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柏レイソルと横浜FCが昇格を果たした結果、2020年のJ1リーグには首都圏のクラブが2クラブも増えた。とくに、神奈川県内には昨シーズンのチャンピオンである横浜F・マリノスと今シーズン首位を独走している川崎フロンターレのビッグツーに加えて、残留を果たした湘南ベルマーレ、さらに昇格組の横浜FCと4つのクラブが存在している。
しかも、新型コロナウイルスの感染拡大による長い中断があった影響でリーグ戦が超過密日程になったおかげで、ほとんど毎週末とミッドウィークに首都圏でJ1リーグのなんらかの試合が開催されている。
そのため、今シーズンはJ2リーグやJ3リーグを観戦する機会がめっきりと減ってしまった。しかも、首都圏のJ2クラブはすでにJ1昇格レースから脱落してしまっているのだ。
そんな中で、11月7日の土曜日にはJリーグYBCルヴァンカップの決勝が行われる予定だったのでJ1の試合は予定されていなかった。そこで、J2リーグ第32節の東京ヴェルディ対徳島ヴォルティスの試合を観戦することができたのである。
J2リーグで首位を走り、昇格に向けて躍進を続ける徳島の試合を生で見るのは、実は今シーズンはこれが初めてだった(上位チームの試合はなるべく見るつもりではいるのだが……)。そして、徳島は本当に素晴らしかった。
基本的には4−4−2の並びの徳島だが、攻撃に移ると両サイドバック、とくに右サイドバックの藤田征也が高い位置まで上がり、3−2−4−1とでもいった並びに変化。中盤に6人を配して制圧する。そして、4−4−2で言えば右サイドハーフがオリジナルポジションとなる杉森孝起がトップ下に位置して、フリーマンとして随所に顔を出して攻撃に絡み続ける。
その、システムの切り替えが実にスムースなのに感心した。
攻守でシステムを変化させたり、サイドバックが攻撃に絡むようなことは、今のJリーグでは普通のこととなっている。昨年のJ1王者の横浜F・マリノスでは両サイドバックがインナーラップし、ボランチの位置、さらにはトップ下まで進出して、フィニッシュの段階にも関わっていた。
そして、そういう攻め方をするチームはいくつも見られる。
たとえば、この日の対戦相手の東京ヴェルディも、左サイドバックの福村貴幸がアウトサイドからオーバーラップするだけでなく、中盤でもMFとしてプレーしていた。
だが、徳島の“可変システム”のスムースさは特筆すべきものがあった。東京ヴェルディのシステム変更と比較すれば、それは明らかだった。
さすがにスペイン人監督(リカルド・ロドリゲス)のチームである。
こういう素晴らしいサッカーを見せられると、このサッカーがJ1上位相手にどこまで通用するものかをぜひ見てみたい。
今シーズンは昇格組の柏レイソルがオルンガという絶対のエースの活躍にも引っ張られて良い試合をしており、実際、ルヴァンカップでは決勝に進出している。また、同じ昇格組の横浜FCも自分たちでしっかりボールを回す素晴らしい内容の試合をしている(結果にはなかなか結び付かないが)。
徳島が、J1上位に対してどんな試合をするのか。ぜひ見てみたいものである。
激しい昇格争いを抜け出してJ1に昇格できれば、徳島の戦い方は来シーズンの楽しみの一つになることであろう。いや、徳島がJ2リーグで優勝できれば、来シーズンを待たずに、12月の天皇杯全日本選手権の準決勝、決勝で、徳島がJ1のチームに挑戦する姿を見ることができるだろう。
そして、この日の試合が良かったのは、東京ヴェルディが激しく戦ったからだった。
18分には藤田のFKを清武功暉が押し込んで早々と徳島がリードしたが、43分には藤田譲瑠チマのゴールで東京ヴェルディが同点に追いついた。
東京ヴェルディは、全体的には押し込まれる展開となってしまった。とくに、攻撃のスイッチを入れるDF高橋祥平からのパスを徳島に狙われてしまったのは大きな誤算だったろう。一方、東京ヴェルディの方も球際のところで体を張って徳島のチャンスメークを阻止。前半の30分を過ぎたころには東京ヴェルディのチャンスも生まれ始めて、試合は“殴り合い”的な様相に変化していった。
そして、85分には徳島の西谷和希が左から仕掛けて相手のハンドの反則を誘ってPKを獲得。岩尾憲がPKを決めて(86分)劇的な勝利。そして、昇格争いのために貴重な勝点3をゲットした。
技術はもちろん、インテンシティも高く、戦術的な変化さもあって、そして何よりも東京ヴェルディが首位の徳島相手にもまったく臆するところなく戦って見ごたえ十分な好試合だった。
インテンシティの高さという意味では、東京ヴェルディの18歳のボランチ、藤田譲瑠チマは得点を決めただけではなく、攻守にわたってこの試合でも強烈な印象を与えた。“中盤の底”でしっかり相手の攻撃をコントロールし、またボールを奪ってすぐにワンタッチで前線にパスを出す能力も高い。単にボールを奪うだけでなく、次の展開をあらかじめ考えたから行動に移すので、相手に脅威を与えられるのだろう。
43分の同点ゴールも、中盤で獲得したボールを藤田が持ち出して、端戸仁との大きなワンツーで抜け出した藤田がGKの脇下を通すシュートを決めたものだった。
当たりの強さとボール奪取能力に加えて攻撃面での貢献も大きく、J1における三笘薫(川崎フロンターレ)と並んで、藤田は“今シーズン最大の発見”なのではないか。
来シーズン、藤田はJ1のクラブでプレーすることになるだろう。いや、海外移籍があってもおかしくなない。さらに、U−20ワールドカップの中盤のエースとなるはずだった藤田だが、オリンピック代表にも選出されるかもしれない。いや、それどころではない。今シーズンの藤田の躍進ぶりを見ていたら、カタール・ワールドカップにも間に合うのではないかという気もしてくる。そういえば、11月4日に行われた東京ヴェルディ対ツェーゲン金沢の試合(2対2の引き分け)には森保一監督も偵察に訪れていたっけ……
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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