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試合開始時刻が近づく頃には柏レイソルの本拠地「三協フロンテア柏スタジアム」の上空に雲がかかり始め、朝から吹き荒れていた風も一層強まってきた(関東地方の“春一番”だったらしい)。そして、コイントスに勝った柏はサイドを入れ替えて風上側を選択した。
その強風が、J1リーグに昇格した柏レイソルを後押しした。
試合開始直後に北海道コンサドーレ札幌がいきなり決定機をつかんだ。左サイドの菅大輝がクロスを上げ、鈴木武蔵が狙ったが惜しくも枠をとらえることができなかったのだ。その後も札幌はいくつかチャンスをつかんだが、クロスが風に押し戻されてぴたりとは合わなかった。試合後にミハイロ・ペトロヴィッチ監督が言ったように、クロスボールを武器にするチームにとって風の影響は大きかったようだ。
一方、縦に速い攻めを意識する柏にとっては、背後からの風はまさに“追い風”だった。
13分に右サイドでのスローインから素早くつないで江坂任が決めてあっさりと先制すると、20分にはその江坂からのロングボールを追ったオルンガが飛び出してきた札幌のGK具聖潤(ク・ソンユン)をかわして追加点を決めた。
昨年のJ2リーグで優勝して1シーズンでのJ1復帰を果たした柏だが、J2最終節では京都サンガと対戦してなんと13対1という驚異的なスコアで大勝したことは記憶に新しい。その時にはオルンガが「何をしてもうまくいく」という状態でなんと8ゴールを決めたのだが、札幌戦はその時の試合の続きのような展開だった。
もっとも、札幌も攻撃の手を緩めず、公式記録によればシュート数は柏が24本、札幌が20本という攻め合いとなったのだが……。
J1に昇格した柏は、J2で戦った昨シーズン以上のチームに成長していた。なにしろ速いのだ。オルンガという純粋に走るスピードが速い選手がいるせいでもあるが、高い位置から積極的にボールを奪い、奪ったボールを早いタイミングで縦に走る前線の選手に付ける。攻から守への切り替えの速さも含めて、非常にアップテンポなサッカーをする。
その「縦に」あるいは「前に」という意識の強い柏にとっては、背後からの追い風が大きな味方になって、速さがますます際立つこととなった。
2点目のオルンガの得点は札幌のDFとGKの連係ミスによるものだったが、ミスが生じたのは風に乗ったボールが思いのほか伸びたからでもあろう。
早い時間帯での2ゴールで勢いに乗った柏は、後半、風下に立ってからも札幌の守備陣の背後を突く縦への攻撃でさらに2点を追加して勝負を決めた。
試合前のコイントスで風上を選択したことがチームを勢いに乗せた。その価値は単に第1節での勝点3にはとどまらないだろう。J1に昇格しての開幕戦での勝利は、チームに自信や勢いをつけるに違いない。長いシーズンを見据えても、試合前のコイントスでの勝利は大きな意味を持つことだろう。
かつて2011年にはJ1昇格の年にいきなり優勝という偉業を達成したことのある柏。監督もその時と同じネルシーニョということもあって、当然クラブはその再現を狙っていることだろう。もちろん容易なことではないだろうが、第1節の快勝劇を見ると、少なくとも優勝争いに絡んだり、いわゆる「台風の目」として上位チームを苦しめることは十分に可能だろう。
ネルシーニョ監督といえば、Jリーグ発足当時から日本で活躍していた名指揮官だ。当時とは日本サッカーのレベルもまったく違っているはずだ。そして、最近はヨーロッパでの傾向を追って日本でも攻撃的サッカーが全盛を極めている。ネルシーニョ監督もそうした最近の傾向に見事にキャッチアップして、現代的で攻撃的なチームを作り上げてきたようだ。
「台風の目候補」という意味では、柏には完敗を喫したものの、北海道コンサドーレ札幌も忘れてはならない。
ミハイロ・ペトロヴィッチ監督にとって3シーズン目だけに、その攻撃サッカーの完成度もかなり上がっているはずだ。ただ、柏戦では相手のスピードに苦しんだだけでなく、せっかくチャンスをつかんでもフィニッシュの段階でパスにズレが生じたり、パスの出し手と受け手の意思疎通がうまくいかなかったり、チグハグな場面が多かった。まだ、ゲーム勘のようなものが足りないような状態なのではないか。
しかし、それでもピッチを左右に大きく使って展開するサッカーは披露できていたし、チャナティップの技巧的なドリブルやジェイや鈴木武蔵のスケールの大きさなど、チームが噛み合っていけば攻撃力は間違いなく高いはず。柏戦にしても、後半に入ると全体のまとまりも出て2点を奪って追いすがって見せた。
札幌も、やはり「台風の目」候補となるだろう。
J1リーグのオープニングマッチとして、2月21日の金曜日に行われた湘南ベルマーレ対浦和レッズの試合では、湘南が素晴らしいゲームをした。
4バックに切り替えた浦和のMFとDFの関係性が悪く、中盤が手薄になっていたのに乗じて、湘南の福田晃斗、齊藤未月、山田直輝の3人が中盤を制圧。パス出しのタイミングと受け手の動き出しのタイミングもすっかり連動しており、90分のうち70分程度は湘南のリズムだった。
ただ、1点リードの前半の最後の時間帯にちょっとした隙を突かれて連続失点を喫したり、PKの失敗があったりで浦和に逆転を許してしまったが、魅力的なサッカーをしていたことは間違いない。
第1節だけを見ても、湘南や柏、札幌などは攻撃的で魅力的なサッカーで上位争いに殴り込みをかける勢いだ。優勝争いだけでなく、魅力的なサッカーをするチームには注目したい。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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