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サッカー フットサル コラム 2020年7月15日

対戦相手はけっして「敵」ではない。大事にしたい、観客の拍手に包まれたスタジアムの空気

後藤健生コラム by 後藤 健生
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これまで無観客の「リモートマッチ」として開催されてきたプロ野球とJリーグが、7月10日を以て次の段階に移行。5000人またはスタジアムの収容力の50%のいずれか少ない方の数までの観客が入場できることになった。

プロ野球とJリーグは、これからも新型コロナウイルス感染症(COVID−19)の拡大を防ぐこととスポーツ文化を守ることの両者のバランスを取りながら、難しい舵取りを強いられることだろう。しかし、いずれにしても無観客開催が短期で終わり、曲がりなりにも観客を入れての開催に漕ぎつけたことは喜ばしいことと言うしかない。

スポーツは、少なくともプロのスポーツというものは、やはりファンやサポーターあってのものだ。

スポーツという非生産的な活動(いわば“遊び”)を行うだけで選手たちや関係者、あるいはそのスポーツの報道に携わる人たちが給料をもらって生活していけるのは、スポーツという行為によってファンやサポーターに夢や希望、活力といったものを与えるからでしかない。ファンやサポーターがいなかったら、プロ・スポーツというものはそもそも存在しえないのだ。

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もちろんテクノロジーの発展した現代社会では、スタジアムに大勢の観客が詰めかけなくても、PCやスマホがあれば世界中のスポーツをライブで楽しむことができる。

だが、スポーツ観戦の醍醐味はスタジアムでの生観戦である。生で観戦していれば、選手たちの息遣いやちょっとした空気の変化といったものを容易に感じ取ることができるが、やはり最先端の技術をもってしてもそうしたものを映像から感じ取ることは難しい。

4か月ぶりに、生で試合を観戦したことによって、僕はそのことを改めて認識した。

さて、5000人弱の観客が入ったスタジアムの雰囲気は、当然のことながらいつものスタジアムとは大きく違った。

観客“数”が違うのはもちろんだが、スタジアムに戻ってきた観客はいつものように「密集」を作ることなく、間隔を開けて座っていて、そして声を出すことすら禁じられているのである。

日本のプロ野球独特のトランペットや太鼓などを使った応援がなくなり、一部の野球関係者はそれを「大リーグのような雰囲気」とも評している。

Jリーグでも、サポーターの歌声やチャントは消滅し、ただ拍手と若干の歓声やため息だけが場を支配していた。

しかし、そこで僕が感じたのは何もネガティブな感情ばかりではなかった。とても、友好的で平和的な雰囲気だったのだ。

なにしろ、ブーイングができないのである。

できるのは「拍手」だけであり、拍手は“喝采”や“同感”を表すことはできても、“敵意”を表すためには使えない。

ところで、拍手という習慣は明治時代になって日本に取り入れられた西洋生まれの新しい文化だ。江戸時代までの日本では、手をたたくという行為には“喝采”の意味はなかった。手をたたくのは神社でお祈りをする時、あるいは料理屋や宿屋で従業員を呼ぶ時に行う行為だった。

もちろん、今では日本でも拍手は“喝采”を表す行為として完全に定着している。だが、数千年にわたって“喝采”を表現するために拍手を用いてきた西洋人に比べると、日本人の拍手はまだまだモノトーンであるように感じる(「西洋人」と一括りにすべきではないことは重々承知している。同じ西洋人でも、フランス人の拍手とスペイン人の拍手ではかなり違う)。

ヨーロッパではたとえば黙祷の際にも拍手を行うし、最近は医療従事者を称えるための拍手といったものもあるようだ。彼らは、そうした場面々々に応じて、同じ拍手にもニュアンスを込めることができる。

いずれにしても、拍手を使って相手を誹謗中傷することはできないから、拍手は歓声の代わりにはなってもブーイングの代わりにはならないのだ。

だから、拍手に包まれたスタジアムは平和で温かい雰囲気に包まれていた。アウェー・チームの選手が負傷して倒れたり、担架に乗せて運ばれていく時、普段のJリーグだったらブーイングが起こったりする。だが、今はスタンドからは拍手が聞こえてくるのだ。アウェー・チームのサポーターはいないはずなのに、だ。

そう、今はアウェー・チームという存在は「対戦相手」なのであって、決して「敵」ではないのだ。一緒に新型コロナウイルスと戦って、感染症の拡大を防ぎながらJリーグという文化を守るために戦っている同志なのだ。

イレギュラーな形の今シーズン。もちろん試合の勝敗や優勝争いは大事だが、それよりも共に手を携えて無事に試合を消化してシーズンを成立させるために協力することの方が大切なのだ。

そんな雰囲気のJリーグ戦はとても素敵だと思う。

まだ人数は大幅に制限されているものの、サポーターが戻ってきたスタジアム。今シーズンはそんな楽しみ方をしていきたい。

ところで、音響装置を使ってホームクラブのサポーターソングやチャントを大音響で響かせているスタジアムもある。無観客の時は、そんな人工的な音も選手たちの励みになったのかもしれないが、実際にサポーターが返ってきたのだから、もうそんな音声は不要ではないか。サポーターたちの温かい拍手をかき消してまで大音量で流す必要はない。今は、拍手に包まれたスタジアムを満喫したいものだ。

そして、できるだけ早く大声を出し、相手チームに対してブーイングの嵐を浴びせかけるいつもの光景が戻ってきてほしいのはもちろんだ。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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