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サッカー フットサル コラム 2018年10月4日

チェルシー対リヴァプールのスペクタクルはオープンでアグレッシブな両指揮官がもたらしたもの

後藤健生コラム by 後藤 健生
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プレミアリーグの第7節、チェルシー対リヴァプールの一戦。なんと言っても印象的だったのは、試合終了直後に両指揮官が満面の笑みを浮かべて互いの健闘を称え合った場面だ。試合後に指揮官同士が握手を交わすのは当然のマナーだろうが、あの瞬間のマウリツィオ・サッリとユルゲン・クロップの表情はそんな表面的な笑顔ではなかった。

自分たちのチームのパフォーマンスに満足するとともに、相手チームの戦い方をも称賛する。そんな気持ちだったのだろう。たとえば、自分たちがオープンで攻撃的なサッカーを志向していても、もし相手チームが引いてゴール前を固めてしまったら、望んだ通りの試合にはならない。自分たちの良さを引き出してくれるのは、相手チームなのだ。

これはJリーグでの話題だが、先日、浦和レッズ対柏レイソルの試合があった(第28節)。今季途中にオズワルド・オリヴェイラ監督が就任した浦和は、このところ内容が急激に良くなってきている。パスをつなぐ攻撃的なサッカーだが、たとえば同じパス・サッカーの川崎フロンターレに比べてパスの距離が長く(浦和の場合、平均で約15~20メートルくらいではないか)、パス・スピードも速く、奪ったら素早く前線にボールを送り込む意識が強い。

そういう、速いパスを前後に交換しながら、相手ゴールに殺到する。そんなサッカーが完成しつつあるのが今の浦和だ。

試合後の会見で僕はオリヴェイラ監督に訪ねてみた。

「あなたが鹿島の監督だったころには、それほどパス・スピードなど重視していなかったのではないか? 当時と、何が変わったのか」と。答えは「私(オリヴェイラ監督)が鹿島にいた頃は、相手チームが引いて守っていたので、速く前に行くことができなかった。今は、相手が攻撃的に来てくれる」といった内容だった。

なるほど……、である。

そこで、話題は再びチェルシー対リヴァプールの試合に戻る。

この試合は、90分間本当にオープンに、アグレッシブに攻め合った一つの作品として鑑賞に堪える好ゲームだった。

ファンやサポーターは貴重な時間とお金を使って観戦に来てくれるのだから、プロ選手たる者は、どんな試合でも100パーセントの力を発揮すべき存在ではあるが、それはやはり建前に過ぎない。人間である以上、試合によって気持ちの入り方が違うのは当然のことだ。プレミアリーグ開幕から6連勝というリヴァプールの選手たちも「上位対決」で気持ちが入っていたに違いない。逆に、迎え撃つホームのチェルシーにとっても、リヴァプールの好調さは大いに意識していたに違いない。

90分間、あれだけ休まずに戦えたのは、そんな背景もある。

と同時に、両指揮官が守りに入らず、オープンなチームを志向していることも、我々がこの好ゲームを目にすることができた大きな理由だ。

イングランドは、もともとアグレッシブなサッカーを好む国だった。遠い昔、フットボールの統一ルールが制定され、サッカーという新しいスポーツができた頃。ボールより前にいる選手は(現在のラグビーと同じように)すべてオフサイドだった。ボールを前に運ぶためには、ドリブルで押し込むか、キックを蹴り込んで後方から選手が殺到するしかなかった。パスで下げてしまっては、再びパスを前に送ることができないからだ。

その後、オフサイド・ルールが変更となり、前方へのパスが可能になってからも、昔風のドリブルやロングボールを使った攻防はイングランド・サッカーの華だった。だが、ヨーロッパ大陸でパスを使った緻密なサッカーが発展するとイングランドは弱体化してしまった。

一方、もともとパス・サッカーを志向していたドイツでは、1970年代以降スピードを追及するあまり、雑でもいいから早いタイミングでボールを前方に送り込み、受け手が走ってパスつなぐというサッカーが横行。「ドイツのサッカーは、強いけれども面白くない」と酷評を受けるようになった。

イングランドでは、その後、フランス人やスペイン人、ポルトガル人の指導者が何人もやって来てサッカーの近代化を進める。だが、ポゼッション志向のサッカーは今一つイングランドという風土にしっくりこないところもあった。

一方、ドイツでは1990年代に国際舞台で苦戦を強いられたところから、選手の育成が見直され、テクニックのある選手が育ち、そんな技巧的な選手がスピードとアグレッシブさを追求するサッカーで復活を遂げ、世界に冠たるドイツ・サッカーの地位を取り戻した。

そのドイツで、最もアグレッシブな「ゲーゲンプレッシング」のサッカーを確立させた若い世代の指導者であるユルゲン・クロップが満を持してプレミアリーグに参戦。その、アグレッシブなスタイルが定着して、リヴァプールは一躍プレミアの強豪の座に返り咲いた。

イングランドという風土にも合致した、新しいスタイルのチームだ。

チェルシーのマウリツィオ・サッリは、もちろんイタリア人指導者だ。

イタリアのサッカーは、かつては勝負にこだわり、互いに相手の良さを消し合う駆け引きに終始する時代もあったが、最近のイタリアは「戦術的に細かくて忠実」という特徴は昔ながらではあるが、けっして守備的ではなくなってきている(というより、守備の上手いイタリア人DFが減少している)。そんな、新しい世代の指導者の代表がサッリなのだ。

イングランドというアグレッシブなサッカーが似合う舞台で、ドイツ人とイタリア人指導者同士がオープンでアグレッシブなサッカーを引っ提げて戦った。それが、先日のチェルシー対リヴァプールの試合だったわけだ。

もちろん、「だから、このスタイルが今後のサッカーの主流になっていくだろう」というほど、僕は楽観的ではない。リアクション・サッカーが最も効率的に勝つ方法であることは、100年前も現在も、そしてこれからも変わらない真理だ。したがって、そういう守備的なスタイルと、アグレッシブなスタイルがこれからも鋼材していくことは間違いない。

それにしても、チェルシーとの上位対決を終えたリヴァプールは、ミッドウィークにはチャンピオンズリーグのナポリ戦があり、さらに翌週末にはプレミアリーグ第9節でリーグ首位に立ったマンチェスター・シティとの決戦も控えている。なんというスケジュールだ!

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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