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去る9月18日、オンラインによる総会の後、国際サッカー連盟(FIFA)のジョヴァンニ・インファンティノ会長がカタール・ワールドカップ予選を集中開催方式で行う可能性を示唆したというニュースが流れた。
アジア2次予選は今年の3月以降に予定されていた試合が来年3月以降にまで再々延期となっており、今秋から予定されていた最終予選も1年先送りとせざるをえない状況だ。幸い、次期ワールドカップは通常の6月ではなく2022年11月開催なので、来年以降の日程が順調に消化できればまだ余裕はある状態だが、新型コロナウイルス感染症の拡大がいつ終息するか分からない状況では、予選の日程が消化できない状況も予想される。
実際、ヨーロッパでは無観客ながら国際試合も開催され始めたが(ただし、フランスなど西ヨーロッパは再び感染拡大の脅威に曝されている)、アジアやアフリカ、南米ではいまだ国際試合が開催できる状況にはない。
最悪のケースを想定すればホーム&アウェー方式が不可能になる可能性もかなりあるのだから、インファンティノ会長の発言は妥当なものだった。少なくとも、簡素化案を真剣に考慮することもなく何の根拠もなしに「東京オリンピックは開催可能」と強弁を繰り返す国際オリンピック委員会(IOC)よりははるかに責任ある態度と言えるだろう。
そうなると、日本代表としても感染状況の終息を願いつつ、集中開催での予選を視野に入れて準備をしていくしかない。
さて、そうなると「“集中開催”の開催地がどこに決まるのか」が大きな問題となる。
アジア予選は1997年のフランス大会予選以来ホーム&アウェー方式で行われるようになったが、この時は開催地を巡って東地区(マレーシアを提案)と西地区(バーレーンを提案)が対立し、「それでは」ということでホーム&アウェー方式に決まったという経緯がある。
中東で開催されれば西地区に有利になるし、逆に東南アジア開催となれば東地区が有利になるからである。
2020年のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)はグループステージの途中で日程が延期となっており、アジア・サッカー連盟(AFC)は集中開催を決めた。西地区は現在カタールで大会が進行しているが、東地区はいったん10月下旬開催と決まっていた日程が再延期され、開催が実現できるか定かでない状況にある。
もし、現在のような状況が続いた場合、アジア予選の集中開催の開催地もカタールに決まる可能性が高いのではないだろうか? 東アジア諸国では他地域に比べて感染状況は深刻ではないが、だからこそ他地域からの人の入域に対して慎重にならざるを得ないのだ。
まず、カタールには2022年大会用に新設された近代的なスタジアムが多数存在する。カタールとしても、リハーサルとしてなるべく多くの国際試合を開催しておきたいことだろう。また、カタールはワールドカップには開催国として出場が決まっているので、予選には参加しないから中立国ということになる。
したがって、集中開催方式が本決まりになれば、アジア最終予選はカタールの首都ドーハでの開催となる可能性が高いように思える(東西分離方式もありうるが)。
「ドーハでの集中開催」と言えば、日本のサッカー界には「ドーハの悲劇」という鮮烈な記憶が残っている。
1994年アメリカ・ワールドカップに向けてのアジア最終予選が1993年10月にドーハを舞台に開催され、3戦目で韓国、4戦目では北朝鮮と東アジアのライバルに連勝した日本代表は最終戦を前に単独トップに立っており、勝てば文句なしにワールドカップ初出場が決まるはずだった。しかし、イラクとの最終戦では1点リードのまま迎えたアディショナルタイムに追いつかれて2対2の引き分けに終わり、勝点で韓国とサウジアラビアに抜かれて3位に転落。目の前にあったアメリカ行きの切符が消滅してしまったのだ。
ワールドカップ予選というものの難しさを日本中の人が経験し、この時にワールドカップ出場は日本にとって本当の意味での“悲願”となった。
もし、来年の最終予選がドーハでの集中開催と決まったら、あの時の悪夢が蘇ってきて“悲観論”が飛び交うかもしれない。
そういえば、日本代表の森保一監督自身もイラクの同点ゴールが決まった瞬間にピッチ上にいた。先日、話を聞く機会があったが、「イラクのショートコーナーの時に、自分がチェックに行くべきだった」と今でも後悔が残っているような口ぶりだった。
しかし、あの時とは状況はまったく違う。開催地がドーハであったとしても、悲観視することはまったくない。
当時の日本はまだワールドカップには出場したこともなく、アジアの中でも5番手、6番手という存在だった。そして、中東という環境にも不慣れだった。中東で本格的に戦ったのは同じ1993年のUAEでの1次予選が初めてであり、ドーハに行く前には「あちらにはタクシーというものが走っていない」などといった怪しげな情報が流れていたくらいだ。
だが、今では日本はFIFAランキングでもアジア1位という実力を、中東ではその後も何度も戦ってきており、環境には慣れている。ドーハは2011年にアジアカップ優勝を成し遂げた地でもあるし、中東での戦いを前にドーハで直前キャンプを行うこともあるくらいで、同地との縁は深い。そして、日本代表選手の半数以上はヨーロッパでプレーしているが、ドーハならヨーロッパとの時差も小さく、選手にとっては移動の負担も少なくなる。
28年ぶりのドーハでの最終予選が実現すれば、悲劇の記憶を塗りなおすチャンスと考えていいだろう。
そして、もし2021年の秋〜冬に最終予選を勝ち抜いたとすれば、それは翌2022年に同じドーハで開催されるワールドカップ本大会に向けての最高のシミュレーションとなるに違いない。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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