリーグもNPBも相次いで開幕を迎えることになっている。しかし、楽観は禁物だ。
「第三波」が、今後、どのように推移するのかは分からないが、今後、ワクチンの接種がいきわたって、社会が集団免疫を獲得するまではけっして油断してはいけない。
開幕延期に追い込まれてしまったラグビーのトップリーグで何が起こっていたのか、サッカーやプロ野球でも散発的に感染者は出ていた(そのために、11月に予定されていたルヴァンカップ決勝は年を越した2021年1月に延期になった)。スポーツ界全体で、そうした情報を共有して2021年の各競技の大会が無事に実施されていくことを望みたい。
もちろん、一日でも早く満員の観衆が入ったスタジアムの風景を見たいものだが、それはワクチンがいきわたった2021年後半まで待たなくてはならないだろう。各競技団体の運営担当者の方々には本当に頑張っていただきたいものである。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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