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試合の終盤、ベンチに座ったウナイ・エミリ監督の満足げな表情が映し出された。
ホーム、エミレーツ・スタジアムで行われた「ノース・ロンドンダービー」。トッテナム・ホットスパーとの上位対決だった。そして、この試合でウナイ・エミリ監督がこのベンチに座ることを、すべてのアーセナル・ファンが認めたはずだ。
アーセン・ヴェンゲル監督による長期政権の後に就任したウナイ・エミリ監督。ヴェンゲルという独特のスタイルを持ち、大きな実績も残した監督は、1930年代のあのハーバード・チャップマンと並ぶアーセナルの名物監督と言ってもいい存在だった。その後任として、ウナイ・エミリ監督にとって、これまでは何かと言われれば前任者と比較される中での苦しい戦いだったことだろう。
しかし、この「ノース・ロンドンダービー」に勝利したことによって、新監督はエミレーツ・スタジアムにいるすべての人から信頼を勝ち得たはずだ。
相手は、同じロンドンのライバルである名門クラブ。そして、最近の2シーズンはそのトッテナムの後塵を拝したという苦い記憶が残った中での快勝劇だったのだ。アーセナル・サポーターとしては、嬉しくないはずがない。
しかも、守備の安定したトッテナムを相手に4得点を奪った完勝であり、内容的にも攻撃的で魅力的なサッカーをやりきっての勝利だった。
試合は、序盤戦からアーセナルが押し込んだ。
両サイドのウィングバックのエクトル・ベジェリンとセアド・コラシナツを走らせるのが基本的な崩しのパターンだ。とくに序盤戦で輝いたのが左サイドだった。ウィングバックのコラシナツにシャドー・ストライカーのアレックス・イウォビやヘンリク・ムヒタリアンが絡み、スピードで崩していく。そして、その勢いがトッテナムの右サイドバック、セルジュ・オーリエのミスを誘ってFKを獲得。そのFKのボールの競りあいの中でバランスを崩したDFヤン・ヴェルトンゲンがハンドの反則を犯してPK。これをピエール=エメリク・オバメヤンがきっちりと決めて、開始10分でホームのアーセナルがあっさりと先制した。
その後も、アーセナルの攻勢は衰えなかった。
大きなパスが行きかって、グラウンドを広く使ったスピードある攻撃には迫力があった。そして、オバメヤンやイウォビなどが何度も決定機をつかんだのだが、シュートはトッテナムのGKウーゴ・ロリスにことごとくブロックされてしまう。
もし、先制ゴールが生まれた後の10分間の攻勢で2点目が奪えていれば、試合は決まり。アーセナルの一方的な完勝となっていたのかもしれない。
ところが、ここで粘り腰を見せたのがトッテナムだ。
ロリスらの鉄壁の守備で失点を防ぎ、キレキレの孫興民(ソン・フンミン)を走らせてカウンターを狙っていたトッテナム。30分には左サイドでクリスティアン・エリクセンが蹴ったFKにエリック・ダイヤーが頭で合わせて同点とすると、4分後には孫興民がペナルティエリア内で倒されたという判定で、トッテナムにPKが与えられ、あっという間にトッテナムが逆転してしまう。
このPKの場面、孫興民はロブ・ホールディングとベジェリンに挟まれており、接触はあったかもしれないが、PKというのはあまりに厳しい判定。もし、プレミアリーグでもVARが導入されていれば、取り消されていたかもしれない微妙な判定だった(その後は、孫興民にボールが渡るたびに、エミレーツ・スタジアムに口笛が鳴り響くこととなった)。
決められる場面で決め切れず、セットプレーから失点して逆転されたアーセナル……。いわゆる「嫌な展開」という流れである。前半終了間際にも攻勢をかけてチャンスを作ったものの、やはり決め切れずにハーフタイム。後半、再び盛り返せるのかが注目された。
すると、後半に向けて、ウナイ・エミリ監督はシャドー・ストライカー2人を同時に変える思い切った交代策を選択した。
ムヒタリアンにしても、イウォビにしても、特にプレーが悪かったわけではないのだ。いや、迫力ある攻撃の主役だったと言ってもよかった。それを、ハーフタイムであっさりと交代させるのは勇気ある決断だったはず。そして、この交代策が実際に効果を発揮して、アーセナルは後半も再びゲームを支配することに成功したのだ。
56分にはベジェリンからの長いパスを、交代で入ったアーロン・ラムジーが落として、オバメヤンがボックスの外から思い切ってシュートして早くも同点となる。
ラムジーは、その後も敵陣の深い位置でポイントを作って何度もチャンスを演出した。そして、終盤に入った75分と77分にアーセナルはさらに2点を追加して再逆転に成功するが、その2点ともラムジーが起点となったのだ。
再逆転劇を導いたのが監督の勇気ある采配によるものだったのだ。ウナイ・エミリ監督のあの満足げなドヤ顔も当然のことと頷ける。
圧倒したゲームの入り方から、早々と先制したものの、守備のミスと誤審(?)によるPKで逆転され、それを監督の采配によって再び盛り返して再逆転……。ホームの6万人のサポーターを満足させるに足る内容の試合だった。そして、パスをつないでビルドアップを図ったかつてのヴェンゲル時代とは違って、前へ前へと早く展開し、スピードボールで素早く左右に展開する速い攻撃も新しいアーセナルの魅力として定着し始めた。
勝点3を追加したアーセナルはこれで公式戦19試合無敗。リーグ戦でもトッテナムと勝点で並び、得失点差で上回って4位と順位を上げた。前半に露呈したようなセットプレーの場面を含む守備の不安定さが解決できれば、さらに上の順位を狙うことも可能だろう。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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