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再開されたUEFAチャンピオンズリーグ(CL)。ラウンド16のファーストレグではイングランド勢が思わぬ苦戦を強いられた。チェルシーがホームでバイエルン・ミュンヘンに0対3の完敗。ハリー・ケインとソン・フンミンを欠くトッテナム・ホットスパーもやはりホームでRBライプツィヒに敗れてしまった。さらに、プレミアリーグでは無敗で首位を独走中のリヴァプールもアウェーでアトレティコ・マドリードに苦杯を喫してしまう。
イングランド勢にとってポジティブな結果といえば、マンチェスター・シティが敵地サンティアゴ・ベルナベウでレアル・マドリードを破った試合だけだった。
まあ、リヴァプールにとって敵地での1点差負けは十分挽回可能な数字。アンフィールドでのセカンドレグは、リヴァプールという最強の矛を最高の盾アトレティコがどう守るかという試合になるだろう。そして、マンチェスター・シティはアウェーゴールを2つ手にしており、さらにレアル・マドリードはセカンドレグではセルヒオ・ラモスを欠くだけに、マンチェスター・シティは非常に有利な状況に立っている。
ただ、昨シーズンはプレミアリーグ勢がベス8に4つとも勝ち残り、決勝もプレミアリーグ勢同士の戦いとなったことを考えれば、今シーズンはイングランド勢にとっては苦しい戦いになっていると言わざるを得ない。
長期的な観点からも、プレミアリーグについては変化の時期にあるのだろう。
まず、1つ目が英国のEU(欧州連合)離脱問題だ。
2016年の国民投票で「EU離脱」が決まったものの、その後、何度も延期されてきた離脱が今年の1月31日の午後11時(=英国時間。つまり欧州中央時間で2月1日午前0時)に実現。今後の両者の関係を決める何らかの協定が結ばれるはずだが、現段階ではあまりに多くのことが未確定のままだ。
プレミアリーグが欧州最強リーグとなったのも英国がEUに加盟していたことと関係している。
もともと英国は欧州大陸諸国と比べると外国人の入国に厳しい国だった。たとえば、EUに属している間も、英国は域内の出入国の自由を決めた「シェンゲン協定」に参加していなかったので、EU域内から入国する際も厳しい入国審査が行われていた。
サッカー選手の移籍についても英国は制限を加えている。日本人選手がイングランドのクラブと契約しても、代表歴などの条件が整っていないために労働許可が下りないというケースをよく見かける。
だが、EU加盟国のパスポートを持つ選手の場合はなんの規制も受けなかった。
1995年の欧州司法裁判所での判決(ボスマン判決)によって、サッカー選手についても「労働者の移動の自由」の原則が適用されるようになったからだ。EU国籍を持つ労働者は国境を越えて任意の国で働くことができるという原則だ。EU加盟国の選手は英国の労働許可を受けなくてもプレミアリーグでプレーできたのだ。
そして、テレビ放映権料の高騰によってイングランドのクラブは豊富な資金を手にしていた。イングランドの中堅どころでも欧州大陸のビッグクラブ並みの財政力があったから、イングランドのクラブは多くの優秀な外国人選手と契約できたのだ。
だが、英国がEUを離脱した以上、「労働者の移動の自由」の原則は適用されなくなる。今後、外国人選手についてどのような規制が行われるようになるのかはまだ何も決まっていないが、これまでのように自由ではなくなるのは間違いないだろう。
さて、今シーズンのCLのラウンド16でイングランド勢の唯一勝利を手にしたマンチェスター・シティだが、ご承知のようにUEFAからファイナンシャルフェアプレー(FFP)違反を指摘されており、2月14日にはUEFAが3000万ユーロ(約36億円)の罰金と来シーズンから2年にわたるUEFA主催大会への出場禁止を発表した。クラブ側はスポーツ仲裁裁判所(CAS)に対して異議を申し立てたが、今の段階では来シーズンはCLに出場できなくなる可能性が高い。
低迷していたマンチェスター・シティがイングランド最強クラブの一つとなったのは、2008年にアラブ首長国連邦(UAE)の投資グループ「アブダビ・ユナイテッド・グループ(ADUG)」からの投資を受け入れたことによるものだ。そして、同グループの傘下にあるエティハド航空がクラブのメインスポンサーになっている(「エティハド」はアラビア語で「ユナイテッド(連合)」の意味)。そのエティハド航空からのスポンサー料が水増しされていたというのが今回のFFP違反の内容だ。
正当なスポンサー料であれば、それを移籍金や人件費(つまり、選手の給与)に使っていいのだが、投資グループがスポンサー料という名目でクラブの赤字を補填したとすると、それはFFP違反となる。
イングランドでは、すべてのビッグクラブがさまざまな形で国外からの投資を受けている。今回のマンチェスター・シティに対する処分によって、他のクラブも国外の投資家からの資金供与を受けにくくなることも考えられる。
こうした意味でも、プレミアリーグ・クラブの経営はこれまでと同じような形では進められなくなるかもしれないのだ。
CLでのイングランド勢の苦戦は、単に今シーズンの優勝の行方を左右するだけでなく、英国のEU離脱やFFPによるマンチェスター・シティのCL出場権剥奪といったピッチ外での動きと併せて考えるべきだろう。
こうした数々の難題を克復するための最良の方法は、自前での育成、つまりいわゆる「ホームグロウン選手」を増やしていくことだ。国籍がどこであれ各クラブが育成した選手であれば、当然、各クラブは自由に契約することができる。そして、ホームグロウンの選手であれば、巨額の契約金は不要になる。
今後はイングランドでも選手の育成がこれまで以上に重要になるだろう。実際、イングランドにおける選手育成はすでに成果を上げ始めており、各年代別の代表も強化されているし、また2018年のロシア・ワールドカップで比較的年齢の低いイングランド代表が活躍したことも記憶に新しい。
今、われわれはイングランド・サッカーに関する一つの時代の転換を目撃しているのかもしれない。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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