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UEFAチャンピオンズリーグで、昨シーズンの王者リヴァプールがアトレティコ・マドリードに敗れて、ラウンド16での敗退が決まった。
アウェーでのファーストレグを0対1で落としていたリヴァプールは、アンフィールドに戻ってのセカンドレグでの逆転勝利を目指した。そして、前半終了間際の43分にジョルジニオ・ワイナルドゥムの得点によって2試合合計スコアで追いつき、さらに延長前半にはロベルト・フィルミーノが決めて準々決勝進出に一歩近づいたかと思われた。だが、その直後、GKのアドリアンからのパスをカットされて、最後はマルコス・ジョレンテに決められてしまう。そして、アウェーゴールの差でリードしたアトレティコは再びジョレンテのゴールでリードを広げ、さらに試合終了直前にもモラタが決めて準々決勝進出を決めた。
ファーストレグが1対0だったため、セカンドレグはリヴァプールが攻め、アトレティコが守るという展開が予想された。「世界最強の矛」と「世界最強の盾」のぶつかり合いという分かりやすい構図だ。
だが、試合というものは予想通りに進むとは限らない。まず、予想と違ったのはリヴァプールの攻めがほんの少しだけだがチグハグだったところだ。
モハメド・サラーがせっかく抜け出したのに、ボールを置く位置がちょっとズレたためにシュートを浮かせてしまったり、縦に抜ける選手へのパスが流れてしまったり……。そのため、リヴァプールの攻撃の主役はスリートップよりも中盤から飛び出していくワイナルドゥムや アレックス・オックスレイド=チェンバレンだった。
攻撃が空回りしたのは、アンフィールドの激しい雨と風のせいだったのか、それともリヴァプールの選手に焦りのようなものがあったためなのか……。
しかし、悪天候といっても、あの程度の風雨はイングランドでは珍しいものではないだろうし、リードされているとはいえ差は1点。リヴァプールの攻撃力をもってすれば射程距離内の得点差であり、とくに焦るような状況でもなかったろう。
一方のアトレティコは、終始ほぼプラン通りだった。
ディエゴ・シメオネ監督とすれば、前半はスコアレスで折り返すというのが絶対のプランだったろうから、43分にワイナルドゥムに決められたのは誤算だったろう。だが、それでも120分間にわたって、リヴァプールの前線の選手に十分な仕事をさせずにボールを拾い、そしてシュートコースを消し続ける作業を続けることができた。
リヴァプールの攻撃陣に焦りが生じた最大の理由は、アトレティコとのファーストレグ以来、敗戦が続いたことによる心理的な影響だったのだろう。アトレティコ戦以降、プレミアではワトフォードにまさかの敗戦を喫し、さらにFAカップでもチェルシーに敗れていた。無敗のチームだったからこそ、たった2つ、3つの敗戦が大きく影響したのだ。
シーズンは長い。10か月にわたって最高の状態を続けることはどんな強豪でも不可能だ。不調の時期の落ち込みをなるべく少なくすることができるチームこそが最終的にタイトルを掴むというのがリーグ戦である。たとえばリヴァプールはこれからいくつか星を落としたとしても、これまでの貯金があるからリーグ優勝は確実だ。
ところが、ノックアウト・トーナメントではそうはいかない。
チャンピオンズリーグでは、毎シーズンのように強豪が「まさかの敗戦」で早い段階で姿を消すことがある。それまでどんなに素晴らしい勝ちを重ねていたとしても、大事な試合を「底」の状態で迎えてしまったために敗れてしまうことがあるのだ。
それが、今シーズンのリヴァプールだった。
「1シーズンをどのようなサイクルで戦い抜くのか」
強豪チームの監督の頭をつねに悩ませるところだ。
残留争いをするようなチームの監督はそんなことは考えなくていい。彼らは、とにかくどの試合でも全力で戦って勝点を拾い続けていくしかない。だが、優勝を狙うチーム、とくに国内リーグとチャンピオンズリーグと2つのタイトルを狙うような強豪の監督にとっては年間を通じての戦略を考えなくてはならない。
開幕時点ではピークに持って行かずに、シーズンの戦いを通じて最も大切な秋の連戦や年明けのチャンピオンズリーグ再開の時期にピークを持ってくることが定石だ。
いつのシーズンでも、年間を通じての戦い方のプランは監督たちの頭を悩ます難問なのだ。ところが、今シーズンはそこにさらに難しい事態が発生した。新型コロナウイルス(Covid−19)の感染拡大である。
日本では、2月21日にJリーグが開幕したが、第2節以降が延期となった。当初は3月18日に再開予定だったが、再開はさらに先延ばしとなり、その後の見通しもはっきりしない。「開幕ダッシュを決めよう」と考えていたチームにとっては大きな痛手だったろうし、たとえば新監督就任後に準備期間が足りずに苦戦を強いられていた鹿島アントラーズなどにとってはチーム作りを進める絶好のチャンスとなるはずだ。
シーズン終盤を迎えているヨーロッパの各国リーグも大きな影響を受けるだろう。
すでに、1万人を超える新型ウイルス感染者を出しているイタリアではセリエAの中断が決まった。イタリア以外でも、今後無観客開催を強いられる国も拡大するだろうし、セリエAに続いて中断を余儀なくされる国も出てくるはず。
そんな先の見えない中でも、チームをいつでも戦い続けられる態勢に置くことができるか。あるいはせっかくの中断期間をチーム状態好転のためのきかっけにすることができるかどうか。つまり、監督のマネージメント能力が問われるわけである。
チャンピオンズリーグ敗退が決まったリヴァプールのユルゲン・クロップ監督にとっても立て直しのチャンスではあるのだが、リーグ戦はすでに優勝が確実でカップ戦はすべて敗退とあっては、むしろモチベーションの維持に苦労することになりそうだ。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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