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サッカー フットサル コラム 2019年10月13日

階級社会のラグビーと“悪平等”のサッカー。日本とモンゴルが戦って、互いに得るものなどあるのだろうか?

後藤健生コラム by 後藤 健生
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ワールドカップ2次予選のホーム初戦が行われ、日本代表がモンゴルを6対0で破った。シュート数は32対0。モンゴルのCKは0で、日本のGKも0。ということは、シュートどころかモンゴルは日本のゴールラインに一度も到達できなかったということになる。その割に6ゴールというのは物足りない数字だった。

これを「試合」と呼ぶべきかどうかは別として、何点差で勝ったとしても日本代表にとって得るものはほとんどない試合だ。モンゴルにとっては貴重な経験と言えるかもしれないが(後半に入ったところで選手の並びを変え、後半途中でシステム変更して抵抗はした)、もう少し力の差が小さい相手と戦った方が強化になるだろう。

来年の秋にはワールドカップ予選も最終予選に入る。最終予選では韓国やオーストラリア、イランといった日本と同等の力を持った相手と戦わなければならないし、その他のチームも簡単には勝たせてもらえないような相手との真剣勝負が続く。それまでには、チームをある程度完成させておかなければならない。それで、森保一監督はモンゴル戦でも故障中の大迫勇也は招集できなかったものの“最強メンバー”を招集して戦ったのだ。

メンバー発表の記者会見で森保監督自身が言及したように、ヨーロッパで活躍している選手にとっては、長距離移動を伴う日本代表の活動に参加することによってクラブでの出場機会を減らすというリスクがあるのだ。モンゴル程度の相手なら海外組を全員を呼び戻す必要はないのだから、たとえば10月シリーズには海外組の半数ほどを招集し、残りの半数は11月シリーズで招集するといったことも考えていい。だが、それを承知で森保監督は最強布陣で戦った。

2019年に入ってからの親善試合やコパ・アメリカなどを通じて数十人の選手を招集してすでに「ラージグループ」も作られているので、基本的には新戦力のテストも必要ない。2次予選は、森保監督にとっては完成度を高めるための試合なのだろう。

だが、抽選の結果、2次予選の対戦相手は明かな格下ばかり。アウェーではピッチ・コンディションの問題などの変化に対応するというテーマがあるが、ホームゲームではこれからもモンゴル戦と同様の無意味な戦いが続くだろう。この程度の相手にトレーニングマッチを繰り返しても、強化につなげることは難しい。伊東純也や遠藤航が素晴らしいプレーを見せたといっても、「あの程度の相手なら……」という話になってしまう。

もっと、他の戦い方があったのではないだろうか。

たとえば、前半のうちに4点を取って勝負を決めてしまったのであれば、後半には選手交代はせずにシステムを変更するとか、パワープレーの練習をするとか、何か特定のテーマを決めて戦わないと強化にはつながらない。

2次予選の前半はアウェーが多いが、2020年に入るとアウェーは3月のモンゴル戦だけで、他の3試合はホームでの戦いだ。毎試合大量点を取って勝ち続けることで、チーム内にもマンネリ状態が生じる恐れさえある。

ラグビーのワールドカップを見ていると、ラグビーの世界は厳格な階級社会だということが分かる。

北半球のシックスネーションズに出場する6か国と南半球の強豪10か国が「ティア1」と呼ばれる強豪国(伝統国)で、ポイントによるランキングではなく、伝統や財政力などを加味したものなので、日本代表がワールドカップでベスト8に進んだとしても、すぐに「ディア1」に上がれるわけではない。

ワールドカップが日本で開催されることになっていたので、最近は強豪国とのテストマッチを数多く組めるようになっていたが、「ティア2」の日本代表はワールドカップ後は「ティア1」とテストマッチを組むことが難しくなるかもしれない。

前回イングランドでのワールドカップで、日本は開幕戦から中3日でスコットランド戦が組まれ、南アフリカ戦で消耗しきった日本はスコットランドに大敗した。今回は逆にスコットランドの方が中3日で日本戦を迎えるが、たまたま日本が開催国だったために優遇を受けただけ。日程は明らかに「ティア1」優位に組まれている。

また、ラグビーのワールドカップでは各プール3位に入ったチームは、準々決勝進出はできないものの、4年後のワールドカップ出場権を獲得することができる。つまり、予選は戦わず、「ティア1」同士のハイレベルのテストマッチで強化を図ることができるのだ。

この、ラグビーの余りにもあからさまな階級社会の構造に対して、サッカーの方は“悪平等”と言えるシステムだ。

ワールドカップ予選には一応ポット分けはあるものの、すべての国にチャンスがあるという虚構に基づいて設計されており、日本がはるかに格下のモンゴルと試合をしなければならなかったし、イランなどはカンボジア相手に14対0で勝ったようだ。

アジアだけではない。ドイツやスペインも、リヒテンシュタインとか、アンドラといった小国との予選を戦わなければならないのだ。

日本代表がこれからもっと強くなって、ワールドカップで上位進出を狙うためには強い相手との試合を数多く経験するしかない。だが、予選が行われている間はインターナショナルマッチ・ウィークには強豪と戦うことができないのだ。たまたま、2次予選は5カ国のグループなので、試合のない日があり、そこでパラグアイやベネズエラと試合が組めたのだが、最終予選に入ると日程の“空き”はなくなってしまう。

本当なら、2次予選は国内組だけとか、U22代表で戦って、フル代表はヨーロッパのどこかに集合してヨーロッパの強豪国(もしくは強豪クラブ)と親善試合を戦うべきなのだが……。そうすれば、海外組の選手にとっての移動の負担が大幅に減るうえに、強い相手との戦いを経験できる。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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