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森保一監督が就任して以来、見事な3連勝を飾った日本代表チーム。コスタリカやパナマに勝った時点では、まだまだ半信半疑だったが、正直言ってウルグアイ戦の勝利、そして、その勝ち方にはびっくりした。世間で「新ビッグスリー」とか呼ばれているという南野拓実、中島翔哉、堂安律の2列目3人の若手の積極的なドリブルでの仕掛け、遠目からでもシュートを狙う姿勢、そして、そのシュートを正確に枠に飛ばす技術は実にすばらしい。
3戦連続ゴールの南野は、ウルグアイ戦でも前半にパスを受けてターンして前を向き、そのまま相手DFを置き去りにしてゴールを決めたのだが、この時の対面の相手はワールドクラスのDFであるディエゴ・ゴディン(アトレティコ・マドリード)だったのだ。たとえ、ウルグアイ代表あるいはゴディンが本調子でなかったとしても、その価値はきわめて大きい。
ウルグアイの名将、オスカル・ワシントン・タバレス監督は、移動の負担が大きかったこと、メンバーを切り替えたばかりで日本の方が完成度が高かったことなどを敗因として挙げていた。
しかし、ウルグアイもたしかに若返りの過程にあるかもしれないが、日本もロシア・ワールドカップの時のメンバーはほぼ半分で、若い選手が集まって3試合目だったわけで、「日本の方が完成度が高い」というのはタラレス監督の思い違いでしかない。また、「ウルグアイから12時間の時差がある長旅の影響」と言うが、ウルグアイの主力はほとんどがヨーロッパのクラブでプレーしており、日本の選手もほとんどがヨーロッパ帰りなのだから、移動距離は同じということになる。
しかし、「日本の方が完成度が高い」というタバレス監督のコメントが嘘ではないような気がするほど、初めて一緒にプレーした選手も含めてコンビネーションも良かったのだ。
まあ、例によってセットプレーとミスから失点を重ねた点は今後の大きな課題だが、「3点取られても4点を取り返す」というスリリングな展開は見ていて久しぶりにワクワクした。
成績は一向に上がらず、内容もさっぱりで、やっている選手も楽しそうでなければ、見ていても気が滅入るばかりだったハリルホジッチ監督時代の日本代表とは、いったい何だったんだろう。わずか、半年前の出来事なのだが、遠い過去のような気がする……。
「過去」と言えば、またまた「遠い過去の話」と思っていた人物の名前がニュース面をにぎわしている。
そう、前アーセナル監督のアーセン・ヴェンゲル氏である。こちらもタバレス監督と同じプロフェッソール・タイプで、タバレスよりもちょっとだけ若い68歳のベテラン指導者だ。
インタビューに答えたヴェンゲル氏が「来年には現場に復帰する。代表チームかもしれないし、それが日本かもしれない」とコメントしたというのだ。
現在、森保監督の下で盛り上がっているからいいが、日本代表のチーム作りがもたついていたとしたら、今頃「ヴェンゲル監督待望論」で大騒ぎになっているに違いない。
ヴェンゲル監督は22年にわたってアーセナルを率い、昨シーズンを終えて5月に退任したばかり。つまり、ヴェンゲル監督が辞めたのはハリルホジッチ監督より最近のことなのである。だが、ハリルホジッチ監督時代の日本代表と同じように、「はるか昔のこと」のように感じるのは僕だけだろうか。
ハリルホジッチ監督の件は、「いい加減に忘れてしまいたい」という人間の心理によるものだろう。一方、アーセナル時代のヴェンゲルを「遠い昔」と感じるのは、やはり、アーセナルでの全盛時代というのがかなり遠い昔のことだからなのだろうか。ヴェンゲル監督がアーセナルでプレミアリーグやFAカップなどのタイトルを獲得し続けていたのは、2000年代の初め。つまり、もう10数年昔のことなのだ。その時の残像が、あまりにもまぶしすぎたからこそ、ヴェンゲル監督のことを「昔」の出来事のように感じるのだろう。
1人の指導者が、同じチームの監督を続けることには、当然、「継続性」という良い面と「マンネリ」という悪い面がある。ヴェンゲルのアーセナルでの22年には及ばないものの、タバレス監督もウルグアイ代表を率いて、2006年以来もう12年というベテランだ。やはり、こちらも「マンネリ感」は否めない。
その「マンネリ感」を跳ね返すには、絶えず何かを変え続けなければならない。
たとえば、マンチェスター・ユナイテッドで長期政権を維持したサー・アレックス・ファーガソンは常に何かを変えてきた。デービッド・ベッカムという中心選手にシューズを蹴りつけて退団させたかと思うとクリスティアーノ・ロナウドと契約するといったように、主力級の選手を変えてみたり、戦術担当のアシスタント・コーチを変えて、戦い方をどんどん変化させてみたりといった具合にである。
だが、自らの哲学へのこだわりが強かったヴェンゲルは、「変化」を実現できず、「マンネリ」が進行していった。
だから、今後、現場に復帰するとすれば「場」を変えるしかないのだろう。
だから、今回の復帰宣言(?)の報道でも、プレミアリーグのクラブの名前は出なかったのだ。もし、ヴェンゲルがアーセナルに復帰したら、その時点で「マンネリ」感が生じてしまうだろうし、アーセナルと同じプレミアリーグだったら、やはりヴェンゲルが監督としてスタジアムに姿を現した時点で「マンネリ」感が生まれることだろう。
その意味では、およそ四半世紀ぶりにJリーグに復帰するのは、悪い選択ではないかもしれない。ヴェンゲル監督が名古屋グランパスを率いて旋風を巻き起こしたのは、もう20年以上も昔のことだし、それも2年にも満たないごく短期間のことだった。だから、Jリーグはヴェンゲルにとって「新しい場」と言うことができる。
今回の発言で、わざわざ「日本」と名指ししたのは、実際に何かオファーのようなものがあったのかどうかはわからないが、ヴェンゲル本人にしても「新しい場」での挑戦と考えた時、心の片隅には「日本」という言葉が浮かんだのではないだろうか……。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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