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サッカー フットサル コラム 2020年1月6日

どうする、「後利用問題」。完成した新国立競技場はサッカー場としても十分に使えそう

後藤健生コラム by 後藤 健生
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2020年東京オリンピックのメインスタジアムとして計画されていた新国立競技場が完成し、“こけら落とし”として天皇杯全日本サッカー選手権の決勝戦が行われた。

試合は、前半、鹿島アントラーズがヴィッセル神戸のスリーバック(3−4−3)にうまく対応できずに主導権を取られ、ややアンラッキーな形で2点を失った。後半はスリーバックに変更してミラーゲームをしかけた鹿島が攻め込んだが、2点をリードされたことで焦りが生じたせいか、フィニッシュ段階での精度が落ち、そのまま神戸が逃げ切って勝利した。

クラブ発足から25年。そして、阪神・淡路大震災から25年。新しい歴史を紡いだヴィッセル神戸にお祝いを言いたい。

さて、注目の新国立競技場だが、「落ち着いた良いスタジアムに仕上がったなぁ」というのが第一印象である。

淡い色調の内装もあって、全体に透明感を感じ、巨大ではあるものの威圧感を与えるような構造物でなかったのでホッとした。屋根などは、最近のスタジアムとしてはかなり重厚な構造になっているが(ナポリのスタディオ・サンパオロの屋根を思いだした)、木材がふんだんに使われているので軽快な印象を与えるのだろう。両軍の控え選手が座っているベンチの枠までが木製だったのには驚いた。

陸上競技場なので9レーンの陸上用トラックがあり、サッカーの試合が見にくいのではと心配していたが、取り壊された旧国立競技場と同じく、陸上競技場としては非常に試合が見やすい設計になっていた。

たとえば、横浜の日産スタジアム(横浜国際総合競技場)と比較してみよう。

日産スタジアムの場合、陸上トラックのさらに外側に大きなスペースがあり、スタンドからトラックまでにかなり距離があり、その分サッカーのピッチ(タッチラインやゴールライン)までも遠くなってしまっている。しかも、メインスタンド、バックスタンドは直線状でコーナー付近ではピッチまでの距離がさらに大きくなっている。

それに対して、新国立競技場の場合、トラックの外側からピッチまでの距離が近く、しかもメイン、バックの両スタンドはカーブを描いており、コーナー付近でもピッチからそれほど遠くないのだ。

さらに、スタンドの傾斜もかなりの急勾配だ。日産スタジアムの1階席の傾斜は緩やか過ぎて非常に見にくい。それに対して、新国立競技場では1層目の傾斜が20度で、最上層(3層目)では34度もあるそうだ。そのおかげで、とくに上層の席からなら試合を俯瞰的に見ることができる(天皇杯では記者席が1層目に仮設されていたのでかなり試合が見にくかったが、将来は記者席は上層に設置されるらしい。

設計をされた建築家の隈研吾氏は、良いスタジアムを造ったと思う。

ただ、やはり東京オリンピック、パラリンピック終了後にこの新スタジアムをどのように活用していくかという、いわゆる「後利用問題」は未解決のままである。

新スタジアムは旧国立競技場よりも巨大で複雑な構造なので建設費と同じように、維持費もかかる。年間の維持費は20億円を超えるらしく、黒字化することは非常に難しい(はっきり言って無理のように思う)。だが、十分に活用された後に「それでも赤字だった」というのなら、それは「日本のスポーツ文化発展のための高いコストだ」と考えることもできるが、ほとんど活用されないまま毎年多額の維持費だけを垂れ流すようでは、これは「税金の無駄遣い」、「負の遺産」と言うしかない。

新スタジアムは、陸上競技と球技の兼用で、コンサート等にも使用できるように設計されている。

だが、すでにあちらこちらで指摘されているように、陸上競技場として使用することはかなり難しい。残念ながら、日本で陸上競技の大会に5万人もの観客が集まることは考えられない。高額の使用量を払って新国立競技場で大会を開くメリットはないのだ。しかも、新国立競技場には選手がウォーミングアップするためのサブトラックがないので(オリンピックの時は絵画館前に仮設されるが、大会後には撤去される)、そもそも大規模な陸上競技大会は開催できないのだ。

コンサートを開けば、数万人のオーディエンスが集まるかもしれない。だが、雨天でも支障なくコンサートを開催するには完全に上が閉じた屋根を付けてドーム化するか、開閉式の屋根にするしかないが、それには多額の費用がかかるし、そうして頻繁にコンサート等を開催すれば天然芝は育てられないからサッカー、ラグビーには使えなくなる(人工芝でも開催できるアメリカン・フットボールやホッケーには使える)。

そうした諸事情を勘案すれば、やはりサッカーをメインにして、ラグビーのビッグゲームやコンサートにも使用するしかないだろう。Jリーグクラブの本拠地になれば、年間に20〜30試合を開催できるし、アクセスの良い国立競技場ならJリーグの試合でも平均5万人近くの観客動員も可能になるだろう。

ただ、今では各地にサッカー専用スタジアムが建設されている中で、陸上競技場として設計された国立競技場が使えるかという問題がある。設計前から「後利用問題」を考えておけば、オリンピック終了後に本格的に改装することが可能だったはずだが(1996年のアトランタ大会のメインスタジアムのように、野球場に改装することだって可能だった)、もうスタジアムは完成してしまっており、本格的改装は無理なのだ。

ただ、前にも述べたように新国立競技場は陸上競技場としては試合が見やすい設計になっている。日産スタジアムよりも、味の素スタジアムよりも見やすいのは間違いないのだから、解決法を見つけるのは不可能ではないだろう。

たとえば、イタリアでは旧式の陸上競技場を改装してサッカー場として使っている例が多い。しかも、スポーツにお金をかけられないイタリアでは安上がりな方法で改装している。つまり、本来のスタンドよりピッチに近いところ、つまり陸上トラックの上に仮設スタンドを造ってしまうという方法だ。

新国立競技場でもこれに近い方法で下層スタンドを造りなおせば、十分にサッカー場として利用できるような気がするのだが……

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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