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ヨーロッパのトップリーグと比べて上位チームと下位チームの戦力差が小さいJリーグでは、毎年、リーグ戦終盤になると大混戦=毎週のように首位が入れ替わるという“珍”現象が生まれる。ある節に首位に立ったチームは、まるで「首位」という文字の呪縛のせいかのように次節には失速。代わりにトップに立ったチームは次の節には再び首位の呪いを受けて萎縮してしまう……。こうして、延々と順位変動が続き、たまたま第34節終了時点でトップに立っていたチームがタイトルを獲得する。
それはまるで日本独特の現象であるかのように思える。すなわち、日本サッカーには「勝利のメンタリティー」がない。1つの試合の中でも、弱いチームはリードすると、「リードしたこと」によってかえって怯えてしまうこともある。そんな精神的な弱さを克服しないかぎり、世界とは戦えない……。そんな言説がサッカー・ジャーナリズムの中では何度も執拗に繰り返されてきた。
しかし、世界のサッカーの最高峰、イングランド・プレミアリーグでも現在同じような足踏み現象が進行中だ。
優勝争いはマンチェスター・シティとリヴァプールの2者に絞られているが、さすがにこの「二強」はしっかりと勝点を積み重ねてマッチレースを展開している。首位のマンチェスター・シティは、チャンピオンズリーグ準々決勝でトッテナム・ホットスパーと壮絶な撃ち合いの末に敗退が決定したが、その直後にリーグ戦の方でトッテナムを破ると、マンチェスター・ダービーも制し、バーンリーにも競り勝っており、リヴァプールの方もしっかりと勝点を積み重ねている。
だが、3位以下、来シーズンのチャンピオンズリーグ出場権を争う4チームは足踏みが続いている。
チャンピオンズリーグでベスト4進出を決めたトッテナムは、直後にマンチェスター・シティに敗れ、そして第36節ではウェストハム・ユナイテッドと対戦し、新スタジアムで初となる敗戦を喫した。それでも、依然として3位をキープしているのは4位以下のチームの足踏みに助けられたからだ。
トッテナムを追う4位のチェルシーはリヴァプールに敗れた後、引き分けが続き、5位のアーセナルに至っては3連敗とさらに重症だ。そして、6位のマンチェスター・ユナイテッドもチャンピオンズリーグでバルセロナに敗れて以来、エヴァートンに0対4の大敗を喫するなどチーム状態はバラバラになってしまっている。
もちろん、Jリーグとは試合のレベルが違うのも、また、低迷の理由はそれぞれのチームに個別のものであることは重々承知の上で言うのだが、やはり、メンタル的にゲームに集中できていないのが足踏み状態の最大の原因であることは間違いない。
たとえば、第36節では低迷中のマンチェスター・ユナイテッドとチェルシーの直接対決があった。オーレ・グンナー・スールシャール監督就任後は好調を維持していたマンチェスター・ユナイテッドだったが、このところすっかり低迷。6位という順位を考えれば、そして、チャンピオンズリーグで優勝して来シーズンのチャンピオンズリーグ出場権を確保するというシナリオも絶たれてしまったのならば、なんとしても4位チェルシーとの直接対決に勝利するしかない状況での試合だった。
実際、マンチェスター・ユナイテッドは良い入り方をした。縦横、長短、左右とバランスの取れたパス回しでゲームを支配。開始直後のロメル・ルカクの抜け出しは相手GKケパ・アリサバラガに抑えられたものの、早くも11分には先制ゴールも決まる。
それも、ルーク・ショーがポール・ポグバとのワンツー、ルカクとのワンツーで相手ボックス内に進入し、そのこぼれをフアン・マタが蹴り込むというチームとして連動して奪った見事なゴールだった。ルカクからショーへのループでのリターンパスなども、とても美しかった。
このところ、個人能力頼りのプレーが多くなっていたマンチェスター・ユナイテッドだっただけに、このチームとして連動して攻め切ったゴールが変化のきっかけになるかと思われた。そうなれば、大きく流れが変わる……。
だが、期待はかなわなかった。20分を過ぎる頃には、攻めから守りへの切り替えの早さでボール支配率は高いままだったが、やはり個人ばかりになってしまう。そして、43分にはチェルシーのDFアントニオ・リュディガーのミドル・シュートをGKのダビド・デヘアがキャッチできず、落としたところをマルコス・アロンソに蹴り込まれて、同点に追い着かれてしまったのだ。たしかに強烈で変化する難しいシュートではあったが、キャッチできないのであればパンチングで逃げるべき場面。このところ、デヘアのミスだったのは間違いない。
しかし、もしチームが好調な状態であれば、相手に崩された失点ではなかったわけだし、残り時間は45分間以上あるわけで、慌てることはなかったはずだ、だが、そこが勝点を伸ばせないでいるチームの悲しさか、後半もポゼッションでは上回りながら、マンチェスター・ユナイテッドは落ち着きを失ってバタバタとした試合となってしまい、両チームとも決め手を欠いての痛み分け。マンチェスター・ユナイテッドのチャンピオンズリーグ圏内入りはかなり難しい状況となった。
この試合だけを見ていても、やはりメンタル的な問題が大きいことは一目瞭然。自信を失い、互いの(あるいは監督への)信頼感も薄れているようである。
チャンピオンズリーグ圏内争いを続けるトッテナムからマンチェスター・ユナイテッドまでの4チームによる大混戦から抜け出すのは、そんなメンタル的な迷いを吹っ切ったチーム、あるいは開き直ったチームなのだろう。各指揮官のメンタル・マネージメントの能力も問われるところだ。極端な話、4位との差が開いてしまった事によってマンチェスター・ユナイテッドが開き直って、それが大逆転につながる可能性だって(わずかではあるが)ある。
この団子状態のレース。首位マンチェスター・シティと6位マンチェスター・ユナイテッド以外の各チームがヨーロッパのカップ戦で勝ち残っている点も、レースをさらに複雑化している。プレミアリーグでまったく勝てなくなってしまったアーセナルあたりは、気持ちを切り替えてヨーロッパリーグ優勝=チャンピオンズリーグ出場権獲得を狙った方がいいのかもしれないし、もし、5位以下のチームがヨーロッパのカップ戦に優勝したりしたら、イングランドからの出場枠の関係で4位チームは出場権を獲得できなくなってしまう可能性もある。
いやはや、たしかにメンタル的なプレッシャーが大きであろうことは間違いない。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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