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サッカー・ルールを統括する「国際サッカー評議会」(IFAB)が、選手の交代枠を1試合3回から5回に拡大することを認める決定をした。2020年12月31日までの暫定措置で、実際に5人交代を認めるか否かは大会の規則によって決められる。
決定の目的は、新型コロナウイルス(Covid−19)対策。つまり、中断中の各国リーグ戦が再開された後に過密日程が予想されるからだ。
ヨーロッパではベルギー、オランダ、フランスが2019/20年シーズンの途中打ち切りを決めた一方、ドイツのブンデスリーガは5月16日から「無観客開催」という形で再開することが決まった。プレミアリーグなどは、おそらく7月以降に開催されることになりそうだ(アジアでは台湾や韓国でリーグ戦が再開)。
リーグ戦が再開されたとしても、次のシーズン(2020/21)の開幕を遅らせるわけにいかないから、かなりの強行日程で試合を消化せざるをえない。また、ヨーロッパでは、本来ならシーズンオフとなる暑い夏にリーグ戦が行われることになる。
つまり、「夏場の強行日程」を考慮して交代枠を拡大するというのが今回のIFABの決定の意図なのだ。
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日本では、政府による緊急事態宣言が5月31日まで延長され、Jリーグ再開の見通しは立っていない。おそらく、最初は無観客での開催となるだろう。また、緊急事態宣言が解除された県から先行して再開するなど、様々な対応が予想される。
いずれにしても、Jリーグの再開は最短でも6月下旬だろう。
なにしろ、リーグ戦の中断から2か月半が経過したのだ。緊急事態宣言後はクラブとしてトレーニングもできないでいるのだから、選手のコンディションはかなり落ちているだろう。トレーニングでコンディションをフィジカル、メンタルの両面で戻し、また、チーム練習で試合勘を身に着けさせるためには、3週間くらいの準備が必要だろう。十分な準備をせずに再開すれば、負傷者が増える心配もある。
さらに、再開が6月下旬とか7月だとすれば、開幕(再開)してすぐに猛暑期に差し掛かることになる。そして、大会を成立させるために試合の75%以上を消化しようとすれば、夏場にも強行日程(=週2試合以上の連戦)も避けられない。なにしろ、秋から冬にかけては第2派、第3派の感染拡大が襲ってくる可能性もあるから、日程は早めに消化しておく必要もある。
選手のコンディションが落ちている中、猛暑の中での強行日程が続けば、試合内容は低下し、故障者も続出することになりかねない。
そのためにIFABが「5人交代制」を導入したわけだが、これはヨーロッパの状況を想定してのもの。ヨーロッパより一層過酷な高温多湿の中でJリーグが強行日程消化を目指すのは、かなり危険なようにも思える。
「無理」を生じさせないためには、シーズン制を再検討すべきではないだろうか?
実際、ヨーロッパではそうした提案がいくつか出ている。つまり、2019/20年シーズンを夏に終了させるのではなく、秋までかけて消化しようというのだ。こうすれば、再開後のスケジュールも余裕をもって作成することができるし、オランダやフランスもリーグ戦を完結させられる。
さらに、2021年から「春秋制」を採用してみたら、という提案もある。2022年11月にはカタールでワールドカップがあり、「春秋制」を採用して10月までにシーズンを終えてからワールドカップに臨めるというのだ。
ヨーロッパ諸国が「秋春制」を採用しているのは歴史的、伝統的な理由だ。サッカーの祖先となった、中世英国の民俗フットボールは宗教暦に基づいて真冬に行われていた。そして、近代スポーツが確立された19世紀になると、英国では「夏はクリケット、冬はフットボール」というシーズン制が確立された。
だから、フットボールは今でも冬を中心に「秋春制」で行われているのだ。
だが、ヨーロッパ諸国の冬は厳しいが、夏は日本ほどの高温多湿ではない。猛暑の日も多いが、湿度はそんなに高くないし、夏でも肌寒いような日もある。
だから、ヨーロッパ諸国では気候的な条件で言えば、むしろ「春秋制」の方がプレーヤーにとっても、観客にとっても快適なはずなのだ。
Jリーグも、これ以上再開が遅れるようであれば、「秋春制」への変更を検討してみてはどうだろうか?
最近、学校の「9月入学」が取りざたされている。学校が再開された後、授業の遅れを取り戻すためには土曜日に授業を行ったり、夏休みも短縮したりする必要が出てくる。だが、猛暑の中で過密スケジュールになったら、学生生徒の健康を害する危険もある。それなら、「9月入学」(=7月卒業)に変更すれば余裕のある授業ができるというわけだ。しかも、「9月入学」は国際標準なので、日本人学生の留学や外国人留学生の受け入れのためにも都合がいいのだ。
Jリーグの「秋春制」移行も、まさにこの「9月入学」と同様のメリットがある(ただし、「9月入学」も「秋春制」も、どちらも難点が多いし、反対論も根強い)。
さて、Jリーグの暫定的「秋春制」はどのようなスケジュールになるのだろうか?
まず、7月に開幕(再開)した後、夏場は連戦を避けて1週間1試合のペースで試合を行い、冬場の「第X派」襲来に備えて秋口に試合を消化し、そのまま2021年春までのシーズンとする。そして、2021/22年シーズンは夏場の猛暑を避けて、延期された東京オリンピック終了後の8月下旬か9月上旬に開幕する。
そして、もし新型コロナウイルス感染の収束後には「春秋制」に戻すのであれば、2021/22年シーズンは余裕をもって日程を消化し、ワールドカップ前の10月初めに終了。次の2023年から元の「春秋制」に戻せばいい。
いずれにしても、この2シーズンはかなり余裕を持った日程が組める。感染の波が押し寄せれば、再び中断する必要が生じるだろうし、また、延期になっているワールドカップ予選のため、代表チームの活動のためにリーグ戦が中断されることも考えれば、この間は余裕を持っておいた方がいい。
また、冬場のと豪雪地域をどうするかという点は、いずれのシーズンも、現在のシーズンオフとほぼ同じ、12月下旬から2か月程度の長い「ウィンター・ブレーク」を置けばいい。そして、2シーズンにわたって「秋春制」を経験すれば、「秋春制」の長所も短所も明確になるだろうから、その後で将来のシーズン制についてもっと具体的に議論できるようになるだろう。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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