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風雲急を告げているのがイングランド・プレミアリーグのCL圏争いだ。
ずっと3位に付けていたトッテナム・ホットスパーがこのところ足踏み状態。そこにマンチェスター・ユナイテッドやアーセナルが肉薄。第30節終了時点で3位のトッテナムから6位のチェルシーまでが勝点4差の間にひしめく状態となっている。
第30節では、アーセナルがホーム、エミレーツ・スタジアムにマンチェスター・ユナイテッドを迎え撃って2対0で完勝。4位に浮上した。
マンチェスター・ユナイテッドはオーレ・グンナー・スールシャールが暫定監督に就任以来プレミアでは無敗。先週、チャンピオンズリーグで強豪パリ・サンジエルマンと対戦し、記録的な大逆転劇を演じたことも記憶に新しい。一方のアーセナルもようやくウナイ・エミリ監督の戦術が浸透し始めたとはいえ、ヨーロッパリーグでマンチェスター・ユナイテッドと同じくフランスに遠征したものの、レンヌに敗れたばかり。しかも、マンチェスター・ユナイテッドがパリ・サンジェルマン戦から中3日なのに対し、アーセナルは木曜日のレンヌ戦から中2日。
“勢い”という意味でも、コンディション的にもマンチェスター・ユナイテッド有利かと思っていたが、試合は立ち上がりからアーセナルが支配して始まった。
アーセナルが3-4-1-2、マンチェスター・ユナイテッドが4-4-2でスタートしたこの試合。まずはシステム的なミスマッチが生まれ、セントラルMFのところでアーセナルが優位に立った。そして、相手のMFとDFの間の位置にメスト・エジルがうまく顔を出してパスを引き出した。本来であれば、マンチェスター・ユナイテッドのMF ネマニャ・マティッチかフレッジが捕まえなければいけないのだろうが、これができなくなってしまったのだ。
同時に、アーセナルの左サイドのセアド・コラシナツも再三フリーで抜け出して、素晴らしいクロスを供給した。
開始2分にはそのコラシナツから中央のアレクサンドル・ラカゼットへのクロスが入り、あわや先制というチャンスを作ったアーセナル。その後も、中盤を支配してゲームを有利に進めた。マンチェスター・ユナイテッドにも、左サイドバックのルーク・ショーのクロスにロメル・ルカクが合わせてシュートがクロスバーに当たる場面があったものの、やはり試合はアーセナルのもの。12分には早くもアーセナルに先制ゴールが生まれた。
もっとも、これはシステムがどうこう、戦術が云々というゴールではなく、グラニト・ジャカの強烈なミドルシュートによるもの。ジャカの左足から放たれたシュートはまっすぐにゴールを襲うかと見えて、急激に(キッカー側から見て)左にカーブを描いてゴールに吸い込まれていった。GKのダビド・デ・ヘアは完全に逆を取られてしまう、実に不思議な軌道を描くシュートだった。
その後も試合はアーセナルのペースで進んでいたが、20分頃からマンチェスター・ユナイテッドもようやく攻撃の圧力を強め始める。そして、ある程度流れをつかんだタイミングで、スールシャール監督は相手に左サイドバックのルーク・ショーを1列上げてスリーバックに変更。相手のシステムに合わせたミラーゲームを選択した。
この変更によって、たびたびフリーで浮いていたエジルを捕まえることもできるようになり、流れは互角になっていった。だが、それでも守備の組織などはアーセナルの方がうまく組織されており、結局マンチェスター・ユナイテッドの反撃はポール・ポグバやルカクの個人能力による突破が頼りだった。
前半のスタッツを見ると、ポゼッションでは多少アーセナルが上回ったが、シュート数などの数字はほぼ互角だった。だが、内容的には完全にアーセナルが支配したゲームだった。
後半、マンチェスター・ユナイテッドは選手同士の距離を縮め、ルカクなどへのサポートが生まれてボールがつながり始め、同点のチャンスも生まれ始めた。だが、守りに回ると相手を捕まえきれない状況は改善できず、アーセナルにも追加点のチャンスが生まれる。さらに、60分を過ぎると各所にスペースが生まれ、オープンな撃ち合いになっていく。このあたりは、ミッドウィークの影響で通常のゲームより早く疲労の影響を受けたものだろう。
そんな中で生まれたのが、68分のペナルティーキックの判定だった。
アーセナルのラカゼットがドリブルでエリア内に進入すると、守備で貢献していたフレッジが体を寄せ、ラカゼットが倒れた。リプレーで見ると正当なコンタクトのように見えたが、レフェリーは後方からチャージして倒したと見えたのだろう。「VARがあれば取り消されたのではないか」という微妙な判定だった。
こうして得たPKを、先日のトッテナム戦でPKをはずしたピエール=エメリク・オーバメヤンが中央に沈めてリードを広げたアーセナル。その後は、ウナイ・エミリ監督が的確な選手交代のカードを使ってマンチェスター・ユナイテッドの反撃をしっかりと絶ち切って勝利をものにした。
2得点はミドルシュートとPKだったものの、内容的にはアーセナルの勝利に値するもの。ヨーロッパリーグでの敗戦を払拭し、これからの順位争いにも良い影響を与える価値ある勝利と言ってよいだろう。
マンチェスター・シティとリヴァプールによる熾烈な優勝争いとともに、3~6位の4チームによるチャンピオンズリーグ圏争いという2つの激しいレースがこれからも続くプレミアリーグ。ヨーロッパのカップ戦にも数多くのチームが勝ち残っており、今シーズンのプレミアは例年になく面白い展開になってきたようだ。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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