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サッカー フットサル コラム 2020年1月23日

微細な反則によるPKが勝負を決める。AFC U-23選手権での行き過ぎたVARの介入

後藤健生コラム by 後藤 健生
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タイ代表監督(U-23代表兼任)を務めている西野朗は地元のファンの間でも人気を集めている。ワールドカップ予選では宿敵ベトナムなどと大接戦を繰り広げている最中だし、地元開催となったAFC U-23選手権でもグループリーグを突破。初戦のバーレーン戦では5対0という大勝を収めるなど“結果”を出しているからだ。

だが、西野人気の理由は“結果”だけではない。その攻撃的なサッカーが魅力的なためでもある。

大きなスペースを作って、早いテンポでパスを回すなど試合内容もアグレッシブで面白いし、選手起用や采配もサプライズ性がある。強豪相手にも引いて守るのではなく、攻め合いを挑むアグレッシブな姿勢がタイのファンにも歓迎されている。

しかし、U-23タイ代表は残念ながら準々決勝でサウジアラビアに0対1で敗れ、「東京オリンピック出場」という夢は潰えた。

しかし、この試合も前後半の立ち上がりにアグレッシブに攻めに行ったタイがいくつかの決定機を作っていたし、サウジアラビアにボールを握られる時間が多くはあったが、それでも耐え抜いていた。

西野監督のタイは攻撃力は高いが守備には不安がある。早いパス回しをされるとスライドが追いつかず、反対サイドにフリーな選手を作ってしまう。だが、幸いにもサウジアラビアの攻撃にはスピードがないので、タイのDFも相手選手をしっかりつかまえることができていた。そして、試合は終盤まで0対0のまま推移した。延長戦に入れば、西野監督がまたどんな思い切った采配を見せてくれるか……。

約1万5000人の観衆は固唾を飲んで見守っていた。

だが、勝負はPKの判定であっけなくついてしまった。状況はこうだ。

サウジアラビアのワントップのアルハムダンがドリブルで強引にタイのペルティーエリアに入り込もうとしてタイのCBのソラウィットと絡み、そしてエリア内でアルハムダンが倒れたのだ。

だが、最後にアルハムダンが倒れたシーンではソラウィットは正当なショルダーチャージでボールに対してプレーしていたから反則ではなかった。問題はペナルティエリアに入る前にソラウィットが相手のシャツを引っ張っていたことだ。

シャツを引っ張るのは明らかに反則だ。だが、それはエリア外だった。そして、エリア内に入るのとほとんど同時にシャツを引っ張っていた手を放したのだ。エリア外でシャツを引っ張ったのなら、たとえ相手が倒れたのがエリア内であったとしても、PKではなくFKになる。

だが、VARによる確認の末に審判団が出した結論は「シャツを引っ張る手が離れたのは、すでにペナルティエリアに入ってからだ。だから、PK」というものだった。

確かに、映像で見るとシャツを引っ張る手を離したのはエリアのラインを越えてからのようにも見える。それなら、PKとなったとしても“法解釈”上は何の問題もない。

だが、それはルールの精神に照らして正しい判定と言えるのだろうか?

アルハムダンが倒れたのはシャツを引っ張られたからではなかった。そして、ソラヴィットは肉眼ではラインの外か内か分からない微妙な位置でシャツを引っ張る手を放しているのだ。

PKというのは“極刑”である。PKが与えられれば、サウジアラビアに先制ゴールが生まれるはずで、時間帯を考えればそれが決勝点になる可能性が高い。そして、タイはオリンピック予選敗退が決まる。

ペナルティエリア外でシャツを引っ張ったとして、FKを与えればすむのではないか。実際、アルカフ主審(オマーン)は最初はエリア外にボールを置き、タイの選手が壁を作った。この再開をすれば、何も問題はなかったはずだ。ところが、VARが介入して「シャツを引っ張った手がエリア内まで離れていなかった」としてPKとなったのだ。

U-23選手権大会では、AFC主催の大会として初めて全試合でVARが採用されたが、VARによる余りに細かな、重箱の底をつつくような判定によって勝負が決した試合がいくつもあった。日本対カタール戦の前半終了間際の田中碧の退場の判定。そして、日本がリードして迎えた76分のPK判定。どちらも、VARがなければ退場にもPKにもなるはずがないようなプレーだった。

タイとイラクの試合では、CKからの競り合いでイラクのDFがハンドの反則を犯したとしてタイにPKが与えられてタイが先制したが、映像を見ても手に当たったかどうか分からないような微妙な接触だった。たしかにDFは手を高く上げてはいるが、たとえボールが手に当たっていたとしても、それによってボールの軌道が大きく変わったわけではなかったのだ。

ビデオ映像を使って何人もの審判員が目を皿のようにして違法行為を必死になって探し出し、微細な反則を“発見”してPKを与えたり、退場を出したりすることが正しいことなのだろうか?

僕は、もう10年以上前からビデオ判定導入論者だった。実際にVARが導入され、「VARがゲームの流れを分断する」として批判の声が高まった時にも僕は「それは運用に慣れていないから」だとして、ビデオ判定については擁護を続けてきた。

だが、今回のAFC U-23選手権でのように重箱の底をつつくような判定によるPKで勝敗の行方が決まるようなら、ビデオ判定導入は誤りだったと言わざるをえない。そんな判定によって試合の決着がついてしまうなんて、ゲームに対する興味を奪うだけだ。

サウジアラビアが攻めながらもタイが耐え続ける。残り時間が少なくなって、さらに延長戦に入って、さて西野監督はどんな大胆な勝負にでるのか……。そんな試合を見る楽しみを僕から奪ったのは審判団だった。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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