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僕のコラムに年に一回ほど(あるいはもっと稀に)登場する火星人のサッカー記者。彼が、事前情報まったくなしでこの試合を見たとしても、すぐに状況を理解できたはずだ。
イングランド・プレミアリーグ第21節、マンチェスター・シティ対リヴァプールの大一番は、かなり特別なゲームだった。
首位のリヴァプールと2位のマンチェスター・シティの勝点差はすでに7もあった。もし、この試合でリヴァプールが勝点3を積み重ねたとすれば、勝点差はさらに広がって10。今シーズンの優勝争いはほぼ決着が付いてしまう。そんな状況だった。マンチェスター・シティとしては絶対に負けは許されないと同時に、ぜひとも勝点3を奪って追い上げ態勢を築きたいところだ。
マンチェスター・シティは、当然のように開始早々から攻めに出た。一方のリヴァプールは、いわばリードした立場である。しっかりと守備の立ち位置を確認しながら、いつもよりは慎重な入り方だった。
ユルゲン・クロップ監督の売りである「ゲーゲンプレッシング」も封印。前からチェックには行くものの、それはパスコースを限定するだけのもの。本気でボールを奪いに行ったりはしない。ボール回しのテクニックが高いマンチェスター・シティを相手に本気で行って、そこでかわされたら大ピンチになってしまう。前でチェックをかけながら、相手が無理に入れてくるボールを 2列目に入ったジョルジニオ・ワイナルドゥムやジェームズ・ミルナーがスライドしながらカットを狙うという重労働を担う。
やや重心を下げてスペースを消しながら守って、そして最大の武器でもある高速カウンターを発動する機会を窺う……。それが、この日のリヴァプールの戦略だった。
今シーズンのリヴァプールは、GKのアリソンや今やプレミア最高のDFとも言われるフィルジル・ファン・ダイクを中心にしっかりゲームをコントロールして守り切る力がある。
一方のマンチェスター・シティはぜひとも勝ちたい状況なわけで、当然攻めはするのだが、相手のカウンターへの警戒心が強いようで、ボールはいつも以上に早いタイミングで前線に入れて攻めてはいるものの、前線に多くの人をかけることはしない。全体にともに腰が引けているような印象も強く、膠着した状態が続いた。
いわゆる「決勝戦のような試合でもあった」。緻密に攻め合いはしたものの、前半のシュート数はともに2本ずつに終わる。
「かなり特別な状況での試合なのだ」
火星人の記者はそう感じたことだろう。そして、「きっと、ブルーのチームは何らかの理由で絶対に勝ちたい状況なのだろう」とも感じ取ったはずだ。
最大の決定機は、18分のリヴァプール。モハメデ・サラーがフィルミーノとのワンツーで抜け出し、最後はサディオ・マネがシュート。ゴールポストに当たって跳ね返ったボールがGKのエデルソンとDFのジョン・ストーンズの間で跳ね返って無人のゴールに向かった。それをストーンズが執念のクリア。画面からはゴールラインを越えたようにも見えたが、ゴールラインテクノロジーは、ボールが完全にはゴールラインを割っていないことを示した。
もし、ここでリヴァプールに先制点が入っていたら、追加点の可能性も高かった。リヴァプールは優勝に大きく近づいたかに見えた大きな意味のある瞬間だった。
そして、先にゴールを決めたのはマンチェスター・シティだった。クロスの跳ね返りを拾ったベルナルド・シウヴァが強引に左から持ち込んでクロス。受けたセルヒオ・アグエロがそのまままったく角度のないところからGKの肩口を打ち抜く強烈なシュートをゴールネットの天井に突き刺したのだ。
まさに、ワールドクラスのストライカーにしか決められないスーパーなゴールだった。
この試合はアウェーゴール・ルールが適用されるセカンドレグと同じだ。同点では物足りない状況だったのでマンチェスター・シティが最初から勝利のために攻めに出た試合であり、実際には0対0であるのに、リードしているのと同じ状況のリヴァプールが守っていた試合だった。だが、マンチェスター・シティに先制ゴールが生まれたことで、後半はリヴァプールが攻撃に出ざるを得ず、一方のマンチェスター・シティは早くも1点を守る意識が高くなる。
布陣を変えたわけでもなければ、選手交代を使ったわけでもないのだが、ゲームの流れ、両チームの意図が明らかに変化した。そして流れをつかんだ時点でようやくクロップ監督が動く。ファビーニョを投入して、サラーをトップにフィルミーノをトップ下に置く、最近よく使っていた4-2-3-1に変更。これで、マンチェスター・シティの前線へのボールの供給も遮断して、リヴァプールが完全にゲームをコントロールした。
そして、69分にはリヴァプールが同点に追いついた。右サイドバックのトレント・アレクサンダー=アーノルドから左サイドバックのアンドリュー・ロバートソンへの大きなサイドチェンジ。折り返したボールにフィルミーノがフリーで合わせたもの。
ところが、マンチェスター・シティはすぐにカウンターからレロイ・サネが決めて再びリード。これで、ゲームの性質はまったく変わった。
それまで攻める側と守る側にはっきり分かれた特殊な状況の中で、冷静な計算の下に進められていたゲームが一気にヒートアップ。最後の20分間はパッションとパッションがぶつかり合う激しい攻め合いとなり、リヴァプールにも同点ゴールのチャンスはあったものの、2対1のスコアのままで終了。プレミアリーグの優勝の行方は、この両者の一騎打ちの様相を深めることとなった。
ゲームとしては膠着状態の時間も長く、シュート数も9本対7本と少なめの試合だったが、「勝点差7」という特殊な状況を考え合わせるとよく理解できる試合だった。熱くはあっても冷静で緻密な計算ずくの試合。火星人記者も、地球最高峰の試合を堪能できたようだ。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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