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元日に行われた第100回全日本サッカー選手権大会決勝では、川崎フロンターレがガンバ大阪を1対0で下して天皇杯初優勝を飾り、J1リーグ優勝に続いてのタイトル獲得で2020年シーズンの二冠(ダブル・チャンピオン)を達成した。
試合は川崎が圧倒的な強さを発揮した2020年を締めくくるに相応しい結果であり(延期となったYBCヤマザキナビスコカップの決勝戦は残っているが)、この特別なシーズンに「川崎フロンターレ」という強いチームがあったことが永久に記憶されることとなった。
ただ、試合内容を見ると、いろいろな意味で“不思議満載”のゲームだった。
試合は、立ち上がりの10分間と終了間際の10分間を除くと、川崎の一方的な内容だった。僕の観戦ノートには川崎のパス回しのパターンのメモだけが描かれ続けた。
公式記録によればシュートの数は川崎が27本で、G大阪は7本だった。
27本のシュート……。一流チーム同士の試合で、普通だったらあり得ないような数字だ。
川崎がJ3王者ブラウブリッツ秋田の挑戦を退けた天皇杯準決勝(2対0)では、川崎は慎重な戦い方を選択して秋田のシュートを1本だけに抑えたが、川崎自身のシュート数は14本だった。また、川崎とG大阪の対戦というと2020年11月25日のJ1リーグ第29節の試合、川崎が5対0で圧勝して優勝を決めたG大阪にとっては屈辱的な試合を思い出すが、この試合でも川崎のシュート数は“たったの”19本だった。
つまり、天皇杯決勝での川崎のシュート数27本というのは、秋田戦の2倍、そして、“あの”G大阪戦の1.5倍という数字となる。笑ってしまうような数字だ。「天文学的」とは言わないにしても、「フットサルのような数字」と言わざるを得ない。
そして、さらに奇妙なことは、27本ものシュートを放ちながら川崎のゴールがわずかに1点にとどまったという事実だ。
枠に飛んだシュートもG大阪のDF陣のブロックに遭い、またGK東口順昭のセービングの技術に防がれ続けた。そして、川崎のシュート自体も枠をとらえきれずに浮いてしまった場面が多すぎた。11月25日には“たった”19本のシュートで5得点を奪った川崎なのに、元日決戦ではいったいどうなってしまったのだろうか?
シュートが正確に飛ばなかった理由を一つ挙げるとすれば、国立競技場の芝生のせいだったかもしれない。
新しく建設されたスタジアムでは芝がしっかりと根付いていないこともある。
先日、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)で使用されたカタールの新スタジアムの芝生がどこもそうだったし、2002年ワールドカップを前に建設された日本のスタジアムの芝生も当初は酷い状態のものが多かった。
しかし、国立競技場は完成からすでに1年もの時間が経過しており、オリンピック、パラリンピックが延期され、しかもオリパラの準備のためにほとんど使用されないまま1年が経過した。だから、芝生はしっかりと根付き、ほとんど傷んでいない状態だったはずだ。
だが、川崎にとっては芝生が長すぎたのだ。
本拠地、等々力陸上競技場も芝生の状態が良いことで知られるスタジアムだ。そして、パスをつなぐサッカーを志向する川崎フロンターレに合わせて、試合の行われる時の等々力の芝生は短く刈り取られている。
だが、天皇杯決勝での国立の芝生は等々力の芝生より長かったのだ。そして、かなり密に成長した芝生が長めに刈り取られていた結果、選手がスリップする場面も何度かあった。
シュートの抑えがきかなかったことに、芝生の影響がある程度あったことは確かであろう。
もちろん、それを言い訳にしてはいけない。芝生が多少長くても短くても、あるいは荒れていても、それを見極めて適応するのがプロ選手というものだ。
とにかく、一方的にゲームを支配して27本ものシュートを浴びせ続けた川崎が55分の三笘薫のゴールだけに終わったため、ゲームは最終盤で大きく動きそうになってしまった。突然、反撃を開始したG大阪が何度か決定的なチャンスを作ったのだ。さらに、川崎のGKチョン・ソンリョン(鄭成龍)のファンブルなどもあって、「あわや同点」という場面があった。
序盤戦にも、G大阪は短い時間だったものの試合の主導権を握った。
立ち上がりのG大阪は最終ラインを高い位置に設定して、川崎がいつものようにパスを回して来たら、それを中盤の高い位置でインターセプトして、一気にショートカウンターを仕掛けることを狙っていた。最終的には、決定力のあるパトリックや宇佐美貴史がいるのだから、カウンターも効果的だろう。
そして、前半5分には宇佐美が仕掛けてFKを獲得し、宇佐美自身が入れたボールにパトリックが合わせてネットを揺らせたが、オフサイドで認められず、さらに10分には最終ラインの三浦弦太が自陣に少しだけ入った位置でパスをカットするなど、「高い位置でのパスカット」、そして「宇佐美とパトリックの決定力」という狙いは十分に実現できていた。
だが、その後、川崎がロングボールや縦パスを使ってG大阪の守備ラインを押し下げてしまい、その後は川崎がいつものように長短のパスを使い分けながらG大阪ゴールに迫った(そして、三笘の1点だけに終わった)。
もし、序盤戦のパトリックのゴールが認められていたとしてら、あるいは試合終了間際のチャンスに1点を決めていたとしてら、試合の結果はひっくり返っていたかもしれない。
川崎の27本ものシュート数もとんでもない出来事だし、それが1点に終わってしまったのも実にサッカーらしい現象だ。
しかし、そんないくつかの“不思議な”出来事があったとしても、やはり川崎はしっかりと結果を出してシーズンを締めくくった。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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