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欧州の2018/19シーズンもいよいよ本格化。各国リーグ戦は序盤の「慣らし運転」期間が過ぎて本格的に始動し、そして、チャンピオンズリーグやヨーロッパリーグの戦いも始まった。強豪クラブにとっては気の抜けない戦いが続くことになる。
そのチャンピオンズリーグ第1節の最大の注目カードは、何と言ってもリヴァプール対パリ・サンジェルマン(PSG)の一戦だったろう。プレミアリーグで開幕5連勝と絶好のスタートを切ったリヴァプール。そして、こちらも5連勝スタートで、念願のチャンピオンズリーグ初制覇を狙うPSGの戦いだった。
好調リヴァプールは、チャンピオンズリーグ開幕節の直前にはトッテナム・ホットスパーと対戦して勝利を収めていた。終了間際のアディショナルタイムに1点を返されたものの、1対2の勝利は内容も伴った完勝ではあった。だが、チャンピンズリーグに向けて万全だったかと言うと、いくつかの不安を抱えたようにも見えたのだ。
攻撃力は、もちろんまったく問題ない。フィルミーノをトップに、モハメド・サラーとサディオ・マネを配した3トップは昨年以上に機能している。
しかし、気になったのは、前線の3人が孤立し、サポートがない場面が何度かあったこと。
もちろん、3人だけで得点できる力があるのでそれでもいいのかもしれない。前半のうちにCKから先制し、後半にも左のマネからのクロスに相手DFが処理を誤るところをフィルミーノが決めて2点を奪って完勝したが、やはり強力な相手との闘いではそれだけではすまないのではないか。
逆に、守備面でも相手がロングボールを蹴り込んでくると最終ラインが押し下げられ、DFラインとMFの間にスペースができてしまう……。そう、全体として縦に引き伸ばされてしまうのだ。
このトッテナム戦でやりにくかったのは、ウェンブリー・スタジアムの重い芝生のせいでもあった。
本来なら、このリヴァプール戦からトッテナムはかねて建設中だった新スタジアムが使用できるはずだった。ところが、安全上の問題で開場が延期となり、昨シーズンからトッテナムが仮の本拠地として使用していたウェンブリーでの開催となったのだ。だが、ウェンブリーの芝生はサッカー場というよりラグビー場のように、芝目が長めでボールが走れなかったのだ。
もちろん、コンディションは両チーム同じだとはいえ、リヴァプールの方がよりスピードを重視するスタイルだし、なにしろトッテナムはそれなりに準備ができているはずで、影響は間違いなくリヴァプールの方が大きかった。
また、トッテナムはリヴァプールのスピードを警戒し、中盤でリヴァプールのスピードを殺し、また、自分たちの攻撃の局面でもスピードを抑制し、試合のリズムが上がらないような戦い方を選択してきた。
つまり、完勝はしたものの、トッテナム戦ではかなりの課題があったように僕には思えたのだ。ところが、チャンピオンズリーグのPSG戦では、アンフィールドに帰ったリヴァプールが完璧なゲームの入り方を見せた。
トップのアタッカーだけでなく、両サイドをワイドに使い、また、3トップとMF、最終ラインとMFの間のスペースも消し、全体をコンパクトにして戦うことができていた。選手間の距離もしっかり保たれ、おかげで高い位置でボールを奪った瞬間に常に複数のパスコースができていたから、即座にショートカウンターを発動できるというわけだ。
また、攻撃力を誇る3トップも厭うことなく走り、前線から守備をするし、ジョーダン・ヘンダーソンやジェイムズ・ミルナーが巧みな守備でPSGの攻撃の芽をすべて刈り取ってしまった。
押し込んだ展開の中でなかなか得点ができなかったが、前半の30分に左クロスをベンチスタートのフィルミーノに変わってトップに入っていたダニエル・スタリッジが決めて先制。さらに、6分後にはサラーが持ち込んだボールを受けたワイナルドゥムがファウルを誘ってPKを獲得。ミルナーが決めて2点を先行した。直後にトーマス・ムニエに1点を返され、さらに終盤にはネイマールに持ち込まれ、キリアン・ムバッペに同点ゴールを許して同点とされてしまったが、最後は後半の途中から入っていたフィルミーノが確度のないところから決めて、劇的な勝利をもぎ取った。
3対2とかなり出入りの激しいゲームにはなったものの、「死の組」とも言われるグループCの初戦で貴重な勝点3を獲得した。興味深かったのは、内容的にトッテナム戦とはまったく違った試合になったことだ。
間伸びしていた陣形はすっかりコンパクトになり、攻撃の際には3人目、4人目がどんどん関与してくるから、分厚い攻めができる。そして、自分たちのリズムでボールを奪ってからのスピードも素晴らしく、ショートカウンターの威力も大きかった。
トッテナム戦とは、何が違ったのだろうか?
まず、ホーム、アンフィールドのピッチは、ウェンブリーのピッチと違って、リヴァプールのとってうってつけの芝目の短いピッチで、リヴァプールの選手たちは、思い切ってアップテンポのプレーができたのだ。
また、戦略的にリヴァプールの攻撃を遅らせようとしたトッテナムとは違って、PSGを率いるトーマス・トゥヘル監督も、ユルゲン・クロップが率いるチームを相手に、一歩も引かないゲーゲンプレッシングを繰り出して戦いを挑んできた。意地のぶつかり合いだ。やはり、リヴァプールとしては、リズムを遅らせようとしたトッテナムよりも、相手もアップテンポで来るPSGの方がやりやすかったのだろう。
課題を簡単に修復したリヴァプール。チャンピオンズリーグで強力な相手と戦ったことをテコにして、課題を大幅に改善したようだ。このままだと、連勝はまだ続く……?
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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