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ヴィッセル神戸のトルステン・フィンク監督は「どっちが勝ってもおかしくない面白い試合だった。日本のサッカーのためのすばらしい広告になった」と語った。2月8日に行われた「FUJI SEROX SUPER CUP」である。
試合は神戸が先行しては、横浜F・マリノスが追いつくという展開で3対3の引き分けに終わり、PK戦で神戸が優勝を決めた。「サッカーでは3対3という試合がいちばん面白い」と言われることもあるが、J1王者の横浜に対して“挑戦者”の立場の神戸が先行したこともあって見ごたえのある試合となった。
おまけにPK戦では両チームの3人目以降が9人連続失敗という話題性まで提供してくれた。たとえばワールドカップの準決勝とか、U−20ワールドカップ出場権が懸かるU−19アジア選手権の準々決勝とは違ってそれほど緊張感のあるPK戦ではなかったが、“9人連続失敗”という異常事態でにわかに注目度が高まった。
つまり、ミスが試合を引き立てたわけだ。
90分の試合もそうだった。派手な点の取り合いとなったのは横浜の守備のミス絡みでもあった。神戸の2点目はペナルティーエリアを飛び出したGKの朴一圭からのパスをDFのチアゴ・マルチンスがコントロール・ミスしたところを古橋亨梧に拾われたもの。3点目も、DFの伊藤槙人のパスミスを山口蛍にカットされたところからの失点だった。
もし、これが真剣勝負の試合だったら、横浜にとっては「とんでもない負け方」ということになる。両サイドバックを高い位置まで上げるなど超攻撃的なポステコグルー監督のサッカー。GKやDFがパスを回す場面が多いが、そこでミスを起こしてしまっては致命的な事態が生じる。このチームの潜在的な弱点になるものだ。
もし、リーグ戦の戦いでこんな負け方をしたら「ポステコグルー監督流のサッカーでいいのか?」という話題にもなる。
だが、この試合は「公式戦」とはいえ、チームにとってはプレシーズンマッチの一つなのだ。まだ、チーム作りの途上にある今の段階で多少のミスが生じるのは仕方のないこと。むしろ、「ミスは今のうちにたくさんしておくべき」とさえ言える。
むしろ、そうしたミスのおかげで点のたくさん入る試合となり、攻撃的サッカーを志向する両チームにとっては、それこそ「最高の広告」となったわけだ。
もちろん、得点はミス絡みだけではなかった。
横浜の3得点はそれぞれ違った形によるものだった。1点目は、サイドバックがインナーとしてプレーするこのチームの特徴そのままに、ティーラトンがのマルコス・ジュニオールに付けたボールから始まり、人数をかけた厚みのある攻撃によるもの。2点目は、遠藤渓太のクイックスローからエリキがつないだもの。3点目は仲川輝人の大きなサイドチェンジを遠藤が折り返すスケール感のあるもの。その他にも、横浜らしい攻撃の形が見える場面が何度もあった。右の松原健、左のティーラトンという両サイドバックが繰り出す相手の裏を突くスルーパスは昨年を上回る精度だった。
一方の神戸の方は、試合全体としては劣勢だったものの、高い位置でのプレッシングによって横浜のDFやGKの間のパス交換にミスを誘って3点を奪った。そして、圧巻だったのは、このチームの看板であるアンドレス・イニエスタのプレーだ。
神戸の先制ゴールはイニエスタがドリブルしながら2人のDFの間を通してドウグラスに通した絶妙のスルーパスによるものだったし、49分に左サイドからピンポイントで逆サイドを駆け上がった山口に合わせたロングパスも見事だった。その直前には、タイミングを計ったショートパスで古橋を使い、その戻ってきたボールをいきなり逆サイドに振ったあたりはつねにピッチ全体を見ている彼の眼に驚かされた。
まあ、イニエスタがあれくらいのパスを出すのは当たり前のことかもしれないが、神戸に入団してから本来のイニエスタらしいプレーができない時期も多かったが、今シーズンは開幕と同時に絶好調のイニエスタが見られるのかもしれない。
ゼロックス・スーパーカップは、いかにもカーテンレイザーに相応しい内容の試合となった。この大会、かつては互いにチーム作りの途中で低調な試合も多かったが、最近はACLの開幕が早まったこともあり(両チームとも、次のミッドウィークにはACL初戦が控えている)、昔に比べればチーム作りの日程が早まっているのだろう。
世界のサッカー全体として攻撃的な試合が増えているが、Jリーグもこの数年でアグレッシブな試合が増えている。それを象徴するような今年の「FUJI XEROX SUPER CUP」だった。
スーパーカップの翌日には、大宮アルディージャがウルグアイのナシオナル・モンテビデオを迎え撃った「さいたまシティカップ」を見に行ったが、こちらは両チームとも監督がさまざまなテストをするための本当のプレシーズンマッチだった。ACL開幕を直後に控えた神戸や横浜と違って、J2リーグ開幕まで2週間ある段階ということもあって大宮の完成度もそれほど高くない。一方のナシオナルの方もやはり開幕を控えて若手中心のメンバーで来日したもので、ゲームを支配してはいたもののフィニッシュ段階の精度に欠けて拙攻を繰り返したが、こちらもそのことは織り込む済みで様々なバリエーションをテストできたことが収穫だったようだ。
日本の場合は、J1参入プレーオフや元日開催の天皇杯全日本選手権があるため、オフ入りもチームによってまちまちだし、ACLのプレーオフに出場するクラブは早めに始動せざるを得ないなど、チームによってシーズン序盤はコンディションがバラバラとなってしまう。また、札幌など北国のチームは本拠地で開幕を迎えられないという事情もある。
そうした各チームの情況も考えながら、開幕戦を楽しみにしたい。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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