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11月18日に行われたJ1リーグ第30節、川崎フロンターレ対横浜F・マリノスの試合は互いにテクニカルなパスを使った激しい攻め合いとなった。さすがに、昨年のチャンピオン・チームと今年の優勝に王手をかけたチーム同士の試合だった。
川崎の試合というと、ほとんど川崎がボールを保持してパスを回す展開になる。川崎が負けた試合でも、対戦相手はしっかり守ってカウンターかセットプレーで得点を狙うような展開ばかりだった。だが、この日の横浜FMは川崎に対して真っ向から勝負を挑み、ポゼッションでもパス回しでもまったく互角の戦いだった。
だが、前半の40分、横浜FMが中盤でボールを奪われ、川崎の田中碧が入れたボールに反応した長谷川竜也が、飛び出してくるGK高丘陽平の頭上を越すループシュートを狙った。そして、ペナルティーエリアを飛び出した高丘が片手を伸ばしてこのシュートを止めて、一発レッドで退場となってしまう。
「せっかくの素晴らしい試合に水が差されてしまった」と、僕は残念に思った。
実際、川崎は後半から投入された三笘薫が53分に先制点を決めてリードした。
だが、10人の横浜FMはその後も勝負を挑み続け、CKから畠中槙之輔のヘディングで同点に追いつき、ゲームは白熱した。最後は川崎が90分にFDのジェジエウが執念の決勝ゴールを決め、さらに三笘のロングドリブルから小林悠がダメ押しの3点目を決めたが、久しぶりにフルメンバーの横浜FMの素晴らしい試合を見た。
横浜FMは、これからカタールのドーハに飛んでAFCチャンピオンズリーグ(ACL)の集中大会に臨むことになる。
新型コロナウイルス感染の拡大によって中断されていたACLが、ドーハでの集中開催という形でようやく再開。日本からは横浜FMのほかFC東京とヴィッセル神戸も参戦するが、やはり最も期待が大きいのは昨年のJリーグ・チャンピオンとして参戦する横浜FMであろう。国内最後となった川崎戦はその実力を示した試合だった。
ただ、出場する3チームはFC東京が4位に着けているが、横浜FMが7位、神戸は11位とJ1リーグでは低迷している。いずれも11月18日時点での順位であり、3チームは他チームより消化試合数が多いことを考えれば、実際の順位はさらに下がる。
ただ、3つのクラブがJ1リーグで勝ち切れていないのは、一言でいえば対戦相手に分析・研究され、対策を講じられてしまっているからだ。Jーグには対戦相手のストロングポイント、ウィークポイントをしっかり分析して、相手の良さを消すために戦術的な準備をして挑んでくるチームが多い。相手が昨年の優勝チームであれば、当然、徹底的に分析される。だからこそ、「Jリーグ連覇」というのは難しいのだ。
横浜FMも「横浜対策」に苦しめられた。
アンジェ・ポステコグルー監督が導入した超攻撃的サッカーによって昨年のJリーグを制した横浜FMだったが、両サイドバックがインサイドハーフの位置にまで上がって攻撃に参加する“超攻撃的サッカー”には当然、弱点もある。
サイドバックが上がった裏にはスペースが生まれるので、そこにロングボールを蹴り込めば横浜FMのDFは自陣まで戻らなければいけなくなる。上下動を繰り返すことによって、サイドバックは消耗し、攻撃力も弱体化する。
流動的なポジション取りをする横浜FMの攻撃陣の動きに守備側が付いて動くとバランスを崩されてしまう。そこで、守るときには相手選手の動きに付くのではなく、横浜FMがパスを入れてくるスペースを消して守る……。それが対策だ。
横浜FMとしてはDF陣が上下動を繰り返さなくてもすむように、前線でプレッシャーをかけて相手ボールを回収したいのだが、そのためには前線での運動量が要求される。そして、それは日本の夏の猛暑の中では実践するのが難しい。さらに、今シーズンは超過密日程が横浜FMにとっての“最大の敵”となってしまった。
しかし、ACLで対戦する中国や韓国のチームがJリーグのように緻密に相手の良さを消すサッカーをしてくるとは考えられない。
各チームとも、映像などで分析はするだろうが、選手たちはピッチ上で対戦した経験がない。ピッチ上での対戦経験があるとなしでは大きな違いだ。そもそも、中国や韓国のチームがJリーグのチームほど戦術的に緻密な試合をするとは思えない。
2020年の2月に行われたグループステージの第1、2節では日本の3クラブは合計で6試合戦って5勝1分0敗という好成績を収めた。
とくに横浜FMはアウェーで全北現代(韓国)、ホームでシドニーFC(オーストラリア)にどちらも完勝した。スコアが2対1だった全北戦も内容は圧倒していたし、シドニーFCに至っては横浜FMの変幻自在なポジションチェンジに着いていくことすらできず、横浜FMが4対0で圧勝した。
さて、すでに2試合を終えて首位に立っている日本のクラブはグループリーグの残りは4試合だ。これに対して、中国のクラブはいずれもまだ1試合も戦っておらず(2月当時、世界で最も新型コロナ感染が拡大していたのは中国だった)、日本の3クラブは11月24日と25日の試合が初戦となるのに対して、対戦相手の中国のクラブ(FC東京は上海申花、ヴィッセル神戸は広州恒大、横浜FMは上海上港とそれぞれ対戦)にとっては、それが中2日での3連戦目となるのだ。
日本勢はコンディション的に有利な立場に立って戦えるし、対戦相手の中国クラブの試合を現地で偵察してから対戦できるのだ。例年でも「第3節、第4節はグループリーグで最も大事」と言われているが、その第3節と第4節で“最大の敵”とも言える中国勢と有利な状況で戦えるのだ。この2試合で勝点4を上積みできれば、グループリーグ突破に王手がかかる。そして、もし最終節を待たずに「通過」を決められれば、最終節では主力選手を休ませることもできるのだ。
11月から12月にかけての冬場のカタールは気候的にも最高の環境だ。ピッチ状態も万全のはず。移動や気候の変化、そしてピッチコンディションの良し悪しに悩まされることなく実力を発揮できれば、日本のクラブによる上位独占も夢ではなかろう。3クラブの健闘に期待したい。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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