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カタールで集中開催されていたAFCチャンピオンズリーグ(ACL)。準決勝でヴィッセル神戸が破れた結果、日本勢はすべて姿を消した。
ディエゴ・オリヴェイラが危険タックルによって壊されたFC東京が敗れたのに続いて、神戸もアンドレス・イニエスタを負傷で欠いた中での敗戦だった。また、神戸は準々決勝の水原三星戦でも延長・PK戦まで戦っていたので、準決勝では時計の針が進むとともに足が止まり始めた。後半の最後の時間帯に三浦淳宏監督がスリーバック(ファイブバック)に切り替えて1点のリードを守りに入った選択の是非が問われるところだが、選手のコンディションを考えれば守りに入ったのは当然の選択だったろう。
様々な意味で、今回の大会では日本勢には運も味方しなかったようだ。
そして、何よりも議論を呼ぶのが後半30分に佐々木大樹が決めた“2点目”がVARの介入によって取り消された場面だ。
中盤で安井拓也がボールを奪ってドウグラスとのワンツーで抜け出してシュート。このシュートはGKが弾いたが、詰めていた佐々木が蹴りこんだ。貴重な追加点となるはずだった。
ナワフ・シュクララ主審(バーレーン)もいったんはゴールを認めたが、そこでVARが介入。安井がボールを奪ったプレーがファウルだったと判定され、ゴールは取り消されてしまった。
2019年のアジアカップ、2020年1月のAFC U-23選手権に続いて日本チームはまたもアジアの大会でのVARに泣かされた……。
このジャッジに関しては、すぐにヴィッセル神戸が抗議の意思を示したのに続いて、日本サッカー協会の田島幸三会長も抗議文を提出する方針と伝えられている。
このジャッジに関しては論点が2つあるので、その2点をしっかりと区別して論じる必要があるだろう。
一つは、安井がボールを奪ったプレー自体が本当にファウルだったかどうか。つまり、判定基準の問題だ。
日本では「軽度のファウルがあってもできる限りプレーを続行させる」という方針の下、最近はコンタクト・プレーでは簡単にファウルを取らなくなっている。日本のサッカーがヨーロッパや南米と対等に戦えるようにプレー強度を上げる必要があるからだ。実際、この2〜3年、Jリーグでは選手が倒れてもプレーを中断させないことが多いし、選手たちも今ではそうした判定基準に慣れて多少のファウルを受けても倒れずにプレーを続行する姿勢が身に付き始めている。
ところが、アジアの審判、とくに中東の審判は「ファウルがあればすぐに笛を吹く」という基準を採用していおり、接触プレーで選手が倒れればすぐに笛を吹いてしまう。
そのため、日本のDFはJリーグであれば流してもらえるような接触プレーで反則を取られてしまうのでかなり神経を使うことになる。
そうした“アジア基準”を頭に入れておけば、たしかにあの安井のプレーは彼らの基準ならファウルを取られても仕方がないという気がするが、シュクララ主審はすぐそばで見ていながらノーファウルと判断してプレーを続行させたのだ(シュクララという審判は、中東の中では高いレベルにある信頼に足る審判員だ)。
判定基準はもちろん統一しておいてほしい。だが、国際試合で判定基準がズレてしまうというのは、ある程度は仕方のないことでもある。担当審判の癖を事前に上方修正しておいて、それに順応する必要があるのだ。いや、むしろそうした審判の癖を利用してFKやPKを獲得する方法を考えるべきだろう。
従って、安井のプレーがファウルかどうかについては何も言うべきことはない。
問題なのは2番目の論点。つまり、安井のプレーに対してVARを適用することの是非である。
日本サッカー協会のサイトに「ルールを知ろう!」というページばあって、そこではVARに関して次のような説明がある。
「VARはすべての事象に介入するわけではなく、役割はあくまでもフィールドの審判員のサポートです。VARは、最良の判定を見つけようとするものではなく、『はっきりとした明白な間違い』をなくすためのシステムです。VARを担当する審判員が自身に問うことは、『その判定が正しかったのか?』ではなく、『その判定ははっきりとした明白な間違いであったのか?』です。すなわち、ほとんど全ての人が『その判定は明らかに間違っている』と思う以外は、VARがその事象に介入することはしません」
つまり、明らかな誤審を防ぐために存在するのがVARであり、一つひとつのプレーが反則だったかどうかを検証することはその目的ではないはずなのだ。
安井のプレーが反則であるかどうかはレフェリーの判定基準の問題なのであって、けっして「明らかに間違っている」判定ではない。従って、本来VARを適用すべきではなかったのだ。
そして、同じ頁に「次の4つの事象+主審が確認できなかった重大な事象のみに介入します」として、VARが介入するのは「得点かどうか」、「PKかどうか」、「退場かどうか」、「警告退場の人間違い」の4つが例示されている。
ヴィッセル神戸の試合では準々決勝の水原戦でもVARが適用された。
1点を追っていた前半35分に抜け出した西大伍が倒された場面で、主審はPKを宣告し、張鎬翼(チャン・ホイク)にイエローカードを提示した。だが、ここでVARが介入する。その結果、PKではなく直接FKとなり、また張鎬翼の警告が取り消されて金泰煥(キム・テファン)が一発退場となった。
この場面では神戸の古橋亨梧がFKを決めたからよかったが、もしFKが入っていなかったら神戸にとって不利なVAR介入となった。だが、この場面でのVAR介入はVARの本来の役割が果たされた場面であり、完全に正当なもので、抗議すべき点はまったくない。
すなわちここで確認されたのは「PKかどうか」=反則があった場所がペナルティーエリアの中だったのか、外だったのかという点だった。そして、映像で確認した結果、反則の位置はラインのほんの少しだけ外だったためPKではなくFKとなり、また「人違い」によって提示された警告が取り消されて、反則を犯した本人である金泰煥にカードが示されたのだ(初めはPKの判定だったので「三重罰」にならないように警告だったのが、判定がFKとなったため「決定的得点機会の阻止」で退場とされた)。
問題の根本的な原因は、アジアの審判員たちが「VARはすべてのプレーに目を光らせるために存在するもので、いかなるファウルも見逃すべきでない」と考えている点にある。これまで、アジアの大会で日本チームがVARによって悩まされてきた場面のほとんどが、この点が原因だった。
日本サッカー協会としては、再発防止のためにAFCに対してVARの基準の再確認を強く申し入れをすべきであろう。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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