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サッカー フットサル コラム 2020年10月14日

DF陣の安定性と攻撃面での課題。強い相手との強化試合が実現したからこそ見えてきたもの

後藤健生コラム by 後藤 健生
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コートジボワールのパトリス・ボーメル監督が試合後に語った。

「準備期間は10日、トレーニングは8回しかなく、ゴール前の練習まではできなかった……」

だから、ベルギー戦ではPKの1点のみ、そして日本戦ではチャンスはそれなりに作ることができたもののノーゴールに終わったというわけだ。

「準備期間が十分に与えられない」というのは、世界中の代表監督たちが共通して抱えている悩み事だ。日本代表の森保一監督の場合も、同じだ。

森保監督は、サンフレッチェ広島でJリーグ優勝3回という実績を誇るが、広島時代は毎日のインテンシティーの高い練習で知られていた。他のクラブから広島に移籍した選手たちは「森保さんの練習は頭が疲れる」と語ったものだ。

だが、代表ではそんな時間が与えられることはワールドカップ本大会直前合宿までないのだ。

ワールドカップ・アジア2次予選が新型コロナウイルス感染症の拡大によって延期になったことで行われたオランダ・ユトレヒトでの合宿も時間が限られていた。

なにしろ、「海外組」の選手にとっては昨年11月以来、11か月ぶりの招集である。日本代表での約束事や選手間のコンビネーション、つまり森保監督の言うところの「コンセプト」を再確認することから始めなければならないので、いつもの代表合宿以上に時間が必要となる。

そうした状況では優先されるのは、当然、守備面である。森保監督はA代表では4バックをベースに戦ってきたので、今回もまず4バックの守備に集中して準備を行った。森保監督によれば「3バックの練習は5分間くらいしかやっていな」かったそうだ。

こうして迎えたカメルーン戦では守備の安定ぶりが際立った。とくに、センターバックコンビの吉田麻也と冨安健洋は1対1の勝負でカメルーンの選手と互角以上に渡り合った。走力やジャンプ力と言った身体能力、当たりの強さ、そして相手との駆け引きやパスコースの読みで上回ったし、CB同士のカバーリングなど、あらゆる面でカメルーンの強力なFWに勝っていた。

かつて日本代表で最も強力な守備を誇ったのは南アフリカ・ワールドカップにおける田中マルクス闘莉王と中澤佑二のコンビだったが、今の吉田・富安の両CBは単に相手の攻撃を跳ね返すだけではなく、ボールを前線に正確に供給する力があった。さらに、カメルーン戦で右サイドバックに入っていた酒井宏樹も素晴らしい守備を見せた。

さすがに“守備の国”イタリアのセリエAでレギュラーとして活躍しているCBであり、またアフリカ系の多いフランスの強豪クラブで経験を積んだDFである。

そして、彼らは「5分しか練習していない」3バックにもスムースに移行して、見事に流れを変えて見せた。

ただ、カメルーン戦では攻撃はさっぱりだった。せっかく、前線からのプレッシングと最終ラインの強さで奪ったボールを前につなげることができなかったのだ。守備は際立っていたが、攻撃面はさっぱり……。スコアレスドローは論理的な帰結だった。

そのカメルーン戦から中3日。この間も、やはりトレーニングのメインは守備だったようだ。前からのプレスをかけても、相手が強いチームなら、かわされてしまうこともある。90分プレッシャーをかけ続けることも不可能だ。プレスをかけてハメにいく場面と、引いて守る場面をどう見極めるか。それが、カメルーン戦の反省であり、コートジボワール戦での守備のテーマだった。

その結果、日本はコートジボワール戦でも危なげない守備を見せた。吉田と富安のコンビは相変わらずの強さを見せ、酒井に代わってサイドバックに入った室屋成も強さを見せた。GKのシュミット・ダニエルがセービングでチームを救った場面がまったく思い出せないほど、DFは安定していた。

そして、攻撃面では奪ったボールを前線までつなぐためのボールの動かし方が修正された。そして、それによって攻撃もかなり改善された。前線は顔触れが変わり、ほとんど一緒にプレーした経験のない組み合わせだったにも関わらず、良い形で前線にボールがつながる場面が増えて、日本代表は多くのチャンスを作った。

フィニッシュの段階でのクロスの精度が低かったため流れの中からの得点は生まれなかったが、これはボーメル監督がコートジボワール代表について言ったのと同じように、日本代表もゴール前の練習まで手が回らなかったからなのだろう。

ワールドカップ予選がコロナウイルス感染症の影響で再延期になっていなかったら、日本代表は10月13日にはコートジボワールではなく、モンゴル代表と戦っていたはずだ。

相手がモンゴルだったら、守備陣はあれほど緊張した競り合いを経験できなかっただろうし、コンビネーションが未確認であっても、クロスの精度が低かったとしても、個人能力だけで日本はおそらくゴールを量産できたことだろう。苦しめられるのは「海外組」にとってはヨーロッパから日本まで、そしてモンゴルまでの長距離移動による疲労と、モンゴルの寒さ(最高気温が摂氏3度!)、そして慣れない人工芝でのプレーだけだったはずだ。

オランダ・ユトレヒトのスタディオン・ハルヘンヴァールトの素晴らしいピッチで、サッカーをプレーするには絶好の気象条件の下、強い相手と良いコンディションで戦うことができたからこそ、日本代表のストロングポイントも、またこれからの課題も浮き彫りになったのだ。

コロナウイルス感染症の拡大という試練を逆手にとって最高の強化試合を実現させた日本サッカー協会の職員たちに拍手を送りたい。11月のメキシコ戦も試合が実現され、また内容的にも素晴らしい試合になるといいのだが……

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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