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1月2日に行われたドイツ・ブンデスリーガ第14節、アイントラハト・フランクフルト対バイエル・レバークーゼン戦でフランクフルトの長谷部誠がボランチとしてフル出場。その素晴らしいパフォーマンスが現地でも高く評価された。
僕も、この試合はライブで見た。
とはいっても、とくにこの試合を注目していたわけではなかった。たまたま時間が空いたので「何か試合をやっているだろう」とテレビを付けたら、たまたまこの試合が放映されていたのだ。僕が試合を見始めた時には、すでに10分にレバークーゼンが1点を先制した後のことだった。なんとなしにそのまま見ていたのだが、すぐに長谷部のプレーに目が引き寄せられていった。
20分過ぎには長谷部が絶好の位置からシュートを放ち、その直後には長谷部を起点にジブリル・ソウがつないでアミン・ユネスが決め、フランクフルトが同点に追いついた。
この得点場面の長谷部のパスは、たまたまその後がうまくつながって起点になったというものではなく、長谷部が中盤で浮いていたソウに速いパスを付けたことで打開に成功したものだった(試合は、後半、鎌田大地のクロスからレバークーゼンにオウンゴールが生まれ、フランクフルトが逆転勝利)。
僕は長谷部のプレーを高く評価しているし、彼が高校を出てすぐに浦和レッズでポジションを獲得して以来、ずっと注目している。だが、このレバークーゼン戦の長谷部は、とくに「それが長谷部であるから」とか、「日本人選手だから」ということで注目していなくても、自然に長谷部のところに目が行ってしまうものだった。
何しろ、中盤で“勝負の肝”となりそうな位置には必ず長谷部が存在したのだ。レバークーゼンが良い位置でボールを奪ってパスを回す。攻撃に出た後で、フランクフルトの陣形が崩れている。そんな時に的確にスペースをカバーしてピンチの芽を摘むのは必ず長谷部だったし、味方が何とかボールを奪った後、すぐに顔を出してパスを受けてボールを的確に配給して試合を組み立てたるのも、同点ゴールの場面のように攻撃のスイッチを入れるのも長谷部の役割だった。
だから、試合の流れを見ていれば自然と長谷部が目に入ってくるというわけだ。
この日の長谷部は走行距離ではチーム内で3番目だったというし、スプリント回数も多かったが、見ていれば無理に走っているような場面はなかった。実に優雅にバランスを取り、周囲に支持を出しながら余裕をもってプレーしているのだ。
90分フル出場して、パフォーマンスを落とすこともなかった。
レバークーゼンでは売り出し中の若手、17歳のフロリアン・ヴィルツがプレーしており、長谷部とも再三マッチアップする場面があったが、もうすぐ37歳の長谷部はまったく遜色のない動きを見せていた。
この数年スリーバックの中央を任されることが多かった長谷部だが、久しぶりの本職のボランチでのプレーはまさに出色のものだった。
フランクフルトのアディ・ヒュッター監督は若手中心のチーム作りに取り組んでおり、今シーズン長谷部の出番は減っていた。そして、フランクフルト側が「今シーズン限りでの引退」を示唆したとか、本人がそれを否定したといった報道が飛び交っていたが、このレバークーゼン戦での好パフォーマンスを受けて、現地でも「現役を続行すべし」といった声が高まっているらしい。
センターバックとしても、ボランチとしても、本当にサッカーを知っている選手であり、ゲームの流れをしっかりと読んで、そしてゲームを作れる選手だ。本場ヨーロッパの一流クラブで、日本人選手がそういう位置にいることをわれわれは誇りにしていい。同じブンデスリーガで遠藤航も同じようにチームの中心になっている。
さて、「今シーズン限り」かどうかは別として、37歳という年齢を考えれば長谷部が現役としてプレーする時間もそう長くはないはずだ。
そうであるならば、彼が現役である間に彼のプレーを日本の若い選手たちにぜひとも伝えておいてほしいものだ。
一つの可能性としては、フランクフルトを離れた後Jリーグに復帰して1シーズンでも2シーズンでもプレーしてほしいものだ。
あるいは、何らかの形で代表にも関わってほしい。
長谷部は2018年のロシア・ワールドカップを最後に日本代表から離れてしまった(代表活動という負担がなくなったことが、最近の好パフォーマンスにつながっていることは間違いない)。だが、引退の前に何らかの形で日本の選手にそのプレーぶりを伝えておいてほしいのである。
試合数限定でもいいから日本代表でプレーし、日本の若手選手にそのプレーやサッカーに取り組む姿勢を見せてほしいのだ。
たとえば、2021年に本当に東京オリンピックが実施されるのであるならば、オーバーエイジとしてオリンピック・チームでプレーすることは不可能なのだろうか?
次のワールドカップまで代表を背負ってもらうのは負担が大きいだろうし、そうであれば短期的に長谷部が入ることはフル代表の強化のためにはマイナスの影響も考えられる。だが、オリンピック・チームであれば準備試合を含めて2か月ほどプレーしてもらえばいいのだ。それによって、24歳以下の若い選手が(そのほとんどは長谷部とともにプレーした経験がない)“長谷部誠”を経験することができる。
もし、来シーズンもフランクフルトでプレーするとしても、長谷部がオリンピックの期間中チームを離れることをクラブも許容するのではないか。
ドイツで地歩を築いた長谷部には将来は指導者としてドイツで成功し、日本人監督のヨーロッパ進出の先鞭をつけてもらいたいものだ。だが、その前に何らかの形で日本の若手にそのプレーぶりを見せておいてほしいのである。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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