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ベトナムのホーチミンで開かれていた「AFC U19選手権予選J組」で、U18日本代表が首位通過。来年ウズベキスタンで開かれる同選手権への出場を決めた。そこでベスト4以上に入れば、2021年のU20ワールドカップ出場が決まる。世界の舞台への最初の関門となる大会だった。
11組に分かれた予選で首位になれば自動的に突破が決まり、各組2位チームのうち成績上位4チーム(開催国ウズベキスタンが首位または成績上位国に入った場合は5位まで)が本大会に駒を進めることができる。
10月6日に開幕した大会で、日本は初戦のグアムには10対0、2戦目のモンゴルには9対0と圧勝。開催国のベトナムも同じく2連勝でスタートしたものの、モンゴルに3対0、グアムに4対1、得失点差では日本が大きく上回っていただけでなく、チーム力で日本が上回っているのも明らかだった。
だが、最終戦では日本はベトナムの堅守を崩すことができず、スコアレスドローに終わってしまう。首位での予選突破は決まったが、日本にとっては課題を突き付けられた引き分けだったが、一方のベトナムにとっては最強の敵と引き分け、勝点7で予選突破が決まり、勝利に等しい引き分け。監督の胴上げまで行われた。
宙に舞った監督は、元日本代表監督のフィリップ・トルシエ。2018年からベトナムの「PVFアカデミー」でテクニカル・ディレクターを務めていたトルシエは、U18代表のホアン・アイン・トゥアン前監督が成績不振の責任をとって辞任したのを受けて急遽監督に就任していた。ただ、9月の就任以来まだ2か月しか経過していないので、トルシエにとってチーム作りが進んだ段階とは言えない。
日本代表の時もそうだったが、トルシエのチーム作りは一つひとつ戦術的トレーニングを積み重ねる方法だから、完成に時間がかかる。今は、トルシエ流フラットスリーの習得をしている段階だ。3人のCBが互いの位置を確認しながらラインを上げ下げしている風景は20年前の日本代表とまったく同じだ。CKをボックス外に蹴ってボレーシュートを狙わせるあたりもまったく変わっていない。
ただ、攻撃の部分の構築はできていないし、メンバーも前監督時代のメンバーのままで、本当は他に呼びたいメンバーもいるらしい。「このチームには小野も本山もいない……」とトルシエ監督。
そんなチームを率いたトルシエは、日本戦で勝点1を狙ってきた。もし、予選敗退となればチームの活動自体がなくなってしまうのだ。監督を続けるためにはこの予選を突破するしかない。そして、勝点6では突破は難しい。
そこで、トルシエは日本チームを分析して守備の組織を構築してきた。
日本チームも、今年に入って立ち上げられたばかりのチームだ。海外遠征などの活動を繰り返してきてはいるが、もちろんメンバーも固定されていないし、まだ完成度はそれほど高くない。さらに、大会直前にはチームの中心と目されていた松岡大起(サガン鳥栖)がチーム事情で離脱してしまった。
中1日で3連戦となる大会だけに、日本は1戦目と2戦目でメンバーを入れ替えて戦った。影山雅永監督によれば、最終決戦となるベトナム戦では初戦のメンバーと2選目のメンバーをミックスして戦う予定だったらしいが、2戦目で負傷交代が続いたため選手を休ませることができず、ベトナム戦ではGKを含めて8人が第1戦と同じメンバーだった。
そんな中で右サイドだけは2戦目のコンビネーションが再び起用された。日本はグアム戦でもモンゴル戦でも右サイドからの攻撃が活発だった。初戦ではサイドハーフに武田英寿(青森山田高)、サイドバックに三原秀真(愛媛FC U18)の組み合わせ、2戦目では石浦大雅(東京ヴェルディユース)と中村拓海(FC東京)の組み合わせだったが、影山監督は右サイドを2戦目のコンビに託したのだった。
だが、日本の生命線であるサイド攻撃は右サイドのコンビネーションも左からの鮎川峻(サンフレッチェ広島ユース)のドリブルもほとんど機能しなかった。あるいは、DFラインの裏を狙うロングボールも出し手と受け手の意思が合わずに、パスミスが目立つ状態となってしまった。
一つの原因は、コンビネーションがまだ確立できていないこと。たとえば、右サイドを託された石浦と中村はU18立ち上げ以来ずっと招集されている選手ではない。
そして、日本チームの狙いが機能しなかった最大の原因はベトナムの組織的な守備だった。つまり、フィリップ・トルシエの戦術にはまってしまったということだ。
ベトナムはもちろんフラットスリー。2戦目までを見ているとフラットスリーもまだ不安定だったし、両サイドのコーナー付近にはいくらでもスペースがあった。そこを利用できれば、サイドからの攻略は難しいことではないように見えた。
だが、日本戦ではベトナムの守備陣はしっかりとスペースを消して、積極的にアプローチをかけて、激しくボールにアタックしてきた。ベトナムの激しい守備で、フィジカル的には上回っているはずの日本選手の腰が引けてしまった。
こうして日本のストロングポイントであるサイド攻撃をブロックすると、ベトナムはスピードを生かしてサイドからカウンターを仕掛けてきたので、日本のサイドアタッカーも守備に追われるようになり、ますます攻撃力を発揮できなくなってしまう。
トップで起用された櫻川ソロモン(ジェフユナイテッド千葉U18)は良いボールを供給されずに前半のうちから苛立ちを見せていたが、74分に相手DFとやり合って一発退場となってしまう。
すると、トルシエ監督はすぐに中盤のリーダー、フイン・コン・デンを呼んで「ボールをキープして時間を使って勝点1を目指せ」と指示。数的優位に立ったベトナムがボール回しに終始。最終的には日本チームもそれに同調。ゲームはスコアレスドローに終わったのだ。
まさに、フィリップ・トルシエのワンマンショーのような試合。試合後の記者会見でトルシエ節が炸裂したのはもちろんである。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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