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第99回天皇杯全日本選手権大会で、法政大学がベスト16まで勝ち上がって話題になっている。
法政大学は2回戦ではJ2リーグの東京ヴェルディ、3回戦ではJ1リーグのガンバ大阪をそれぞれ破ってのベスト16進出だった。東京Vとの試合は完全に法政大学ペースの試合での完勝だったし、3回戦G大阪との試合でも互角の戦いを演じきった。どちらも“番狂わせ感”はまったくない勝ち方だった。
こういう現象が起こると、必ず「プロがそんなことでいいのか」という声が上がる。だが、現在、大学上位校の実力はJ3より明らかに上で、J2の中位程度の力はある。したがって、今回の“番狂わせ”は起こるべくして起こったことのように思う。
日本のサッカー界の“ピラミッド”は複雑だ。J1リーグがトップで、それに次ぐ存在がJ2であることは間違いないが、J3は必ずしも「3部」というわけではない。J3というのは、「Jリーグから「準加盟」を認められたクラブによるリーグ」という意味でしかなく、実力的にはアマチュアクラブ(Jリーグ加盟の意思がない、またはまだ「準加盟」を認められていないクラブ)による日本フットボールリーグ(JFL)、そして関東大学、関西学生の3つのリーグの実力がほぼ横並びと考えていい。
下部リーグを見渡すと、アマチュアの全国リーグであるJFLと、全国リーグ入りを目指す地域リーグ(関東リーグとか、東海リーグとか……)との間こそ、最も超え難い溝が存在するようで、地域リーグから新たにJFL入りしたチームは毎年JFL定着に苦労している。
また、選手の個人能力という面では、Jリーグの下部組織出身の選手がそろい、プロ入りを目指す選手が多い大学リーグがJ3リーグやJFLを上回っている。
実際、大学上位校からプロ入りする選手は多く、最近でも早稲田大学から名古屋グランパスに入り、つい最近鹿島アントラーズにレンタル移籍した相馬勇紀や法政大学在学中に鹿島に入団した上田綺世などは、プロでしっかり結果を出している。
そんな実力のある大学チームは、Jリーグクラブと対戦する天皇杯に向けて、モチベーション高く臨んでくる。一方で、Jリーグクラブはあくまでもリーグ戦優先である。準決勝、決勝に進めば別だが、それまではリーグ戦に出場しているメンバーを温存し、出場機会の少ない選手を使ってくる場合が多い。
もちろん、そこで起用された選手にとってはアピールの場ではあるのだが、クラブ全体としてのモチベーションは低いわけだ。しかも、負けたら何か言われるのはJリーグのクラブなので、いわゆる“やりにくさ”を感じながらのプレーとなってしまう。
したがって、法政大学がJ2で苦戦している東京VやJ1で下位に低迷するG大阪を破ることは十分に想定できることなのだ。
それにしても、である。G大阪を破った時の法政大学の戦い方は見事だった。
控え選手が多いにしても、たしかにJ1クラブの実力は高く、前半は法政大学はかなり苦戦を強いられていた。法政大学の前線の選手がG大阪のDFにうまくマークされてしまったので、パスの出しどころが見つからなかったのだ。
しかし、この時間帯にしっかり守備を固めるとともに、徐々にG大阪の守備陣にスペースを見つけていった。
スカウティングで、「スリーバック(3−5−2)のG大阪の中盤。いわゆるアンカー(矢島慎也)の両サイドにスペースがある」という情報は入っていたそうだが、法政大学の選手たちはそこをうまく衝いてくる。
そして、24分に法政大学が先制ゴールを決めた。
中盤でのこぼれ球を拾った末木裕也が浮き球のパスを送り、トップの田中和樹が相手に囲まれながらも粘ってキープして、落としたボールに走り込んできた大西遼太郎が蹴り込んだのだ。田中がタメを作ったのを見て、大西が走り込むタイミングを合わせたあたり、「サッカーをよく分かっているな」という印象のプレーだった。
後半は、攻め急ぐこともなく、法政大学が「1点リード」という状況を利用しながらゲームを進め、70分にCKから追加点を奪ってリードを広げて逃げ切った。その落ち着いたゲーム運びも印象的だった。
G大阪もJ1リーグの間の厳しい日程だったが、法政大学にとっても関東大学リーグの試合からの厳しい連戦の中のゲームだった。8月4日に前期リーグ戦の残り3節分が再開され、法政大学は中2日、中2日で3連戦を1勝1分1敗で乗り切り、それから中3日で天皇杯を迎えていたのだ。
映像でG大阪を分析してはいたものの、大学リーグの3連戦を終えてから、実際にグラウンド上でG大阪対策のトレーニングができたのはたった2日だったのだという。「天皇杯の東京V戦を含めて、スリーバックの相手との試合が多かったから、慣れていた」とは長山一也監督の言葉だが、短いトレーニングでしっかりJ1クラブ相手の戦術的対策を身に着けてしまうあたりが、戦術能力の高い最近の若い選手らしいところだ。
最近、日本の各年代別代表は、国際大会ですばらしい大人のサッカーをしている。先日も、SBSカップに出場したU−18代表がベルギー相手に完勝し、相手チームの監督に「成熟したチームだった」と言わしめたことはこのコラムでも紹介したばかりだ。
法政大学のラウンド16進出も、大学在学中の若い選手たちが、プロ相手にしっかりとした戦いをしたことの結果だった。「ただ頑張って、相手よりよく走って」とか「気力の勝利」といった勝ち方ではなく、勝利から逆算して計算しながら引き寄せた勝利だったところに意義を見出すべきだろう。
法政大学は、ラウンド16でもJ2ヴァンフォーレ甲府との対戦が決まった。どんな試合になるか、楽しみにしたい。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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