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サッカー フットサル コラム 2020年6月8日

万全の態勢で再開を目指すJリーグ。東京五輪開催可否を考える目安にもなるのでは……

後藤健生コラム by 後藤 健生
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新型コロナウイルス感染症(COVID−19)拡大のために中断していたJリーグの再開が決まった。感染症対策は対戦日程の詳細はまだ発表になっていないが、再開当初は無観客での開催とし、またチームの移動による感染リスクを軽減するために開幕当初は近隣クラブ同士のカードが組まれるということだ。

ヨーロッパでは、すでにドイツのブンデスリーガが再開されており、さらにスペインのリーガ・エスパニョーラやイタリアのセリエAも6月中旬の再開が決まり、世界のサッカー界はようやく動き出すことができそうだ。

感染者数も死者数も日本と比べて桁違いに大きいスペインやイタリアが6月中旬に再開されることを考えれば、6月最終週からの再開というJリーグの方針はかなり慎重なものと言える。

こうした慎重さ、そして「感染者数を限りなくゼロに近づけたい」という強い意識こそが日本における感染被害低減の理由だったのだろうか。また、ヨーロッパ各国のリーグ戦は2019/20シーズンの残りの10節程度を消化すれば良いのに対して、J1で残り33節、J2では残り41節をこなさなければならないだけに、Jリーグではより慎重な姿勢が必要だったのだろう(もっとも、再開が遅れれば日程はきつくなるのだが……)。

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また、Jリーグがこの時点で再開を決断した理由の一つは全選手に対するPCR検査の実施が可能になったからでもある。再開の前に全選手・審判員役2400人に対してPCR検査を実施し、さらに2週間ごとに検査を繰り返し、データはJリーグ内に設ける検査センターで集中的に管理するという。

感染症のリスクを小さくするためには、こうした積極的な検査を行うに越したことはないのだが、日本ではこれだけの検査体制を敷いた組織はJリーグを除いて他にない。日本では当初はPCR検査の実施数が極端に少なかった。当時の能力を考えれば、すべての対象者について検査を実施するのは不可能だったし、感染者をすべて入院させる方針の下では感染者数そのものを抑える必要があったのだ。

しかし、今では無症状あるいは軽症感染者は入院はさせずに宿泊施設等で隔離することとなったし、PCR検査そのものも鼻の粘膜ではなく唾液を使った検査が承認されたことで検査数を大幅に増やせる態勢が整った。

数多くの検査が実施できるようになったこと。それが、政府による緊急事態宣言の解除とタイミング的に一致したことでJリーグは再開を決意したのだ。

Jリーグは、政府が大規模イベントの自粛を求めるよりも前にいち早くリーグ戦の延期を決定。その後、プロ野球(NPB)と合同で「対策連絡会議」を開き、専門家チームの助言を受けながら、万全の態勢を整えたうえで再開を模索してきたのだ。

今回の新型コロナウイルス対策に関しては、Jリーグは常に迅速かつ科学的な対応を続けてきたが、再開への準備という意味でも申し分のない対応だったと言えよう。そして、Jリーグでの検査体制や観客に対する感染症防止対策等々は他の競技にとっても大きな指針となることだろう。プロ野球とは「対策連絡会議」を通じて認識が共有されているわけだし、今後はトップリーグ機構などを通じて各競技のリーグ戦等の実施に際して、Jリーグ側からの情報は大きな役割を果たすことだろう。

さらに、日本では来年の7〜8月に開催が予定されているオリンピック・パラリンピックにとっても、Jリーグから得られた知見は重要な意味を持つだろう。

もちろん、原則として毎週1、2試合が行われるJリーグとオリンピックでは条件は大きく違う。とくに、オリンピック・パラリンピックの場合は海外からの観戦客が多いという大きなリスク要因も存在する。だが、スタジアム内での選手、審判員、役員、報道陣、そして一般観客に対する感染症対策をどうするのかという意味では、Jリーグの取り組みは、オリンピックにとってもある程度の参考になるはずだ。

ただ、オリンピック・パラリンピックが実際に来年、東京で開催できるかどうかは分からない。

もし、これだけ慎重に、万全の準備を整えたうえで再開したJリーグで、やはりそれでも新型コロナウイルスの感染を防ぎきれなかったとしたら、より大規模なイベントであるオリンピックの開催はほぼ不可能と考えるべきだろう。

オリンピック・パラリンピックの1年延期によって生じる追加費用は数千億円に達するという。もちろん、すでに日本はオリンピック開催準備のために数兆円もの巨費を投じてきているのだ。その投資を無駄にしないためにも、多額の追加費用をかけてでも2021年夏に大会を開催できれば、それに越したことはない。数兆円規模の経済効果があるのも確かだし、とくに新型コロナウイルス感染症によって大きな打撃を蒙った旅行業界、ホテル業界にとってはオリンピック開催は救いの神ともなろう。

だが、もし開催が不可能となるようなら、政府は一刻も早く「中止」を決断すべきだろう。追加費用をたとえ1000億円でも2000億円でも切り詰めて、その分の資金を治療薬やワクチン開発、あるいは新型コロナウイルス対策や生活に困った人々に対する支援に回すべきだろう。

「オリンピックのためなら、どれだけお金をかけてもいい」というのはあまりにも傲慢な、あるいは開催に伴う利権に固執した考え方だ。

もちろん、オリンピックが中止になれば、4年に一度の大会を目指して命がけの準備をしてきたアスリートたちにとって大きな痛手となることは間違いない。そんなことはあってはならないのは事実だが、だからといって、職を失って生活の途を絶たれたり、生命を失ったりする人たちがいる中でオリンピックを強行することは、決して正義ではないし、長い目で見たらスポーツのためにもならないのではないだろうか。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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