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サッカー フットサル コラム 2018年9月15日

フィリップ・トルシエの思い出 日本人監督だと安心に思える理由とは……

後藤健生コラム by 後藤 健生
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インターナショナルマッチ・ウィークのために海外リーグはお休み。そこで、空いた時間を利用して「蹴球日本代表監督史」を見た。やっていたのは1999年3月の日本代表対ブラジル代表の試合。懐かしい国立競技場である。フィリップ・トルシエ監督が就任して本格的に始動した直後の試合で、解説には試合に出場していた伊東輝悦氏とトルシエ監督の通訳(アドバイザー)だったフローラン・ダバディ氏。

20年近くも前の試合だが、僕の中でのイメージ以上に日本代表は善戦していた。最近はブラジル代表と試合をすると、軽くあしらわれてしまうことが多い。ブラジルには、「日本にはボールを持たせておいても怖くない。カウンターで仕留めれば勝てる」と思われているフシがある。たとえば昨年10月にフランスのランスで対戦した試合がそうだった(ブラジルは前半のうちに3点を取ると、あとは流してしまった)。ところが、20年前のブラジル戦はそれなりに日本代表が戦っていた……。

それにしても、あの頃は日本のサッカー界にとっては素晴らしい時代だった。「去年よりは今年の方がJリーグのレベルも、代表のレベルも間違いなく上がっている。来年は、さらに強くなるはずだ」と本気で信じることができた時代だった。このブラジル戦の直後には、同じくトルシエ監督が率いるU-20日本代表がワールドユース選手権(ナイジェリア)で準優勝することになる。

トルシエ監督も、まだとても若々しい表情をしている。
これから2002年ワールドカップに向けて新しいチームを立ち上げていこうという、そんな段階での代表戦だった。現在、ロシア・ワールドカップを終えた日本代表は森保一氏を監督に迎えて、新たな一歩をしるしたところだ。ちょうどそんな時期に、若きトルシエ監督を見ると、いろいろな思いが頭の中を駆け巡る……。

トルシエも若かったが、僕もまだ若かった。そして、僕は「反トルシエ論者」の急先鋒だった。

このブラジル戦から1年ほど後に、あるサッカー専門誌で「トルシエ監督を解任すべきか?」というアンケートがあった。編集部としては賛否半々になるようにと考えて回答者を選んだらしいのだが、他の回答者は日和ったようで「解任すべき」と回答したのは僕ひとりだった。

それを知ったトルシエも、僕のことを「敵」と認識したようで、記者会見などで僕が手を挙げると真っ赤になって反論してきたものだ……。

もっとも、その後は僕にもトルシエの目指している方向性が理解できたので、最終的には僕はトルシエ支持者となった。今では、「フィリップ・トルシエはこれまで日本代表を指導した外国人監督の中でも一番良い仕事をした監督だった」と思っている。そして、最終的にはトルシエも僕のことを信頼してくれるようになって、時々「ゴトー、こんな時はどうしたらいいと思う?」と話しかけてくることもあった。

今となっては、すべてが懐かしい思い出である。
では、最初の頃に僕はなぜトルシエのやり方を否定していたのか。それは、彼が最終的にどういうチームを作ろうとしているのか、まったく見えなかったからだ。

監督の指導法にはいろいろある。ゲーム形式のトレーニングをしながら、笛でプレーを止めて、その場その場で指示を与えるような指導法もある。南米の指導者に多いやり方だ。こういうやり方だと、全体が少しずつ改良されていくので、進歩が実感しやすい。

だが、トルシエのやり方は違った。毎日のトレーニングには一回ごとに狙いがあり、まるで「今日はレッスン1。明日はレッスン2……」といったように積み上げていくやり方だった。

そして、トルシエは最初は例の「フラット・スリー」を中心に、最初は守備ばかりやっていたのだ。だから、ボールを奪ってからどのように攻撃につなげていくのかが、なかなか見えてこなかったのである。もちろん、「自分のやり方はこうなのだ」、「将来はこういう方向でやっていく」ときちんと説明してくれればよかったのだが、トルシエはコミュニケーションがうまい人物ではなかった。

そういったトレーニングが積み重ねられ、ようやくボールを奪ってから、相手陣内にボールを運んでいくプロセス(トルシエが「オートマティズム」と呼んでいたもの)がようやく見えてきたのが2000年の夏だった。だから、その頃になって僕はトルシエに対して信頼を抱くことができたというわけである。

おそらく、トルシエが実績を積んだアフリカの各国でも同じようなやり方をしてきたはずだ。だが、トルシエがアフリカ諸国でどんな仕事をしてきたかは、何も知らなかった。たとえば、アルベルト・ザッケローニのようにセリエAで見てきたような指導者であれば、この監督なら、これからどんなやり方で強化していくのかと想像もできる。だが、一般に、外国人指導者の場合は先が見えないことが多い。

日本代表は、4年後を見通して、森保一を監督に迎えた。森保であれば、選手時代からさんざん見ている人物だ。サンフレッチェ広島でどんなチームを作ったのかも知っているし、何度も話をしたことがある。

その森保監督の初陣となったコスタリカ戦は、あまり「森保色」の濃い試合ではなかった。選手が慣れ親しんでいる4-2-3-1の並びで、選手たちにはまだ細かい戦術的な指示は与えず、「それぞれ自分の特徴を発揮するように」と働きかけての試合だった。

それで、選手たちが力を発揮してコスタリカに完勝した。  だが、これがどういうやり方をするか知らない外国人監督だったら、「なんだ、何も仕事をしていないではないか!」と不安にかられたことだろう。

日本人監督だと「なぜか安心」と思えるのはこのためなのだろう。  しかし、やり方を知っているからということで、見る眼が甘くなってはいけないだろう。ザッケローニの時には、なんとなく「知っている人だから」という安心感があって、批判的な目でみることができなかった。

森保一は気配りもできる、素晴らしい指導者、素晴らしい人物だ。だが、代表監督となった以上は、こちらも緊張感を持って批判的に見ていかなければならないのだろう……。

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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