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FC東京の長谷川健太監督は思い切って若手選手を多数ピッチに送り出した。
J1リーグ第24節のFC東京対大分トリニータの試合である。FC東京がAFCチャンピオンズリーグ(ACL)に出場するために日程が変更され、第24節の試合がこの日に行われたのだ。
新型コロナウイルス感染の拡大によって延期されていたACLのグループステージは、10月後半から集中開催という形で再開されることに決まっていた。そこで、この間に予定されていたJリーグの試合が前倒しで開催されることとなり、ACL出場チームにとってはただでさえ過密だった日程が一層厳しくなってしまったのだ。
もっとも、新型コロナウイルスの感染拡大がまだ終息しないために、東地区の試合はさらに11月後半以降に延期されてしまった(現段階では本当に東地区でもACLが再開できるのかは定かではない。なお、西地区は現在カタールで開催中)。
とにかく、いずれにしても他のクラブがお休みの水曜日(9月16日)にもFC東京や横浜F・マリノス、ヴェッセル神戸は試合に臨まなければいけないのだ。さらにYBCルヴァンカップの試合もあるので、FC東京の場合、5週連続で水曜日にも試合が組まれており、この大分戦がその4週目ということになった。
この超過密日程を乗り切るためには当然ローテーションが必要となる。そこで、長谷川監督はこの日、多くの若手を抜擢したのだ。
先発の11人の中には19歳の中村拓海と木村誠二(ともにDF)、20歳の品田愛斗(MF)が含まれ、さらにベンチには22歳のGK波多野豪や同じく22歳の内田宅也(MF)、ともに21歳のFWの原大智と田川亨介が座っていた(内田、原、田川の3人は交代出場を果たした)。左サイドバックの小川諒也も23歳だが、こちらはすでにレギュラーの座をつかみ取っているレギュラー格だ。
そして、特筆すべきはメンバー表を見るとこの若いメンバーのうち、木村、品田、波多野、内田、原、小川に「HG」の文字が記されていたことだ。「HG」は「ホームグロウン選手」のこと。つまり、この6人はFC東京の下部組織で育成された選手なのだ。
FC東京の下部組織の充実ぶりを示すメンバー表だろう。
そのほか、この試合ではメンバーに入っていなかったが、20歳の「HG」組、MFの平川怜も9月12日のヴィッセル神戸戦で交代出場している。
もっとも、大分戦は若手選手たちとってほろ苦い思い出となってしまった。大分に先行されたFC東京は懸命に追いにすがったものの、2対3のスコアで敗れてしまったからだ。とくに、守備面では大きな課題が残された。
前半のFC東京は、若いメンバーが多かったためか、非常に慎重だった。相手の大分はサイド攻撃を得意としており、守備の時には3−4−3だが、攻撃の局面になるとボランチの島川俊郎が最終ラインに下がって4バックに変化。両ウィングバックの高山薫(右)と松本怜(左)が高い位置に張って攻撃をしかけてくる。FC東京もそれは百も承知。両サイドバック(中村拓と小川)に加えて、左右のサイドハーフ(ディエゴ・オリヴェイラとレアンドロ)。そして、MFが絡んでサイドの守備をしっかり構築。途中で選手の並びを微調整しながら守り切って、互いにビッグチャンスをつかむことなくスコアレスでハーフタイムを迎えた(もっとも、大分がたとえば川崎フロンターレのように多くの攻撃の引き出しを持っているチームだったら無失点ではすまなかったろう。意識がサイドに集中した分、中央に大きなスペースができてしまったからだ)。
後半も、両チームともに交代なしで前半のままの展開が続いた。
だが、53分に一度は大分の攻撃を凌いだ後、MFのアルトゥール・シルバが無理にパスをつなごうとしてボールを失い、大分の松本に先制ゴールを決められてしまった。
すると、FC東京のブラジル人アタッカーたちが大きく動いて攻撃を活性化し、前半とは打って変わった点の取り合いとなり、結局、2対3で大分が競り勝つこととなった。
先制されたFC東京がメンバー変更も含めて攻撃に移ったのは当然としても、そうなるとどうしてもサイドの守備が手薄となってしまい、82分、85分と連続して大分に狙い通りの形でのビューティフルなゴールを決められてしまった。
FC東京の若手選手たちは攻撃では躍動した。たとえば、MFの品田は61分の1点目では起点となるくさびのパスを通し、試合終了直前90分には混戦の中から自らヘディングシュートを決めた。
若い選手たちには、ある意味では収穫があったが、攻守のバランスの取り方という意味では課題が突き付けられた。今後とも、過密スケジュールは続くので、若い選手たちには出場機会はいくらでも回ってくる。成長するためにはきわめて重要なシーズン後半ということになるだろう。
僕は、別にFC東京の試合をずっと追いかけて取材している立場ではない。
だが、大分戦に出場していた若い選手たちの多くはユース時代からよく見ていた選手たちだった。というのは、あの久保建英(ビジャレアル)がFC東京に加わってU−18(プリンスリーグなど)やU−23(J3リーグ)で戦っている頃、久保とともにプレーしていたのが大分戦で戦っていた若い選手たちだったからだ。
FC東京の長い育成の歴史の中でも“黄金時代”と言ってもいい時代だった。そして、そこで活躍した選手たちがトップにも加わって活躍の機会を得ているのだ。素晴らしいことと言っていい。
現在のFC東京U−18にも年代別代表に選ばれている選手も含めて原石が転がっていることだろう。変則的な編成ではあるがU−18のプレミアリーグも始まったので、トップチームの試合と同様こちらも楽しみにしているのだが、Jリーグの日程が過密なので、なかなかプレミアリーグを観戦に行く機会がないのが残念だ。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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