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高円宮杯全日本U−15選手権大会の決勝戦が12月28日に行われ、ガンバ大阪ジュニアユースがサガン鳥栖U−15を2対0で破って7年ぶり3度目の優勝を決めた。15歳以下の「第3種」の日本一を決める大会である。
試合は開始早々の4分に動いた。G大阪のMF桒原陸人がハーフウェーライン付近から縦に入れたボールを追ったFWの鈴木大翔が相手DFと競り合いながら抜け出し、飛び出してくる鳥栖のGK音成啓太の頭上を抜くループシュートを決めたのだ。
しかし、その後は鳥栖がボールを保持しながら反撃に移った。
鳥栖はアンカーの位置に入った福井太智を中心に、攻撃的MFの北野真平、楢原慶輝が組み立てて両サイドから丹念に攻め、15分過ぎには立て続けにチャンスを作ったものの、クロスの精度がわずかに足りず、得点には至らない。
すると20分、G大阪は右から左に大きくサイドチェンジして、最後は名願斗哉のクロスを受けたFWの南野遥海がミドルシュートを突き刺して2点差とする。そして、その後も鳥栖の反撃を跳ね返し、時折鋭いカウンターからチャンスを作り続けたG大阪が両ストライカーが決めた2点を守り切って逃げ切った。
鳥栖は、MF3人の組み立てがうまく、ポゼッションでは大きく上回り、バランスも良いチームだったのだが、中盤で簡単にボールを失う場面が多く、そこからピンチを招いていた。逆に言えば、G大阪が相手の弱点を利用し、うまくボールを奪ってからのショートカウンターで効果的な攻撃を見せた。つまり、G大阪のゲームプランが上回った試合だった。
もっとも、後半には鳥栖のシュートがクロスバーやポストに嫌われる場面があったので、鳥栖としては不運も付きまとった試合だった。
サガン鳥栖U−15は、今年の8月に行われた日本クラブユース選手権(U−15)でも優勝しており、2017年度に続く「二度目の二冠達成」を狙っていたのだが、惜しくも今回の大会は準優勝に終わった。だが、鳥栖が今年度のこの年代の最強クラブだったことは間違いない。
ちなみに、2017年度に二冠を達成した年代は、2019年度には日本クラブユース選手権(U−18)で優勝しており、鳥栖は現在のユース年代の最強クラブの一つと言っていいだろう。
かつて、Jリーグが発足して日本サッカーがプロ化するより以前には選手の育成は学校の部活動に委ねられていた。1970年代には中学生年代を中心に、枚方FCや神戸FCなどのいわゆる「街のクラブ」が台頭してきていたが、そでもやはりU−18年代は高校のサッカー部、U−15年代は中学のサッカー部が育成の中心だった。
そして、静岡県や埼玉県、広島県のいわゆる「御三家」や東京都、大阪府といった大都市圏が圧倒的な力を持っていた。
たとえば全国高校選手権で言えば、静岡県勢が毎年のように全国大会の決勝に駒を進め、「全国大会で勝つよりも静岡県大会で勝つ方が難しい」とまで言われた時期もあったし、その他の地域でも東京の帝京高校や長崎県の島原商業や国見高校のようないくつかの強豪校の間で全国のタイトルが争われていた。
現在でも、U−18年代では高校チームとJリーグクラブの下部組織の実力はかなり拮抗している。高円宮杯プレミアリーグでも、今季はイーストが青森山田高校、ウェストが名古屋グランパスがそれぞれ優勝。先日行われた「ファイナル」では、青森山田高校が名古屋を破って優勝している。
年代別の日本代表でも、Jクラブの選手と高校サッカー部の選手が混在していて、よく「どちらが国際的に通用するのか」といった議論が巻き起こる。
だが、U−15年代では今やクラブが圧倒的な力を誇っている。
高円宮杯全日本U−15でも、大会が始まった1989年は読売クラブ(現東京ヴェルディ)ジュニアユースが優勝しているが、2位から4位は中学校のチームが占めており、その後もしばらくはクラブと中学校が拮抗した状況が続いていたが、1990年代後半以降はJリーグクラブが上位を独占するようになった。
たとえば、今年の高円宮杯U−15には32チームが参加したのだが、中学校のチームはたったの2校だけで(青森山田中学校と神村学園中等部=ともに2回戦敗退)、あとはすべてJリーグのクラブといわゆる「街のクラブ」である。
つまり、サッカー選手の原石はJクラブや街クラブで発掘されるのだ。
その後、「第2種」つまりU−18年代に進むときに選手たちは様々な理由でJクラブの下部組織に進む選手と高体連のチーム進む選手に分かれ、さらに「第2種」を卒業すると、今度はJクラブでプロ契約を結ぶ選手と大学に進む選手に分かれていく。
こうした複線の育成ルートがあるのは日本のサッカー界の特徴だ。選手の成長曲線は様々で、晩成型の選手もいるわけで、そうした意味で「複線型」の日本式育成は優れた方式だと思うが、いずれにしても「第3種」つまりU−15年代ではJクラブや街クラブの存在が非常に大切なものということになる。
そして、佐賀県という、昔だったら「サッカー後進県」と呼ばれたであろう地域から、サガン鳥栖の下部組織を通じて次々とタレントが発掘されるようになってきたのだ。
今では、全国のほとんどの都道府県にJクラブが存在し、それぞれに下部組織が存在し、それぞれに地域でタレントの発掘と原石磨きが行われている。
Jリーグ発足以来、「Jリーグのクラブ数は多すぎるのではないか」という議論も何度かあったが、タレントの発掘・育成ということを考えれば、やはりJリーグクラブは全国のすべての都道府県に存在してほしいのである。
サガン鳥栖の少年たちのプレーを見ながら、そんなことを考えた。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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