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「最近のサッカーは選手に対して優しいスポーツになったんだなぁ」とつくづく思う。
選手が負傷して倒れていると、味方チームの選手だけでなく、相手チームの選手もすぐにボールをタッチラインの外に蹴り出してプレーを止めてくれる。選手がプレーを止めなくても、レフェリーがプレーを止めて負傷の確認をしてくれる……。
昔の(僕が若かったころの)サッカーでは、負傷者が出ても、よほどの重傷である場合を除いてプレーを止めたりはしなかった。
そうした場面でボールを外に出してプレーを止めて、試合を再開する時にはスローインのボールを相手チーム=ボールを出してプレーを止めてくれたチームに返すような風習が生まれたのはヨーロッパでのことだった。
大昔、ヨーロッパにサッカーを見に行った時に初めてこういうプレーを見て、「ああ、さすが本場のヨーロッパだな」と感心した記憶がある。1970年頃の話だ。
そして、しばらくして日本でもそういうプレーが行われるようになった。
昔は、相手チームもレフェリーも、それほど優しくはなかった。
相手チームに負傷者がいたら(重傷なら別ですよ、あくまで)、それを利用して「これはラッキー!」とばかりに一気に攻め込んだりしたものだ。
だいいち、フットボールでは(ラグビーでも、サッカーでも)昔は選手交代が認められていなかった。大会によっては交代が認められることもあったが、たとえば最も権威ある大会ワールドカップで初めて選手交代が認められたのは1970年のメキシコ大会からだった(ちなみに、この大会では交代は2人まで)。
FIFAは、初めは交代は「負傷者が出た時だけ」にするつもりだったらしいが、実際にプレー不能になったかどうかを判断するのは難しかったので、2人までは自由に交代できることになったので、西ドイツのヘルムート・シェーン監督はうまく交代を使いながらメキシコ大会を戦った。
最近、『キーパー ある兵士の奇跡』という映画が公開された。
ドイツ生まれで、第2次世界大戦中に英国軍の捕虜となり、そのまま英国で暮らし、戦後はイングランドのマンチェスター・シティで活躍することとなったGKバート・トラウトマンが主人公の映画だ。このトラウトマンは、1956年のFAカップ決勝で負傷したままプレーを続行。試合後の検査で首の骨が折れていることが判明したという逸話で有名だ。
なにしろ、交代が認められていないのだ。他のポジションの選手ならプレーを止めさせて、その後は10人でプレーしてもいいが、GKとなるとやはりプレーを続行せざるを得なかったのであろう。
まあ、負傷した選手が重症化することを防ぐためにも、何らかの形でプレーを止めることは必要かもしれない。
だが、プレーが再開されるとすぐに倒れていた選手がむっくりと起き上がって、元気にプレーしているのを目にすると「なんで、プレーを中断する必要があったんだ」と疑問や不満を感じるのは僕だけなのだろうか?
最近はシューズの紐を結びなおしている選手がいると、レフェリーが試合を止めて待っている場面もある。昔はそんな場面では絶対にプレーを止めてはくれなかった。負傷の場合はともかく、靴の紐がほどけるというのはまさに「自己責任」なのだ。さっさとプレーを再開していいのではないか。
サッカーというのは、中断がなく、プレーが連続するところが大きな魅力なのだ。だから、レフェリーはうまくアドバンテージを取ることが要求されるし、選手が倒れてもプレーを流すべきだ。それなら、軽い負傷や靴紐直しなどではプレーを止めないですませる方法を考えるべきなのではないか。
ラグビーでは試合が続行している最中でもチームのメディカルスタッフがピッチ内に入って負傷して倒れている選手の治療に当たっている場面を見かける。その間、プレーは止められない。
まあ、ラグビーというのは激しいフィジカル・コンタクトが連続する競技であり負傷が続出するので、なるべくプレーを止めたくないのであろう。それに、ボールは人間が走るスピードより速く前に進めることができないルールなので、治療に当たっているスタッフがプレーに巻き込まれることも少ないのだろう。
だが、展開の速いサッカーでは“ラグビー方式”は難しそうだ。
僕は、2人主審制の試合を見たことがある。主審がピッチ上に2人いて、それぞれが笛を吹いて判定するのだ。FIFAが提案し、コッパ・イタリアで実験が行われた。
ただ、2人の主審の間でジャッジの基準にズレが生じることが多く、不評だったので2人主審制の実験はそれ以来行われていない。
ただ、見ていて「これは良い」と思ったのは選手が負傷した場面だった。選手が倒れると2人の主審のうちの1人がすぐに駆け寄って、選手の負傷の程度をチェックし、プレーを止めるか否かを判断するのだ。だから、不必要にプレーが止まることがない。
「2人主審」ではなく、ピッチ内に副審が(タッチライン沿いにいる副審とは別に)1人いれば、同じように負傷者のチェックができる。ピッチ内副審がいれば、負傷者のチェック以外にも様々な場面で主審をアシストすることもできよう。
審判員の人数も年々増える傾向にある。数十年の長きにわたって「主審1人に線審(現在の副審)2人」という体制でやってきたサッカーは、その後、第4審判が置かれるようになり、さらに最近になって追加副審やビデオ・アシスタントレフェリー(VAR)も導入された。それなら、ピッチ内副審がいてもいいのではないだろうか。
もちろん、アマチュアの試合などでは必要ないが、プロの試合というのは観客を楽しませなければならないのだ。「不必要な中断をなくすこと」も大事な観客サービスなのではないだろうか。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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