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新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期されていたAFCチャンピオンズリーグ(ACL)がカタールでの集中開催という形で再開された。12月19日の決勝戦までの長丁場だ。日本から参加している3クラブは中断前にすでに第2節までを消化していたので決勝進出した場合には8試合を戦うことになる。一方、すべての試合が未消化だった中国のクラブの場合はカタールの地でなんと10試合を戦うことになる(この大会が始まった今年の2月には、中国が感染拡大の中心地だった)。
そして、日本の3クラブは再開初戦の第3節、第4節ですべて中国のクラブと対戦した。過密日程を考えてどのクラブもメンバーを大幅に変えながら戦った6試合。結果は、日中双方が3勝3敗と全く互角の結果だった。
中国のクラブにとっては中2日での3連戦目、4連戦目という状況であり、コンディション的にも日本のクラブの方が良かったはずだが、同時に日本のクラブにとってはカタールまでの移動直後の試合であり、またピッチコンディションなどにも不慣れだったというディスアドバンテージもあった。
いずれにしても、すべてが大接戦だった。
内容的には日本の3クラブが相手陣内でボールを持って優勢に進める時間が長かったものの、中国勢の堅い守備を前になかなか得点に結びつけられず、そうこうしているうちに個人能力を生かした中国勢のカウンターに失点してしまうといった展開だった。
中国勢特有のラフプレーを交えたハードなプレーと、Jリーグとは違うアジアの主審の判定基準(簡単な接触でも選手が倒れるとすぐに笛が吹かれ、一方でラフプレーに対してなかなかカードが出なかったり……)にも苦しめられた。
もっとも、国際試合を戦う上で判定基準のバラツキは避けて通れない。おそらく中国勢にとっても同じような戸惑いの感覚はあったはずだ。大事なのは、その試合の担当審判の判定基準をいち早く見極めて、いかにしてそれに順応することだ。
また、2022年のワールドカップ用に建設されたカタールの新しいスタジアムは素晴らしい施設のようだが、残念ながらピッチ・コンディションは悪そうで芝生がはげるような場面も散見された。
2年後までにうまく改修できるといいのだが、ちょっと心配だ。
もっとも、日本でも2002年の日韓ワールドカップを前に建設されたスタジアムは、完成当時はどこもまだ芝生がしっかり根付いていなかった。そのため、大会前年に埼玉スタジアム2002で開催されたイタリアとの親善試合などでは芝生が柔らかすぎて、イタリア代表から酷評を受けたこともあったが、2002年大会の頃には万全に仕上がった。おそらくカタールのスタジアムも2年後には良い状態で大会開幕を迎えることができるのだろう。
さて、日本のクラブが苦戦を強いられたという話題に戻ろう。
苦戦の原因の一つに6試合で3回もPKを献上してしまったことがある。審判の判定基準の問題については先ほども触れたが、PKの場面の判定は疑義のないものだった。FC東京は第3節の上海申花戦と対戦。中村帆高が相手に裏を取られて手を使って止めてPKを与えてしまった。あの角度なら、無理に止めなくても得点になる可能性は高くなかっただろうから、もう少し冷静にプレーしていれば勝点を拾えていたはずだ。
最近のJリーグでも川崎フロンターレの谷口彰悟が大分戦で手を出して止めて退場になった場面があったが、すぐに手を出すのは日本のDFの悪い癖と言わざるを得ない。
横浜F・マリノスはカタールの初戦となる第3節で上海上港と対戦し、終了間際の90分に天野純がゴールを決めて1対0で勝利したが、この試合でもPKを取られた。
だが、オスカルが蹴ったPKをGKのオビ・パウエル・オビンナが見事にストップしたことによって横浜FMに勝利が転がり込んだのだ。
オビ・パウエル・オビンナは1997年12月生まれの22歳。今年入団した横浜FMから栃木SCにレンタルに出されていたが、ACL再開を前にレンタルバックの形で横浜F・マリノスに加わって早速ACLという舞台に立って、いきなりオスカルのPKを止めるという大仕事をやってのけた。「合格点」どころか、勝利の立役者となってしまったのだ。
第4節ではクロスボールに対して中途半端に前に出てボールにまったく関与できずにヘディングでゴールを許すというミスを犯して「若さ」を露呈してしまったが、それ以外の場面ではしっかりとした守備を見せていたし、また高い位置取りをする横浜FMの最終ラインの後ろの広いスペースをカバーする仕事も無難にこなしている。
若いGKの活躍はオビンナだけではない。
FC東京ではクラブの下部組織からの生え抜きの一人でもある波多野豪が安定感のある守備を見せた。FC東京では、長く正GKを務めてきた林彰洋がおり、今シーズン、波多野は林と競い合いながら少しずつ出場機会を増やしてきていたのだが、ACL再開を前に林が重傷を負ってしまったので若い波多野が全面的に守護神の役割を担うことになった。
1998年生まれの22歳の波多野は、198センチという長身を生かしてハイボールやCKなどをキャッチし、またキックで前線に長いボールを供給。第3節ではFC東京もPKを献上してしまったが、波多野は于漢超のキックを止められなかったが、コースは読み切ってしっかりと反応していた。
GKというポジションは1つしかないので、若いGKに出場機会を得られないといった場合も多いが、オビ・パウエル・オビンナや波多野豪は幸運にもACLという大舞台で出場機会をつかんだのだ。そうした幸運も、選手の成長には必要だ。
彼らだけではない。今シーズンのJ1リーグではサンフレッチェ広島の大迫敬介(21歳)、鹿島アントラーズの沖悠哉(21歳)、湘南ベルマーレの谷晃生(20歳)といった若いGKがで出場機会を得ているのだ。そして、彼らよりさらに下の世代には、浦和レッズの鈴木彩艶という身体能力の高い有望株もいる。いずれも、現代のGKに要求される足のテクニックも備えており、これから経験を積んでいけばインターナショナル・クラスに成長していくことが期待できる。
GKというのは、一時は「日本の最大の弱点」とも言われており、Jリーグでは韓国人GKの活躍ばかりが目についていた。もちろん、今でも韓国人やポーランド人など外国籍のGKが数多く活躍しているが、育成に携わる人々の努力によってようやく若い世代の優れたGKが育ってきたのである。
ACLに出場している2人の若手GKには今後も活躍を期待したい。アジアのトップクラスとの真剣勝負は何物にも代えがたい貴重な経験となるはずである。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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