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サッカー フットサル コラム 2020年9月14日

ロングシュートの思い出。現代サッカーでは、もっと狙っていいのではないか?

後藤健生コラム by 後藤 健生
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先日、日本フットボールリーグ(JFL)第19節の東京武蔵野シティFC対ソニー仙台FCの試合を見に行ったら、素晴らしいロングシュートに出くわした。

前半の39分、中盤の深いところからドリブルでボールを持ち運んだ武蔵野の後藤準弥がハーフライン手前から放ったシュートがGKの頭上を越えて仙台ゴールのド真ん中に突き刺さったのだ。後藤がドリブルする間、武蔵野のFW2人もほぼフリーで前線に向かって走り込んでいたから、スペースにパスを送り込むのだとばかり思っていたら、後藤はしっかりと相手の状況を見て自ら狙ったのだ。

まあ、ロングシュートというのは年に1回くらいは見るはあるが、このシュートはなかなか素晴らしいものだった。

まず、大事なのはJFLの強豪同士の試合で0対0で均衡していた中での得点だったこと。仙台が縦に付けるボールを武蔵野の守備陣が受け手のFWをしっかりとマークして受け止め、カウンターとロングスローを使って反撃する……。そんな互角の攻防が続く中での思い切ったシュートだった。武蔵野は後半にPKで1点を追加して2対0で勝利することになるのだが、いずれにしてもこのロングシュートが勝負を決めたと言っていい。

そして、シュートが本当にゴールの枠の中央に見事に吸い込まれていったこと。ロングシュートの中には見ている方はもちろん蹴った本人も「あ、入っちゃった!」と驚くようなものもあるが、この後藤のシュートはしっかりと狙った通りのシュートで、見ている方もボールが空中高くを飛んでいる段階から「これは入ったな」と確信を持って見守ることができた。そんなシュートだった。

このロングシュートを見たことで、僕は過去に見たいくつかのロングシュートのことを思い出した。

たとえば、日本代表では小笠原満男が2006年2月のフィンランド戦でやはりハーフライン手前からのシュートを決めたことがあった。中盤でボールを持った小笠原に対して相手がプレッシャーをかけてこなかったので、小笠原は余裕をもって狙うことができた。シュートにしてもパスにしても、「遠くを見る眼」というのは小笠原の持ち味の一つだ。

また、2007年に韓国で開かれたU−17ワールドカップのフランス戦で柿谷曜一朗が決めたロングシュートもあった。これは、年代別とはいえワールドカップという大舞台であり、しかもフランスという強豪相手の得点だったので(残念ながら逆転負けを期したものの)ひときわ強い印象を残した。

しかし、僕のような世代にとって、「ロングシュート」と言えば、何といってもアーリー・ハーン(オランダ)のシュートであろう。1974年の西ドイツ・ワールドカップで準優勝したオランダ代表だったが、1978年大会にはエースのヨハン・クライフが出場を拒否。しかし、2次リーグに勝ち上がったオランダはオーストリアに大勝した後、西ドイツと引き分け、イタリアを破って2大会連続の決勝進出を決めた(決勝戦では、またも開催国と対戦して敗れて2大会連続準優勝)。その西ドイツ戦とイタリア戦でアーリー・ハーンがハーフライン付近からロングシュートを決めたのだ。

このロングシュートは、他のシュートとはまったく違っていた。というのは、高く上がってGKの頭上を越してから決まったのではなく、まさに地を這うような軌道で相手ゴールに突き刺さっていくシュートだったからだ。つまり、武蔵野シティの後藤や小笠原、柿谷のシュートが弾道ミサイルだとしたら、アーリー・ハーンのシュートは海面すれすれを飛んでくる巡航ミサイルのようなシュートだった。

しかも、イタリア戦のシュートの時、僕はハーンのちょうど真後ろから見ていたのでシュートが名GKディノ・ゾフの守るゴールに突き刺さっていく弾道は今でもこの目に焼き付いている。

そういえば、それよりはるかに昔、日本でもこういう巡航ミサイル型のロングシュートを見た記憶がある。

時は1966年、日本サッカーリーグ(JSL)が始まったばかりのころ。東京の旧・国立競技場でのナイトゲーム、三菱重工対八幡製鉄の試合だった。三菱のFW継谷(つぎたに)昌三がハーフライン付近から放ったシュートはまっすぐ八幡のゴールに向かって飛び、クロスバーに当たったボールが八幡のGK浜崎昌弘の背中に当たってゴールに飛び込んだのだ(継谷も浜崎も日本代表にも選ばれたことがある選手だ)。

そして、この継谷のシュートは弾道ミサイルではなく、巡航ミサイル的な直線的なボールだったのだ。

最近はGKがペナルティーエリアから出てフィールドプレーヤーのような働きをすることも珍しくなくなっているが、1960年代のGKはゴールを離れることはなかった。ディノ・ゾフだって、GKがそんな仕事をしようなどとは思ってもみなかったろう。それでも、ロングシュートは入ったのだ(昔のロングシュートが弾道ミサイルではなく巡航ミサイル型なのも、そういう理由なのだろうか?)。

それを考えれば、今のサッカーではGKがゴール前を離れている時間がはるかに長いのだから、もっとロングシュートを狙う場面があってもいいような気がする。

第一、1960年代や1970年代といえばボールは天然皮革の今より重くて蹴りにくいボールだったし、シューズだって今の軽量のシューズとはだいぶ違っていた。そうした用具の進歩を考えても、当時に比べればロングシュートははるかに蹴りやすくなっているのではないだろうか。

今では、GKがボックス外に出てプレーするのは当たり前のことだ。ヴィッセル神戸の飯倉大樹や横浜F・マリノスの朴一圭(パク・イルギュ)は前に出てパスの組み立てにも参加する。それなら、ロングシュートが決まる確率は高いはずだし、少なくともロングシュートを狙うことによってGKが前に出にくくなれば、神戸や横浜FMの攻撃パターンの一つを消すことだってできる。

もっと、ロングシュートは狙っていいのではないか。まあ、そんな得点ばかりになってしまっても困るのだが……。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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