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日本代表の試合を振り返る「蹴球日本代表監督史」。現在放映されているのは2001年11月のイタリア戦(1対1)である。
僕は、この試合はフィリップ・トルシエ監督時代の中でも白眉の試合だったとずっと思っていた。そして、実際、この番組で見直してみて確信を深めた。これは間違いなく日本代表の過去の試合の中でも特筆すべき試合だ、と。当時、この試合を見ていないという若いファンの方にはぜひ見ておいてもらいたい。
現在の目から見ても、まったく遜色のない本当に強い日本代表だ。その後、このイタリア戦を凌ぐ試合と言えば、先のロシア・ワールドカップにおけるベルギー戦くらいしかないのではないか。
前からの激しいプレッシング。中盤でのボール奪取能力に長けた稲本潤一と戸田和幸のボランチ・コンビ。とくに、ボールを奪ってからの稲本の前への推進力は実にパワフルだ。また、左サイドで起点を作る小野伸二の超絶のテクニック(トルシエ監督は、小野や中村俊輔をサイドに置いて、そこに起点を作るようなことをトライしていた)。また、前線の柳沢敦、高原直泰、鈴木隆行の攻撃力と積極的にシュートを狙う姿勢。そして、後半から出場の中田英寿の体幹の強さ……。さらに、フィリップ・トルシエ監督が時間をかけて整備してきた守備も実に粘り強かった。
その後、数々の紆余曲折があって弱体化することもあった日本代表だけに、かつての姿を知らない人たちは「現代、つまりロシア・ワールドカップでの日本代表が史上最高」と思っているかもしれないが、過去にも素晴らしいチームはたくさんあったのだ。「黄金世代」と言われた世代の天才プレーヤーたちが輝いていた当時の試合のレベルは非常に高かった。
若いうちからヨーロッパに渡って鍛えてきた現在の代表選手たちと違って、多くの選手がJリーグで戦っている時代だったが、それでもあれだけのチームはできたのである。
完成したばかりの埼玉スタジアム2002のピッチが軟弱だったことなど、懐かしい、あるいは日本サッカー全体が未熟だったことを示すような事実も散見できるが、この時のチームが本当に魅力的で強かったことを思い出す。
もちろん、これは親善試合なのだが、相手のイタリアはGKのジャンルイジ・ブッフォンをはじめ、DFにはアレッサンドロ・ネスタ、ファビオ・カンナヴァーロ、攻撃陣にはフランチェスコ・トッティやアレッサンドロ・デルピエロ、フィリッポ・インザーギなど、当時世界最高峰リーグだったセリエAのスター選手たちが並んでおり、しかも日本チームの激しいプレーに呼応して、イタリアも実に激しいインテンシブな試合を繰り広げている。あの、ジェンナーロ・ガットゥーゾが本気モードで襲い掛かって来るのだ。
さて、僕は冒頭にこの2001年11月のイタリア戦がトルシエ監督時代の試合の「白眉」だと書いた。
トルシエ監督のチームは、もちろん、翌2002年の日韓ワールドカップでベスト16に進出することになる。ベルギーと引き分け、ロシアに対してワールドカップでの初勝利を記録。チュニジアに完勝するのだ。最後のトルコ戦は不完全燃焼に終わったものの、まあ、称賛すべき成績だった。
しかし、2002年の日本代表からは、あのイタリア戦のころの勢いは感じられなかった。
2000年の夏ごろに完成の域に近づいた日本代表は、シドニー・オリンピックでベスト8に進出。そして、10月のアジアカップ(レバノン)では圧倒的な強さで優勝。しかし、2001年に入ると、まずフランスとの試合で0対5の完敗を喫し、次のスペイン戦では守備的に戦って、なんとか0対1で凌ぐ苦しい戦いの中でアジア仕様から世界仕様への切り替えを進め、6月のコンフェデレーションズカップで準優勝と結果を出し、いよいよ世界と戦えるチームが完成した。つまり、2000年夏から2011年にかけてチームは完成度を一挙に高めていく時期にあり、そこに勢いが感じられたのだ。
だが、2002年に入ると、完成したチームを維持するだけになってしまった。たとえば、柳沢敦をサイドに置くといった奇策を使って、トルシエ監督は新鮮さを盛り込もうと腐心したのだが、2002年に入ってからの親善試合では前年のようなエネルギーは感じられなかった。
ここが、チーム作りというものの難しさである。もちろん、チームの完成度は早く上げたいのだが、チームが完成形に達してしまうと途端に勢いが失われてしまうのだ。
同じような現象は2014年ワールドカップを目指したアルベルト・ザッケローニ監督のチームにもあった。2013年のコンフェデレーションズカップでは連戦の強行日程の影響もあって敗退はしたものの、イタリアなどに善戦。秋のヨーロッパ遠征ではオランダに逆転勝利を収め、ベルギーと互角の撃ち合いを演じて見せた。だが、それをピークとして、それ以後はチーム内から雑音が漏れ出すようになり、コンディション調整にも失敗して、ワールドカップ本大会では1分2敗に終わってしまう。
日本代表は、過去6回のワールドカップで3度グループリーグ突破を果たしているが、そのうちの2度、2010年南アフリカ大会と2018年ロシア大会は、いずれも直前までまったく結果が出ず、惨敗を覚悟したような状況でのことだった。
2010年の場合は、親善試合で惨敗を繰り返し、大会直前に守備的な戦い方に切り替え、メンバーやシステムを変更して、そのままの勢いで大会に臨んだもの。そして、2018年は、日本サッカー協会が大会3か月前に監督交代という賭けに出て、その危機感をバネに結果を出したものだ。
こうした過去を考えると、ワールドカップ終了直後から次のワールドカップまで4年近い年月を1人の監督に任せるのは少し長すぎるのではないかと僕は思っているのだが……。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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