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先日、Jリーグが2020年シーズンの各賞の受賞者を発表した。
2020年シーズンは新型コロナウイルス感染症の拡大によって長い中断があり、再開後は超過密日程となり、それに伴って“降格”がなくなったり、5人交代制が実施されたり、また各試合で飲水タイムを設けたりと様々な意味で変則的なリーグとなった。
そして、各賞受賞者もベストイレブンのうち9名を川崎フロンターレの選手が占めるという、これまた例年にはない驚くべき結果となった。GKのチョン・ソンリョンをはじめ、DF4人とMF4人はすべて川崎。ツートップだけが鹿島アントラーズのエヴェラウドと柏レイソルのマイケル・オルンガとなったのだ。
年間の勝点や得点数などの記録を塗り替え、4試合を残して優勝を決めた川崎の圧勝に終わったシーズンなので、こうした選出も当然と言えば当然かもしれない。それほど、今シーズンは川崎が傑出していたということだ。
そこで、ちょっと違和感を覚えたのは、「それなのに」最優秀選手賞(MVP)にはオルンガが選ばれたという事実だった。柏レイソルは7位に終わった。7位のクラブからMVPというのにはちょっと違和感を覚えるのだ。
もちろん、MVPというのは個人賞だから、最下位チームから選ばれても問題はない。オルンガは得点王に輝いたし、それも32試合で28得点を奪うという圧倒的な破壊力だった。しかも、単にエゴイスティックに自らがゴールを決めるだけでなく、必要な場合にはしっかり味方を生かしてプレーもできるし、速さや強さだけではなく、技術の高さや戦術的な柔軟性も持ち合わせている。
だから、MVP選出も理解できることだ。しかし、MVPはやはり圧倒的な成績で優勝を勝ち取り、実際にベストイレブンのうち9人を占めた川崎から選ばれて然るべきではなかったかという気もするのである(オルンガおよび柏のファンの皆さん、申し訳ない)。
オルンガがMVPに選出された理由の一つは「では、川崎からMVPを選ぶことにするとして、誰を選ぶのか」という難問が存在したからなのではないか。
川崎の、ベストイレブンに選ばれた9人のうちからMVPを選べと言って100人に投票してもらったら、おそらく票はばらばらに分散してしまうことだろう。
守備の中心としてチームを支えた谷口彰悟でもいいし、サイドバックとして素晴らしいプレーをした登里享平だって候補となる。もちろん、中盤の守備の仕事を支え続けた上に、攻撃的な能力も発揮した守田英正、攻撃のリズムを作る仕事を全うした家長昭博。新人ながら独特のドリブルで川崎の攻撃に変化を付けて結果を出し続けた三笘薫……。誰もが候補のようで、また誰か一人を選ぶことも難しい。
何年か前だったら、強い川崎のシンボルは中村憲剛以外に考えられなかった。パスを回し続ける川崎の中で、一発のパスで局面を大きく変えて攻撃のスイッチを入れるのはいつも中村だった。一昨年の川崎の優勝時にMVPに選ばれたのは家長だった。こちらも、あの時の家長の絶対的な存在感を考えれば、誰もが納得する受賞だった。
だが、今シーズンの川崎にはそういう誰もがMVPと納得させる選手がいないのだ。
だれもがあの頃の中村憲剛のようだったし、また、誰もが一昨年の家長のようだった。家長自身もあの年と同じような活躍ぶりだったが、しかし、今年のチームの中ではけっして突出した存在でなかった。中村は昨年の大けがから回復して、ようやく復帰したと思ったら、突然引退を表明というサプライズをもたらしてくれた(本人は考え抜いた後の決断だったのだが)。したがって、プレー時間も少なかったため、ベストイレブンにも選出されなかったが、もし、全盛期の中村憲剛がいたとしても、今年のチームの中では一人だけ突出した存在とは見えなかったことだろう。
それほど、すべての選手がレベルが高く、一人の選手が守備の仕事も組み立ても、そしてフィニッシュもあらゆる仕事をこなせるスーパーなチームだった。
たしかに、川崎からMVPを選ぶことは非常に困難な作業になってしまう……。僕も「誰かMVPを選べ」と言われたら、たぶん困惑してしまったことだろう。「だから、オルンガ」という選択もありうるのかもしれない。
僕は、今シーズンのMVPは選手ではなく、新型コロナウイルス感染症の拡大という中でJリーグを再開し、全試合を無事に終了させたすべての関係者に贈りたい。
Jリーグも「チェアマン特別賞」という形で「新型コロナウイルス対策連絡会議」の賀来満夫委員長以下メンバー11人を表彰した。
さすがに自分たちで自分たちを表彰するわけにはいかないから外部の専門家たちを表彰したのだろうが、対策連絡会議をいち早く結成して、助言を受けながらリーグ戦の再開に漕ぎつけたJリーグ自体も何らかの形で表彰を受けてもいい。
Jリーグは、2月に2020年シーズンが始まった直後の2月下旬に第2節以降の延期を決めた。まだ、政府が緊急事態宣言を発出するはるかに前の段階での素早い、そして後から考えれば実に適切な決断だった。そして、延期を決めると同時にリーグ戦の再開を目指してプロ野球と合同で専門家会議を立ち上げ、その助言に基づいて様々な対策を練り上げ、そして状況が許すようになった6月末から順次リーグ戦を再開。日本ではPCR検査の検査数が不十分で、全数検査などどこも実施していない中で、選手やクラブ関係者、審判員の全員に対して一定の間隔で検査を繰り返すというのも大英断だった。
その結果、一部の試合の延期はあったものの、全試合を実施できたのだ。ACLの日程が二転三転する中で、過密日程がさらに超変則日程となる中で、とにかく全試合が実施できたこと自体奇跡的とも思える。
そして、無観客試合(リモートマッチ)で再開したリーグ戦は徐々に入場者数を増やし、そして、万全の対策とサポーターたちの協力もあって観客の間で感染者を出すこともなく無事にリーグ戦の日程を終了させたのだ。
村井満チェアマン以下、各部署でリーグ戦のオペレーションに当たった職員やクラブ関係者。難しい状況の中で精一杯頑張ってプレーした選手たち。一人の感染者も出さなかった審判員。難しい中で、手拍子だけでスタジアムを盛り上げたサポーターたち……。
僕は、すべての人たちに何か賞を与えたいのである。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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